Episode:泥棒猫38
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
リアは剣を構えると、再び斬りかかってきた。
「聞く気はねぇってことかよ!」
クロは短刀を抜くと、リアの斬撃を受けたが、そのまま短刀を吹っ飛ばされてしまった。
下手な兵士より、余程剣筋がしっかりしている。
「この前も言ったけど、有事に備えて、一応剣技は習ってるの。真っ向勝負なら負けないわ!」
リアは一声叫んで、斬りかかってきた。
「くっ!」
クロはリアの斬撃を身のこなしで何とか避けるが、脇腹の傷が痛んで、思うように動けない。
致命傷を避けたとはいえ、深手には違いない。
「くそっ!どけ!どけ!」
クロは斬撃を避けながら、何とかリーンに近寄ろうとするが、リアの剣術がそれを巧みに阻む。
「お願いだ!どいてくれ!リーンが!リーンが死んじゃう!」
クロの悲痛な叫びが木霊したと同時だった。
その右足をリアの剣が貫いた。
「ぐっ!!」
そのままクロは地面に転がり、動けなくなった。
剣は右の太ももを貫通していて、もう走ったり跳んだりはできそうにない。
「ここまでよ。」
リアが冷たく言い放ち、クロに剣を向けた。
「ごめんね。この世では結ばれる運命ではなかったのよ。せめてあの世で仲良してね。」
「くっそぉ……」
悔しさに歯を食い縛るクロへ向けて、リアは剣を振り翳した。
次の瞬間。
リアの首筋から夥しい血が噴き出した。
「なっ……」
リア自身も何が起きたかわからなかったのだろう。
驚愕のあまり呆然とした表情で、そのまま崩れ落ちた。
その後ろに立っていたのは、ビア・ヴェサルだった。
「ビア……どうして……?」
クロが呆然としながら尋ねた。
「軟禁されていた部屋を抜け出してきたのです。状況からして、私が軟禁されたままなのはまずいと思ったので。でも、まさかこんなことになるなんて……」
ビアの手には、血に塗れたナイフが握られていた。
「リアさん、ごめんなさい。でも、リーン様を手にかけたあなたを、このままにしておくわけにはいきませんでした。」
ビアは、既に動かなくなったリアにそう言った。
その言葉で、クロはリーンのことを思い出した。
「そうだ、リーン!」
クロは痛む脇腹と右足を引きずりながら、何とかリーンの元へ向かった。
リーンはガゼボのすぐ脇で倒れており、その腹から夥しい血が流れている。
「ク、クロ……」
リーンが弱弱しい声で、クロを呼んだ。
「リーン、大丈夫か!今、手当てするから……」
クロはそう言ったが、それが致命傷なのは、火を見るより明らかだった。
リーンはクロの顔を見ると、少しだけ安心したように微笑んだ。
「クロ、ごめん……結局俺は何もできなかった……」
「うるせぇ!黙ってろ!」
クロは上着を脱ぐと、リーンの傷口に押し当てた。リバーシブルの綺麗な生地が、血に染まっていく。
だが、血が止まる気配はない。
「クロ……最後に、顔を見せて……」
「やだ!最後とか言うな!!」
クロは必死に頭を振り、傷口を押さえる。
「クロ、お願い……」
リーンの声が、更に弱弱しくなる。
「……」
クロは涙でぐしゃぐしゃになった顔を、リーンに向けた。
その顔を見て、リーンは微笑んだ。
「ありがとう……」
そして、その言葉が最後だった。
「リーン……やだよぉ……」
クロはそのまま泣き崩れた。




