Episode:泥棒猫33
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
オブスタクル城内の一室に、ビアは夕刻から閉じ込められていた。
詳細は一切わからないが、何か緊迫した事態になったらしい。
日が暮れてから、何やら外で大きな物音も聞こえてきている。
だが、この部屋の窓は南側を向いており、現状は海とその間の街並みの一部しか見えない。
「……何が起きているでしょうか。」
ビアがつぶやいた、その時だった。
コンコン。
不意にドアがノックされた。
がちゃりと鍵が開く音がし、扉が開く。
「どうも、ごきげんよう。」
入ってきたのはバアジだった。
ビアは固い表情を崩さない。
「バアジ様、これはどういうことですか?」
毅然とした口調で言い放つと、バアジはニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「実は、兄上が失踪しまして。」
「なんですって?」
「詳細は調査中ですが、何やら騒ぎも起きているので、とりあえず貴女をお守りする為に、この部屋に入って頂いた次第です。」
「軟禁の間違いではないですか。」
ビアは表情を変えずに言い放った。
「そんなことはありませんよ。ただ、兄上が賊に攫われたという目撃情報もあるので、多分もう命は……」
「そんな……!」
流石にビアの表情に動揺が走った。
「兄上が帰ってこないとなると、この国の跡継ぎは僕しかしなくなります。無論、そんなことにならないのを、願っていますが。」
「随分と、嬉しそうなのですね。」
リアは冷然と言った。
「そんなことはありません。ただ、そうなったとしても、ヴェサルとのことを考えると、あなたを娶るという予定を変えるわけにはいかないのです。ですので……」
バアジは恭しくビアに頭を下げた。
「兄上にもしものことがあった際には、この僕の妻になって頂きます。宜しいですね?」
ビアは表情を険しくした。
バアジがビアを女として見ていることくらいは、以前から気付いていた。
リーンに何があったかわからないが、これを好機にビアを手に入れようと企んだのは、明確だった。
「それはリーン様の消息がはっきりしてから考えます。」
ビアははっきりと言い切ったが、バアジは挫ける気配がない。
「そうですか。まぁ、あくまでもしもの時を考えておいて下さい、という話です。では。」
結局、軟禁した理由を明確には言わず、バアジは出ていった。
「……嫌な予感がしますね。」
ビアは窓のほうを見ながらつぶやいた。
その頃、西の丘でクロとリーンは作戦会議をしていた。
「現状、戦いを止める手段は一つ。ヴェサルのエクスプロイトを討つことだけだ。」
「オブスタクル側は何もしなくて大丈夫なのか?」
クロが尋ねると、リーンは頷いた。
「現状、ヴェサルが襲撃して、オブスタクルは防戦しているだけだ。だから、ヴェサル軍を止めれば、戦いは止まる。」
「でも、エクスプロイトって、お偉いさんなんだろ?前線にいないんじゃねぇの?」
リーンは首を横に振った。
「エクスプロイトは好戦的な将軍だから、戦闘中は必ず前線に出て指揮をとるらしい。だから、破壊された壁の少し内側辺りに陣取って、指示を出してるんじゃないかな。」
丘から見える範囲で、リーンはそう判断していた。
「なるほど。そいつをぶっ殺せば、指揮系統は壊滅するし、兵は撤退するしかなくなるってことか。」
「ああ……だけど、これは相当難しいよ。」
リーンは深刻な顔でそう言ったが、クロはニヤリと笑って返した。
「あたしを誰だと思ってるんだよ。オブスタクルを騒がす盗人、シービングキャットだぜ?こんなくだらねぇこと考える奴なんか、敵じゃねぇよ。」
クロの力強い言葉に、リーンは大きく頷いた。
「わかった。ここはクロを信じる。俺は城に戻って、オブスタクル側から争いを止める。」
「それはいいけど、もしビアがもう……その、粛清されてたら……」
クロが言いにくそうに言うと、リーンはまた首を横に振った。
「大丈夫。恐らくバアジはビアを殺さない。俺を消して、ヴェサルを潰したら、ビアを自分の妻にするつもりだと思う。そういう目で、ビアのことを見てたのは知ってる。」
「チッ、下衆が。」
クロは容赦なく吐き捨てた。
今回の計画には、そんなことも織り込まれていたのだ。
「それより、おまえ城まで一人で行くのは、危なくねぇか?なんなら、あたしが城まで送り届けてから、エクスプロイトを討ちに行くけど。」
クロが提案すると、リーンは首を横に振った。
「今、城の周囲は厳戒態勢になっている。だから、クロが近づくのは危ない。それに、戦闘を一秒でも早く終わらせないと、死人が増えるばかりだ。危険だけど、ここは二手に分かれたほうがいい。」
「……そうか。」
クロは不安だったが、リーンの決意は固かった。
「大丈夫だから、こっちは任せてくれ。必ず何とかする。争いが終わったら、警戒をある程度解くから、いつものガゼボに来てくれ。多分俺は、一度城に入ったら、もう外には出られない。」
「わかった。じゃあ、行ってくるぜ。」
気合を入れて立ち上がったクロに、リーンは声をかけた。
「クロ、必ず生きて戻ってきてくれ。」
「当たり前だろ。」
クロはリーンの頭を軽く小突くと、その場を駆け出した。




