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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Episode:泥棒猫

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82/141

Episode:泥棒猫33

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 オブスタクル城内の一室に、ビアは夕刻から閉じ込められていた。

 詳細は一切わからないが、何か緊迫した事態になったらしい。

 日が暮れてから、何やら外で大きな物音も聞こえてきている。

 だが、この部屋の窓は南側を向いており、現状は海とその間の街並みの一部しか見えない。

「……何が起きているでしょうか。」

 ビアがつぶやいた、その時だった。

 コンコン。

 不意にドアがノックされた。

 がちゃりと鍵が開く音がし、扉が開く。

「どうも、ごきげんよう。」

 入ってきたのはバアジだった。

 ビアは固い表情を崩さない。

「バアジ様、これはどういうことですか?」

 毅然とした口調で言い放つと、バアジはニヤリと嫌な笑みを浮かべた。

「実は、兄上が失踪しまして。」

「なんですって?」

「詳細は調査中ですが、何やら騒ぎも起きているので、とりあえず貴女をお守りする為に、この部屋に入って頂いた次第です。」

「軟禁の間違いではないですか。」

 ビアは表情を変えずに言い放った。

「そんなことはありませんよ。ただ、兄上が賊に攫われたという目撃情報もあるので、多分もう命は……」

「そんな……!」

 流石にビアの表情に動揺が走った。

「兄上が帰ってこないとなると、この国の跡継ぎは僕しかしなくなります。無論、そんなことにならないのを、願っていますが。」

「随分と、嬉しそうなのですね。」

 リアは冷然と言った。

「そんなことはありません。ただ、そうなったとしても、ヴェサルとのことを考えると、あなたを娶るという予定を変えるわけにはいかないのです。ですので……」

 バアジは恭しくビアに頭を下げた。

「兄上にもしものことがあった際には、この僕の妻になって頂きます。宜しいですね?」

 ビアは表情を険しくした。

 バアジがビアを女として見ていることくらいは、以前から気付いていた。

 リーンに何があったかわからないが、これを好機にビアを手に入れようと企んだのは、明確だった。

「それはリーン様の消息がはっきりしてから考えます。」

 ビアははっきりと言い切ったが、バアジは挫ける気配がない。

「そうですか。まぁ、あくまでもしもの時を考えておいて下さい、という話です。では。」

 結局、軟禁した理由を明確には言わず、バアジは出ていった。

「……嫌な予感がしますね。」

 ビアは窓のほうを見ながらつぶやいた。


 その頃、西の丘でクロとリーンは作戦会議をしていた。

「現状、戦いを止める手段は一つ。ヴェサルのエクスプロイトを討つことだけだ。」

「オブスタクル側は何もしなくて大丈夫なのか?」

 クロが尋ねると、リーンは頷いた。

「現状、ヴェサルが襲撃して、オブスタクルは防戦しているだけだ。だから、ヴェサル軍を止めれば、戦いは止まる。」

「でも、エクスプロイトって、お偉いさんなんだろ?前線にいないんじゃねぇの?」

 リーンは首を横に振った。

「エクスプロイトは好戦的な将軍だから、戦闘中は必ず前線に出て指揮をとるらしい。だから、破壊された壁の少し内側辺りに陣取って、指示を出してるんじゃないかな。」

 丘から見える範囲で、リーンはそう判断していた。

「なるほど。そいつをぶっ殺せば、指揮系統は壊滅するし、兵は撤退するしかなくなるってことか。」

「ああ……だけど、これは相当難しいよ。」

 リーンは深刻な顔でそう言ったが、クロはニヤリと笑って返した。

「あたしを誰だと思ってるんだよ。オブスタクルを騒がす盗人、シービングキャットだぜ?こんなくだらねぇこと考える奴なんか、敵じゃねぇよ。」

 クロの力強い言葉に、リーンは大きく頷いた。

「わかった。ここはクロを信じる。俺は城に戻って、オブスタクル側から争いを止める。」

「それはいいけど、もしビアがもう……その、粛清されてたら……」

 クロが言いにくそうに言うと、リーンはまた首を横に振った。

「大丈夫。恐らくバアジはビアを殺さない。俺を消して、ヴェサルを潰したら、ビアを自分の妻にするつもりだと思う。そういう目で、ビアのことを見てたのは知ってる。」

「チッ、下衆が。」

 クロは容赦なく吐き捨てた。

 今回の計画には、そんなことも織り込まれていたのだ。

「それより、おまえ城まで一人で行くのは、危なくねぇか?なんなら、あたしが城まで送り届けてから、エクスプロイトを討ちに行くけど。」

 クロが提案すると、リーンは首を横に振った。

「今、城の周囲は厳戒態勢になっている。だから、クロが近づくのは危ない。それに、戦闘を一秒でも早く終わらせないと、死人が増えるばかりだ。危険だけど、ここは二手に分かれたほうがいい。」

「……そうか。」

 クロは不安だったが、リーンの決意は固かった。

「大丈夫だから、こっちは任せてくれ。必ず何とかする。争いが終わったら、警戒をある程度解くから、いつものガゼボに来てくれ。多分俺は、一度城に入ったら、もう外には出られない。」

「わかった。じゃあ、行ってくるぜ。」

 気合を入れて立ち上がったクロに、リーンは声をかけた。

「クロ、必ず生きて戻ってきてくれ。」

「当たり前だろ。」

 クロはリーンの頭を軽く小突くと、その場を駆け出した。

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