Episode:泥棒猫39
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
リーンの亡骸は、ビアとクロで一旦ガゼボの中に運び込まれた。
「ごめんなさい、クロちゃん。私達の力が及ばず、こんなことになってしまって……」
ビアはクロに頭を下げた。
だが、クロは泣くばかりで、何も答えない。
「恐らく、リアさんはバアジ・フローに脅されていたと思われます。リアさんのお母様は数年前から病気で、床に伏していたそうです。それを人質に取られた。そして、クロちゃんがリーン様を連れ出すよう仕向け、行方不明になったところで、今回の戦を仕掛け、そのどさくさに紛れて、リアさんにリーン様を暗殺させる……筋書としては、そんなところでしょう。」
確かにそう考えると、リーンが唯一不審がっていた点も説明がつく。
ヴェサル側には少なくとも一日以上前に偽情報が入っていたと思われるが、それは翌日にクロがリーンを連れ出さなければ、成り立たない内容だった。
つまり、クロがリーンを城外へ連れ出すこと自体が、あらかじめ織り込み済みだったのだ。
「リアは……」
不意にクロが口を開いた。
「リアは、あたしにリーンを連れて、逃げてほしかったって言ってた……」
ビアは悲しげに溜息をついた。
「せめて、リーン様には生きていてほしかったのですね。でも、リーン様は、自らの責務を捨てず、ちゃんと戻ってきた。それが命取りになるなんて……」
とても人間の所業とは思えない謀略だ。
だが、リーンを失った今、クロにはどうでもいいことだった。
「そんなことで……リーンは……」
クロはまた、はらはらと涙を流した。
そんなクロの頭を、ビアは子供を宥めるように撫でた。
「クロちゃん……リーン様はもう帰ってきませんが、その意志は私が継ぎます。もうこんなバカげた争いは起こさせませんし、オブスタクルとヴェサルの貧民街の方々は、必ず私が救います。」
ビアは、はっきりと宣言した。
ビア自身、最愛のリーンを亡くし、国同士が戦闘、そして仲が良かったリアを自らの手にかけたのだ。
つらくないわけがない。
それでも、ビアは涙一つ見せず、凛としている。
クロにはとても真似できなかった。
「では、最期の時はお譲りしたので、ここからはリーン様を返して頂きます。」
「えっ?」
クロが尋ねる間もなく、ビアはリーンの亡骸を無理やり担ぎ上げた。
リーンは華奢とはいえ、成人男性である。それを、女性であるビアが担ぐのは、かなりの負荷だ。
一瞬でビアの額に汗が滲む。
「おい、どうする気だよ?」
クロが尋ねると、ビアは歩を進めながら答えた。
「リアさんには申し訳ありませんが、リーン様の殺害の汚名を着てもらい、その上でバアジ・フローを脅します。自分が手引きして、兄である皇太子を従妹に殺させたと知れたら、彼は破滅です。これは決定的な弱みになります。」
「でも、その後は……」
「その上で、バアジ・フローを国王にして、私を后にさせます。そして、この国とヴェサルの実権を全て握って、本当の和平を作り上げます。」
ビアの決意は壮大で、クロは驚くしかなかった。
「そんなこと、できるのかよ……」
「やります。リーン様の為に……そしてオブスタクルとヴェサルの人々の為に……!」
ふと、ビアは足を止めた。
「ですから、死なないで下さい、クロちゃん。必ず、私が何とかしますから。」
それだけ言い残し、ビアはガゼボから出ていった。
クロはそのままそこを動けず、日が昇るまで蹲っていた。
あんなに幸せな時間を過ごしていたガゼボが、今はあちらこちらが血に染まっている。
中には傷ついたクロ。
傍らにはリアの亡骸が転がっている。
「……あたしは、幸せになんかなっちゃ、いけなかったのかな……」
クロはそうつぶやくと、ゆっくりと立ち上がった。
そして、リアの亡骸に目を遣った。
「……」
クロはその顔を見た。
そして、そのまま何も言わず、足を引きずりながら、ガゼボが出ていった。




