Episode:泥棒猫34
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
クロは巧みに裏路地を使い、今度は兵に遭遇することなく壁の近くまでやってきた。流石に、この辺りの土地勘は一段も二段も上だ。
だが、流石に壊れた門の近くまで来ると、そうもいかない。
オブスタクル軍との交戦は、門から少し離れた街の中で行われており、門周辺はヴェサルの兵が犇めき合っている。
比較的高い建物によじ登ったクロは、そこから様子を窺った。
「流石にあいつら全員ぶっ殺すのはムリだな……何か蹴散らす方法があれば……」
そこでクロはあることに気付いた。
壁の門を壊した投石器はカタパルトのようなものを想像していたのだが、覗いてみると、設置してあるのは銃を大きくしたような、鉄製の巨大な筒だった。
「なるほど、火薬の力で岩を吹っ飛ばして、門を壊したわけか。ということは、あの周辺に置いてある包みとかは、火薬の山だな。」
クロはニヤリと笑うと、すぐさま建物から降りた。
そして、破壊された建物から棒状の角材を見繕い、布や油を失敬して、即席の松明を作った。そして、その明かりを頼りに戦闘が終わったあとの場所に向かい、使えそうな弓と矢を数本拾って先程の建物の上に戻った。
そこで、鏃にも油を沁み込ませた布を巻き付け、松明から火を移していく。
建物の中が明るくなったが、あちらこちらで火の手が上がっているので、その明かりに紛れて、クロが灯している火には、誰も気付いていない。
「やたらと火を使ったことが、おまえらの命取りだ。」
クロは大砲近くに積まれた火薬の山に、即席の火矢を打ち込んだ。
破壊された門のすぐ後ろで、エクスプロイトは戦況を見ていた。
当初は、オブスタクル城を急襲し、バアジ以外のフロー家の一族を討ち、更にどさくさに紛れてビアを殺害。その後に傷心の国王に成り代わり、今回の手柄を元に政治の主導権を握るつもりであった。
だが、オブスタクルの抵抗が思った以上に早く、事態は膠着状態に陥りつつあった。
バアジと示し合わせていたはずだったが、少々うまくいっていないのが現状だ。
「なにをやっておるのだ、早く城を落とせ、鈍間どもが!」
エクスプロイトがイライラしながら吐き捨てた、その時だった。
目の前の大砲横の火薬が、突如炎上した。
「な、どうした!」
そう言った瞬間だった。
ドォン!!!!!
凄まじい爆発が起き、エクスプロイトもその周りにいた家臣達も、一気に吹き飛ばされた。
「うおっ!」
辛うじて、爆発自体には巻き込まれなかったが、エクスプロイトは爆風で吹き飛ばされ、強かに体を地面に打ち付けた。
「くそっ……」
体を起こすと、そこは惨状となっていた。
部下の多くは吹き飛ばされて倒れ、生死不明。
大事な大砲も、爆発で壊れてしまっているし、近くに置いてあった物資も全て炎上している。
「どこのバカだ!?間違って火薬に火を点けたのは!名乗り出ろ!この場で処刑だ!!」
エクスプロイトが激昂して叫んだ、その時だった。
背後から首元に短刀をあてられた。
「火を点けたのはあたしだよ。敵の襲撃っていう発想はねぇの?」
エクスプロイトは目を見開いて後ろを見た。
その目に映ったのは、闇夜に浮かぶ黒装束だった。
「てめぇがクズで助かったよ。殺しても罪悪感に苛まれずに済みそうだ。」
次の瞬間、エクスプロイトの首から鮮血が飛び散った。
突如、ヴェサル軍の自陣で爆発が起こったことで、戦場は一気にどよめいた。
ヴェサル軍は、前方でオブスタクル軍と戦闘、背後で爆発と火災に見舞われ、一気に進退窮まってしまった。
おまけに、その爆心地には、総司令であるエクスプロイトがいたはずで、一気に指揮系統が麻痺した。
「どうしたんだ?」
「なんだ……」
「おい、これは?」
ヴェサル軍に動揺が広がり、オブスタクル軍も攻めていいのかどうかが、わからなくなった。
その時だった。
松明を持った黒装束が、やけに軽い身のこなしで、戦場となっている街の建物の一つの上を駆け登った。
オブスタクル側の兵士達は、その姿に見覚えがあった。
「まさか、シービングキャット?」
兵の一人がつぶやいた。
そうして今度は、オブスタクル軍のほうに動揺が広がり、戦闘が止まった。
「聞け!バカども!」
シービングキャットは右手で松明を掲げ、左手に持った何かを照らした。
それは、エクスプロイトの首であった。
「ああっ!」
「うそだろ!?」
途端に戦場に激震が走った。
ヴェサル側は勿論、オブスタクル側からも悲鳴があがっている。
「どういうことだ?」
「シービングキャットはヴェサルの刺客じゃなかったのか?」
「じゃあ、リーン様は?」
ざわめく戦場を一通り見回し、シービングキャットは不意に口を開いた。
「エクスプロイトはあたしが討った。もうヴェサル軍に勝ち目はねぇ。とっとと、国に帰れ。それから、リーンはヴェサルを攻めるつもりはないし、リアを軟禁したりもしてねぇ。偽情報に踊らされてるんじゃねぇよ!」
クロはヴェサル側にそう言うと、今度はオブスタクルのほうを向いた。
「おまえらもだ!あたしがリーンを誘拐したりするわけねぇだろ!リーンは城に戻ってるはずだから、ちゃんと確認しろ、バカどもが!」
そう吐き捨てて、シービングキャットはエクスプロイトの首を投げ捨てた。
そして松明をその場に置き、闇夜に溶けるように消えていった。
「ったく、牛とか鶏をかっぱらって、解体してたのが、こんな形で役立つとは思わなかったぜ。」
クロは血まみれになった手を見ながらつぶやいた。
それでも、その血に塗れた手は、牛や鶏を解体した時とは、まるで違って見えた。




