Side:猫6
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
二日後。
「じゃあ、がんばって行ってくる……って、言いたいところなんだけど。」
あたしはリーンの膝の上から、頑として動かない所存だ。
ここで行かせてしまったら、ビアの思う壺だ。
「参ったなぁ……クロ、これに行かないと、ご飯が食べられなくなるんだぞ。」
「やだっ!」
「そうなったら、俺もおまえも共倒れだぞ。」
「やだっ!」
「心配してくれるのは嬉しいけど、必要なことなんだって。」
「やだっ!」
「仕方ないな、ちょっと我慢しろ!」
リーンはそう言ったかと思うと、あたしを掴み、無理やり降ろそうとしてきた。
「やだぁー!!」
必死に抵抗したが、所詮は子猫。
力では敵わず、お気に入りのクッションに置かれてしまった。
「じゃあ、行ってくるから、大人しくしてな。」
「やだー!行くなー!やだー!」
玄関まで必死に追おうとしたが、すんでのところで素早く扉を閉められた。
「やだー!帰ってこい!ビアの策略に乗るんじゃねぇー!」
しばらく喚いてみたが、リーンは戻ってきてくれなかった。
その日は一日、不貞腐れて過ごした。
リーンが帰ってきたのは、暗くなってから。
「ただいまー……」
帰ってきたな、裏切り者め。
今日は出迎えてやらねぇ。
「あれ?クロ?」
リーンが覗き込んでくるが、無視だ。
「クロー?どうしたー?」
リーンが手を伸ばしてきた。
「触んな!!」
威嚇してやると、リーンは慌てて手を引っ込めた。
「えー……どうしたんだよぉ……」
再度、撫でようとチャレンジしてくるが、追い払ってやった。
「どーしたもんかなぁ……」
リーンはしばらく困ってから、餌の用意をし始めた。
「ほら、ご飯だぞ。」
……まぁ、食べないと死ぬからな。餌は食べてやる。
そのまま、餌を食べていると、リーンがちょいちょいと構ってきた。
で、その相手を少しずつしているうちに、気が付いたらいつものように膝の上に乗っていた。
しまった。
「……猫のご機嫌取りって、こんなに大変なのか。」
リーンは溜息混じりつぶやき、頭を撫でてきた。
くそっ、我ながらちょろい。
翌朝。
リーンが寝る前、少し不安そうにしていたので、今日は特別に起こしてやることにした。
体の上に乗って、前足で顔をちょいちょいとしてやる。
すると、リーンは目を覚ました。
「おはよう。」
そのまま、ゆっくりと起き上がった。
あたしが来る前、朝起き上がれなくて職を失ったらしいが、今日は顔色もいいし、表情も明るい。
「……大丈夫そうだな。クロと、御船さんのおかげかな。」
リーンは頭を撫でくれた。
ビアはともかく、あたしには感謝しろ。
ただ、こうなると、今日もリーンはビアの元へ行ってしまう。
それはまだ嫌なのだが、リーンの状況は少しずつよくなっているようだし、何よりあたし達の食い扶持を確保してもらわなければならない。
人間だった頃と違い、あたしは食い扶持を稼ぐことはできない。
だから、リーンに頼るしかないし、延いてはビアに頼ることしかない。
ああちくしょう、昔も今も、どうにもビアには勝てないなぁ。
……なんて考えていたら、あっという間に日が暮れてしまった。
「ただいま。」
リーンが帰ってきた。
「おかえりー」
今日は出迎えてやるか。
「とりあえず、お前の食い扶持は確保できそうだ。贅沢はできないけどね。」
リーンは嬉しそうに撫でてきた。
「ただ、書店員は思ったより重労働だなぁ。」
どうやら、結構な重労働らしい。
それから二日後の夜だった。
リーンがでかい袋を二つも持って帰ってきた。
あたしの用品を買ってきた時以外では、初めての光景だ。
「なんだ~?」
「まぁ、そう変な顔をするなよ。」
リーンはそう言って、冷蔵庫とかいう食料を入れるものに食べ物を入れていく。あの食糧庫がいっぱいになるのも、初めて見た。
「マジでなに~?」
「未だかつてないくらい、冷蔵庫が埋まったなぁ……」
「だから、どうした?」
リーンがいつもと違うことをやり出すと、どうにも不安を掻き立てられる。
そして、その不安は的中した。
しばらくして、ビアがやってきたのだ。
「マジかよ……」
「おまえ、いい加減に慣れろよな。」
リーンが注意をしてきたが、あたしは膝の上に乗ってやった。
だが、ビアは構わず寄ってくる。
「なんか、私には心開いてくれませんねぇ。一緒にお風呂入った仲じゃない。」
うるせぇ、あれは虐められただけだ。
そういう気持ちを込めて、睨んでみたが、ビアはなぜか愉快そうだった。
「そういえば、お願いしたものは買えました?」
「はい、あのお釣りは……」
「別にいいですよ。クロちゃんの餌代にでもしてあげて下さい。じゃあ、キッチンお借りしますね。」
ビアはさらっとそう言うと、台所でテキパキと動き始めた。
相変わらず、要領よく動く女だ。
そうして、しばらくすると、ビアが料理を運んできた。
「お待たせしましたー」
この国の料理のイロハはわからないが、それでも美味いだろうと直感的にわかる。
「すごっ!」
「うわ!」
急に叫ぶな、驚くだろ。
「大したものではありませんが、筋肉痛には効果があるものにしてみました。」
「そうなんですか?」
「筋肉痛には、まずはタンパク質です。それから、ビタミンB群とビタミンCですね。それらを多く含むものをチョイスしました。」
「でも、マグロとか卵とかも買いましたけど、それは?」
「それらも、同じです。後で料理して、タッパーで置いておきますので、明日と明後日のお休み中に召しあがって下さい。」
「マジですか!?」
「さぁ、冷める前に頂きましょうか。」
くっそぉ。
元姫様だからと侮っていたが、こいつ料理までできるのか。
弱点はないのか、こいつ……




