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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人
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Side:人6

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

「みゃー」

 家に帰ると、クロが出迎えてくれた。

 これもすっかりお馴染みになってきた。

「ただいま。」

 早速、自分とクロの食事の用意を済ませると、揃って「いただきます」をする。

「クロ、実は御船書房で働くことになったよ。」

 餌を食べていたクロがピタリと止まった。そして、ゆっくりと修一の方を見てくる。

 まさかの人間のような反応。

「とりあえず、俺とおまえの食い扶持には困らなさそうだぞ。御船さんには感謝しても、しきれないな。」

 修一は嬉しそうに話すが、クロは眉間にシワを寄せた独特の表情を、またしている。

「おまえ、御船さんに会ったり、御船さんの話をすると、必ずその顔するなぁ。俺とおまえの恩人なんだから、もう少し愛想よくしろよ。」

 修一が窘めると、クロは不承不承といった様子で、また餌を食べ始めた。

 初出勤は、明後日ということになっている。

 例の8579円は初任給から天引きという形になった。


 食後、スマホで書店員の仕事や、本のオンライン販売について調べてみた。

 ぱっと目につくのは、見た目に反して力仕事であること、書店は年々減っていること、出版業界自体の衰退などなど……割と、ネガティブな情報が目につく。

 本に疎い修一が意外だったのは、一般の書籍だけでなく、漫画やサブカル関係の本も下降傾向だという情報だった。

 修一が幼い頃はそんなことはなかったが、十数年前からいわゆるオタク文化が日本で隆盛を誇り、今や一般人でも漫画やアニメを趣味としている人がたくさんいる。事実、修一がこの前まで勤めていた会社にも、アニメオタクを自称する社員はいたし、そこまででなくても、日常的に漫画やアニメ、ゲームを嗜む人は何人かいたように思う。

 なので、本の分野でも、漫画やサブカル関連本は、勝手に伸びているものだと思っていた。

 公表されている数字を見ると、例えば日本で最も売れている漫画雑誌『週刊少年ジャンプ』でも、売り上げのピークは何十年も前で、現在はピーク時の六分の一程度まで落ちている。

 漫画の単行本やライトノベルなどの小説、その他のアニメ関係の本など、発行点数は増えているものの、かつての『ジャンプ』のような、一点で大きく売れるものは少なくなっているらしい。

 もちろん、本というのは漫画だけではないので、その辺りの売上構成比などは、働いてみないとわからないが、他ジャンルは漫画以上に景気のいい情報が少ない。いずれにしても、本の販売全体が厳しいことに変わりはないみたいだ。

 ちなみに、これらの情報には電子書籍についての考慮がないので、合わせるとまた話は変わってくるのかもしれないが、現状、電子書籍は御船書房のようなリアル店舗には何の恩恵もなく、むしろ紙の本購入者の減少という意味では、悪影響と言わざるを得ない状況だ。

「本屋って、思ったより大変そうだなぁ……いろんな意味で。」

 膝の上で丸まっているクロに語りかけると、

「にっ」

 と、お返事が返ってきた。

 結花は、自分が継いでから、売上が落ちる一方だと言っていたが、それは結花の経営の不慣れだけでなく、出版業界全体を取り巻く状況もあってのことらしい。

「つまり、全体的に下降傾向であるという状況で、如何にして自分達の売上を取っていくか、を考えなきゃならない、か。もちろん、立地とか、周辺人口も考えなきゃならないし……」

「みっ」

 クロが相槌を打ってくれる。

 修一の前職は食品関係の営業職だったので、この辺りの調べ物や考察は意外と早い。辞めてしまったとはいえ、一度身についたスキルというのは、案外役に立つものだ。

「そういえば、本は下降傾向だけど、他のアニメとかサブカル関係ってどうなんだ……?」

 ぱっと思いついたのは、アニメのDVDやブルーレイといったビデオソフトの売上とゲームだ。

 まず、アニメのビデオソフトだが、ここ数年は売上が落ちてきているらしい。これは書籍と一緒で、配信に軸足が移ってきているからだ。どうやら、市場規模は配信に逆転されて、久しいらしく、レンタルビデオ店やアニメグッズショップが減っているのも、相まっているらしい。

 一方、ゲームの方だが、こちらもパッケージ版の売上は落ちているが、少々事情が異なる。

 現状、ゲームはいわゆるソシャゲやスマホゲームといったものが市場の主流であり、これらは元からパッケージ版というものがない。なので、書店やレンタルビデオ店に当たるリアル店舗が、元から存在しないのだ。

 スーパーファミコンや初期のプレイステーションがメインだった時代は、街に“ゲームショップ”なるものが点在していたが、これはほぼ絶滅したと言っていい状況だ。ゲーム文化が、本やアニメに比べて後発だった為、リアル店舗が世間に定着する前に消えていった印象である。

「だから、書店ほど減少や廃業が問題視されなかったってことか……」

「にっ」

 クロ相変わらず、お返事してくれる。

 最後に、本のネット販売に関しても調べてみたが、大手の書店や出版社自体が既にやっており、何より世界最大手の通販サイトで本の販売をやっているので、御船書房のような個人商店や始めたところで、大きな売上げになるとは考えにくい。

「これは……俺とおまえの食い扶持を維持し続けるのは、なかなかハードルが高いぞ……」

「みゃー……」

 結花にこれらの逆行を跳ね除ける秘策でもあれば、話は別だが、少し前まで女子大生だった彼女に、そこまでの経営手腕を求めるのは、酷というものだろう。

「俺にできることは、なるべく仕事を早く覚えて、経営サポートまでできるようにすることだな。」

「みゃん」

 最後まで、クロはいいお返事だった。

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