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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:猫

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90/141

Side:猫1

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 気が付くと、あたしは暖かい毛皮に包まれていた。

 確か、半壊した自分の塒で、死んだとはずなんだけど、どうもまだ生きているらしい。

 それにしても、やたらと暖かい毛皮だ。何だろこれ?

 あたしは体を起こし、毛皮のほうを見上げてみた。

「……猫だ。」

 しかも、あたしの体よりずっとでかい黒猫。

 こんなでかい猫は生まれて初めて見た。

 巨大な黒猫は、あたしの体をペロペロと舐めた。

 猫の表情なんてよくわからないと思っていたが、何となく慈しみの気持ちがあるのかなと、感じられる目だった。

 ただ、舐められていて気付いたが、どうも、触覚の感覚がおかしい。

 直接皮膚に、猫の舌が触れている感じじゃないが、服を着ているのとまた感覚が違う。

 あたしは自分の手を目の前に翳してみた。

「……猫だ。」

 目に映ったのは、猫の前足だった。

 自分を舐めてくれている猫と同じ、真っ黒な毛色の前足。

 慌てて体中を見回してみたが、どこからどう見ても、黒猫だ。

「まさか、あたしは猫になっちまったのか……?」

 よく見ると、あたしの体はまだ子猫のようで、巨大な猫だと思ったのは、大人の猫だった。多分、雰囲気からすると母猫なんだろう。

 辺りを見回すと、自分と同じような見た目の黒い子猫が他に五頭いる。となると、こいつらは兄妹なのか。

 もしかして、自分も猫だから、猫の言葉がわかったりするのか?

「みゃー」

「にゅあ」

「にゃー」

 ダメだ。

 わかんねぇ。


 一日状況を見ていて、何となくわかったが、どうやらあたしは死んで、この世界に本物の猫として生まれ変わったらしい。

 しかも、どういうわけか、前世の記憶を残したまま。

 さらに、この世界はあたしが人間だった頃にいた世界とは、随分と様相が異なっている。

 石とも土とも違う固い素材で建物や道が作られているし、道行く人の服装も全然違う。基本的に裕福な人が多い国なのか、あたしが暮らしていたような貧民街のようなものは、殆ど見られない。

 あと、自動で動くものがとても多い。

 あたしのいた世界にも、機械仕掛けのものや機巧を使ったものはあったが、動力は人や牛や馬などであり、勝手に動くものはなかった。しかも、あたしが見ていたものより遥かに精巧で複雑な仕組みらしく、もはやどうやって出来ているのか、あたしにはわからない。

 中でも凄いのは、馬なしで動く馬車のような乗り物で、馬車より遥かに早く正確に動く。ただ、轢かれると危ないのは馬車と同じなので、猫となった今は特に気を付けなければならない。

 こんな世界の片隅で、どうやらあたしは飼い主がいない黒猫の子供として生まれたらしい。

 生まれ変わってもこういう境遇かよとは思ったが、母猫はあたしを含め、兄妹達の面倒をよく見てくれた。人間時代は母親の記憶などなかったから、猫とはいえ、自分を愛してくれる存在がいるというのは、とてもありがたかった。

 そうして、しばらくの間、あたしは他の兄弟達と穏やかに暮らしていた。


「みゃー」

 ある日、母猫があたしを呼んだ。

 相変わらず猫語はわからないが、何となくこちらへかけてくるアプローチはわかるようになってきた。

「なんだ?どうかした?」

 あたしが返事をすると、急に首根っこを咥えられた。

 そのまま、他の兄妹と引き離され、どこかへ連れていかれる。

「えっ?えっ?何?どした?」

 あたしはわけがわからず、母猫に向けて鳴いてみたが、母猫は構わずあたし咥えたまま、どこかへ向かっていく。

 そうして、あたしは比較的大きくて四角い建物の、ドアの前に連れてこられた。

 そこはいくつもドアが並んでおり、その一つ一つから、人の気配がする。

 あたしは少し不安になり、母猫を見上げた。

 母猫は、慈しみがこもった目であたしを見つめ、優しく体を舐めてくれた。

 そして、グッとあたしをドアのほうへ押しやった。

「……もしかして、ここにいるの?」

 あたしは母猫に尋ねた。

 その意味が伝わっているか、わからなかったが、母猫はあたしの体に自分の頭をスリスリすると、そこから立ち去って行った。

 そうか、ここまでが彼女の役割だったのだ。

 あたしを産んで、ここに連れてくるまでが。

「ありがとう。」

 人間だった時代も母親の記憶がないあたしにとって、初めて母の愛を感じた日々だった。

 あたしが知らなかった幸せを与えてくれて、本当に感謝しかなかった。

「さて。」

 別れを惜しむのはここまで。

 あたしにはやらなきゃならないことがあるんだ。

「おーい!」

 ドアに向かって泣いてみたが、反応はない。

 体がまだ小さいので、大した声量が出ない。

「困ったなぁ……出てくるまで、待ち続けるか?」

 持久戦も覚悟した、その時だった。

 中からゴソゴソと音がした。

 そして、ドアがガチャリと開く。

 中から出てきた人を見て、あたしは思わず胸がいっぱいになった。

「久しぶり、リーン。」

 あたしは驚くリーンに、元気いっぱいに言った。

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