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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:猫

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99/141

Side:猫9

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 脱出のチャンスは、意外と早く訪れた。

 ビアの家はリーンの家とは違い、部屋が区切られていた。あたしはリビングにベッドが用意され、ビアは別の部屋で寝ることになったのだ。

「一緒に寝たりしない……よね?」

 寝る前に、一応ビアが訊いてきたが、無視してやった。

 流石に敏い女なので、それ以上は粘ってくることはなく、ビアはあたしを一撫でして、「おやすみ~」の言葉と共に、自分の寝室へ消えていった。

 リビングに残されたあたしは、ビアが寝た頃を見計らって、物音をたてないように気を付けながら、行動を開始した。

 このリビングには大きな窓があり、その向こうには屋根がある。

 窓際から外を見てみるが、今のあたしの身体能力なら、屋根から塀などを伝って、地面に降りるのは難しくなさそうだ。

 問題は窓だが、簡易の回転式の鍵がついているだけなので、外すのは簡単だ。

 こればかりは、人間時代の知識が物を言った。

「じゃあ、リーンの家へゴー!」

 あたしは爪を引っかけて鍵を外し、そっと窓を開けて外へ出た。

 そのまま、窓を屋根と塀と壁を伝って、無事に地面に着地。

 問題は、リーンの家までの道だが、それも問題はない。

 あの檻の中で、あたしは闇雲に泣き叫んでいたわけではなく、しきりに外を観察して、道を覚えておいたのだ。

 加えて、動物には帰巣本能とかいうものがあるらしく、何となくリーンの家の方向がわかった。

「これなら、楽勝だぜ。」

 夜なので、あの自動で動く鉄の塊なども殆どいない。

 あたしは意気揚々と、リーンの家へと歩いて行った。


 思ったより距離があったが、夜明け前にリーンの家にたどり着いた。

 確か一階の、向かって右から三番目のドアだ。

「おーい」

 ドアの前でリーンを呼んでみたが、反応がない。

 まぁ、時間を考えれば、まだ寝てるか。

 流石に、このドアは開けられないから、しばらく待つしかないか。

 日が昇れば、その内出てくるだろ。

 ……と、思っていたら、ドアの向こうからドタバタ物音がし始めた。

 これはラッキーかも。

 そう思っていたら、突然ドアが開いた。

「ただいまー」

「うわっ!?」

 リーンが出てくるなり、後ろにのけ反った。


 半日ぶりにリーンの家へ入ると、リーンがビアに連絡をとったらしい。

「ったく、御船さんが心配してたぞ?」

 リーンは溜息混じりに言いながらも、膝の上に乗せてくれた。

 やっぱ、ここがいい。

 だが、問題はここからだ。

 多分ビアがすぐにやってくるだろう。ここから、どうやって粘って、ここでの暮らしを勝ち取るか……

 とりあえず、泣き叫べば何とかなるか。

 なんて考えていたら、汗だくになったビアが、あの檻を持ってやってきた。

「申し訳ありませんでした。私の監督不行き届きです。」

 ビアが深々と頭を下げた。

「いえ、初日だったから仕方ありませんよ。こうして、クロも無事でしたし、気にしないで下さい。」

 リーンがそう言った、その時だった。

 突如、ビアがボロボロと泣き始めた。

「私、つい、舞い上がっちゃって……前に飼ってた猫がいなくなって、父もいなくなって、しばらく一人だったから……クロちゃんは、河瀬さんの大切な家族なのに……」

 えっ、嘘だろ?そんなに泣く?

 予想外の展開に、あたしは狼狽えたが、リーンのほうも大慌てだ。

「御船さん、あの、泣かないで下さい。俺は怒ったりしてませんし、クロも御船さんのことが嫌いとか、そういうわけじゃないと思いますので。なぁ、クロ?」

「あ、あ、当たり前だろ!」

 ビアが泣いてるところなんて、人間だった時代にも、一度も見たことがなかった。

 あんな壮絶なリーンとリアの死の場面ですら、ビアは気丈に涙を見せずに頑張っていたのだ。

 それが、たかがあたしがいなくなっただけで、こんなに泣くなんて……

「すみません……」

 しばらくリーンが執り成して、ようやくビアは泣き止んだ。


 その後、抵抗できる雰囲気ではなかったので、あたしはすんなり檻に入れられ、ビアの家へ戻ってきてしまった。

 もちろん、リーンも一緒だ。

 ビアの家へ着くと、二人は朝飯の用意を始め、あたしも一緒に飯となった。

「本当にすみませんでした。クロちゃんの脱走を許した上に、大泣きしちゃって……」

 ビアが食べながら、改めて謝罪した。

「いえ、クロのことをそれだけ思ってくれてるってことなので、俺はむしろ嬉しかったですよ。泣くほど心配してくれる人がいるなんて、あいつは幸せ者ですよ。」

 結構、そっけなく接していたつもりだったんだけど、それでも泣くほど、あたしのことを心配してくれてたのかよ……

 罪悪感湧くから、やめろよ。

「実は、以前飼っていた猫が亡くなってから、割とすぐに父も亡くなったんです。なので、一気に独りぼっちになっちゃったんですよね、私。」

 ビアはぽつりぽつりと語りだした。

「つらかったですか?」

 リーンが恐る恐る尋ねる。

 すっげぇ、探り探りやってるな。

「いえ、猫が亡くなった時は、父も体調を崩していたので、入院とかその後の葬儀とかで、つらいと感じている暇はありませんでした。父が亡くなった後は、店の経営に必死で、それどころじゃありませんでしたし……」

 まぁ、人が死んだ時って、そんなもんだけど……

「そうですか……でも、それって、寂しさとかつらさを感じる余裕がなかったっていうだけの話で、心が傷ついてなかったわけではなかったんじゃないですか?」

 リーンの言う通りだぞ。

「……そうですね。自分では気付いてませんでしたけど、思ったより寂しかったのかもしれませんね。河瀬さんと働いたり、クロちゃんのお世話をしたりするのが、想像以上に楽しくて、ついつい調子に乗ってしまいました。その果てが今回の騒ぎですから、始末に負えませんよね。」

「まぁ、元気出せよ。」

 仕方がないから、スリスリしてやる。

 今回のことはあたしのせいだからな。特別だぞ。

「クロさんによると、そんなことないとのことです。」

 リーンがそう言うと、ビアはまた涙目になってきた。

「あー!泣かないで!えっと、俺にできることなら、何でもしますんで!」

 おいコラ、また泣かすんじゃねぇよ!

 あたしはスリスリするとか、膝に乗るくらいしか、慰める方法がねぇんだよ。

「本当に?」

「えっ?何ですか?」

「本当に、何でもしてくれます?」

 ビアが目をウルウルさせながら尋ねた。

「勿論です!」

「では、今日は泊まっていってくれますか?」

「はい!……え?」

 なんだと……!?

 これは、却ってやらかしたんじゃないか、あたし……

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