Episode:泥棒猫35
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
リーンはあえて路地が多い道を通って迂回し、城へ向かっていた。
その為、着いた頃にはかなりの時間経ってしまった。こればかりは、普段の運動不足と鈍足が恨めしかった。
幸いにも、ヴェサル・オブスタクル両方の兵に遭遇することなく、リーンは城の裏側の城壁までたどり着いた。
表側から入ることも考えたが、一般人の恰好をしているリーンが不用意に近付いて、とばっちりを喰らわないとも限らない。考えた結果、元の裏側に回ることにしたのだ。
表側の城門は厳戒態勢だが、それでも急な兵備の為か、敵が来る心配がない裏側まで手が回っていないらしい。兵士の姿は一人もなかった。
「よし、これなら入れる。」
リーンは壁の穴から敷地内へ入ると、急いで城内を目指そうとした。
だが、いつもお茶会をしているガゼボの前を通りかかった時だった。
「リーン。」
不意に呼び止められた。
見れば、ガゼボの中にリアが座っていた。
「リア!どうしてここに?」
外の非常事態が嘘のように、リアは落ち着いて座っている。
その様はまるで、いつものお茶会のようであった。
「戻ってきたのね。」
リアは、どこか悲しげな表情で、そう言った。
そのままスッと立ち上がり、ガゼボから出てくる。
「当たり前だろう。それより、状況はどうなってる?誰がどうして、こんな事態になったんだ?」
リーンが矢継ぎ早に質問したが、リアはいつものように答えようとはしない。
「リーン……できれば、戻ってきてほしくなかった。このままどこかで、生き続けてほしかった。」
「リア、何を言って……」
次の瞬間だった。
リーンの体にナイフが突き立てられた。
クロが大立ち回りでエクスプロイトを討ったことで、戦況は一変した。
ヴェサル軍はすぐさま撤退を開始し、オブスタクル軍もそれを追うことはなく、そのまま破壊された門に臨時の防衛線を築き始めた。
おかげで、城付近の警備はかなり手薄になった。
「今がチャンスだな。」
クロはいつもの抜け穴から城内へ入ると、手筈通りガゼボへ向かった。
時間的にリーンはまだ来ていないだろうが、とりあえずガゼボ付近で身を潜ませて、待つつもりだった。
だが、そこでクロは不思議な光景を見た。
ガゼボの前に、リーンとリアが立っていたのだ。
「ん?何であの二人が……」
クロがつぶやいた、その時だった。
突如、リーンが倒れた。
「リーン!?」
クロは慌ててリーンに駆け寄ろうとした。
だが、その瞬間に、リアが近くに置いてあった剣を手に取り、クロに斬りかかってきた。
「なっ!?」
リアの攻撃など、予想していなかったクロは、その刃を躱すことができなかった。
リアの刃はクロの右脇腹を捉え、瞬時に鮮血が吹き出す。
「くっ!」
だが、クロは反射で体を捩り、どうにか致命傷だけは避けた。
そのまま、後ろに跳び退き、リアと距離をとる。
「リア!どういうことだ!?」
クロが激昂して叫んだが、対してリアは気味が悪いくらいの無表情だ。
「クロ公。出来ればあんたには、本当にリーンを連れ去ってほしかったわ。そうして、どこか遠くで、ただの人として、幸せになってほしかった。」
「何を言ってるんだ……?」
クロにはリアの思惑が読めない。
だが、今はそんなことを言っているわけにはいかない。リーンは倒れ込み、その周りには血だまりができている。
どう見ても、命が危ない。
「どけ!リーンを助けるのが先だ!」
クロが必死に叫ぶが、リアはその場を退く気配はなく、剣を構えるだけだった。
「悪いけど、リーンもクロ公もここで死んでもらうわ。」




