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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Episode:泥棒猫

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85/141

Episode:泥棒猫36

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 遡ること数時間前。

 リアはバアジに呼び出されていた。

「城内にリーンがいなくなったこと、シービングキャットが誘拐した恐れがあると伝えておいたわ。もうすぐ厳戒態勢になると思う。」

 リアが報告すると、バアジは満足そうに頷いた。

「よくやった。あとは、ヴェサルが攻め込んでくるのを待つだけだ。」

 バアジの下卑た笑いにリアは心底嫌気がさした。腹違いとはいえ、リーンの弟とは思えない。

 リーンが予想した通り、バアジは一年ほど前から、武器関係を扱う複数の業者と繋がり、城で使う武器類を優先的にそこから購入するよう、働きかけていた。

 だが、停戦中の現在、オブスタクルが必要とする武器の量は限られており、購入量増加の為には、再び開戦し、しかもそのままヴェサルを征服できる状況にするのが、現状一番望ましかった。

 どうやら、ヴェサル側もその動きは察知していたようで、調査員をオブスタクル国内に忍び込ませて調べていたようだが、そのうちの一人がクロにカバンを掠め盗られたのだ。そのせいで、リーンがバアジの動きに勘付くこととなった。

 そうして、ヴェサルとの和平を推し進めようとし、尚且つ二歳年長というだけで、国を牛耳ろうとしているリーンが、バアジにとっては本格的に邪魔な存在となった。

 そこでまず、この和平構想を一気に壊し、開戦まで持っていく為に、ビア・ヴェサルをオブスタクル国内で暗殺しようと企んだ。

 ところが、これは失敗。

 ビアは無事にオブスタクル城内に入り、お披露目会は滞りなく進んでしまった。おまけに、その時の銃の入手経路に使っていた拠点を、リアとクロに潰されてしまった。

 しかし、ここでまた予想外の事態が起きた。

 城内で初めてビアを見たバアジが、ビアに一目惚れしてしまったのだ。

 そしてこれが、バアジにリーンの抹殺を決意させる最後の一押しとなってしまった。

 バアジはガゼボでのリア達の密会やリーンの場外への散策について調べ上げ、その上でリアに接触。

 オブスタクルとの戦争を強く望んでいたエクスプロイトに、二重スパイを使って、ビアを人質にヴェサルを攻撃するとの情報を流し、こちらへの先制攻撃をするように仕向けた。

 その準備が終わる頃を見計らって、リーンをシービングキャットに連れ出させ、ビアを軟禁した上で、いよいよ開戦という運びになったのだ。

「皇太子の弟が、兄を消そうなんて、歴史に残る悪行だわ。」

 リアが軽蔑したように言うと、バアジはニヤリと笑い返してきた。

「勝てば官軍だ。歴史とは常に勝者が作るんだよ。」

「弱者を人質にとっておいて、よく言うわ。」

 リアはそう吐き捨てた。

 病弱な母親を、バアジは人質にして、リアに一連の策略を強要してきたのだから、そう言いたくなるのも無理はない。

 もちろん、リアは断ろうとも思ったが、バアジはエクスプロイトと繋がっていたばかりでなく、相当数の貴族や王族を反リーンで固めてしまっていた。

 元々、国王は中立の立場を貫いているが、后はバアジの実母の為、当然バアジの味方だ。

 さらに、武器業者との取引が生み出す利益を武器に、バアジは貴族達を次々と味方につけており、現状政治に携わる者の九割以上はバアジ側か、国王と同じく中立を保っている状態だ。

 この辺りの根回しは、リーンよりバアジのほうが一枚も二枚も上手だった。

 そして、状況は既にリア一人で太刀打ちできないところまできてしまっていた。

 ビアとリーンが結婚後ならば、やりようも出てくるだろうが、バアジもそれは重々承知しているので、結婚前に手を打ってきたというわけだ。

 せめてもの抵抗で、クロにリーンとの逃避行を考えさせるよう、会話を誘導してみたが、こればかりは、二人がどうするか、リアにも予想できない。

「心配するな。僕が国王になった暁には、おまえの立場は保障してやる。有力な貴族や他国の王族に嫁がせてやってもいいんだ。」

「それってただの政略結婚じゃない。」

 リアが冷たく返した。

 だが、実際のところ、リーンがいなくなれば、リアの未来はそれしかないと思われる。

 現状、キング・フローの后はバアジの母親であり、一族の中ではリーンよりバアジのほうが発言力がある。そのバアジが、リアを政略結婚に使おうと言えば、鶴の一声でそうなってしまうだろう。

 最近楽しかった生活が、一気に絶望に変わったなと、リアは思った。

「あとは、兄上が戦火に巻き込まれてくれれば楽なんだけど、そうならなかった場合は密かに消す……それがおまえの仕事だ。それさえ終われば、あとはバラ色の人生が待っているぞ。」

 バアジが楽しげにそう言った。

「バラ色……ね。」

 リアは自嘲するようにつぶやいた。

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