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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Episode:泥棒猫

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76/141

Episode:泥棒猫27

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

「うわ、痛そう……」

 リーンがクロの左肘を見て、つぶやいた。

「これでも、二日経ったから、だいぶマシになったんだぜ。」

 クロは腕を袖で覆いながらそう言った。

 この日は久しぶりにリーンがお茶会に参加していた。リアも一緒でビアがお休みである。

「気を付けてね。ビアも言ってたと思うけど、出来るだけ早く、クロがちゃんとした生活を送れるよう、がんばるから。」

 リーンは心配そうに言った。

「そこまで言うなら、シービングキャットの賞金首を解除してくれよ。あれのせいで、リアルに命狙われることがあるんだよ。」

「いや、それはちょっと難しいんだけど……」

「ちぇ!」

 クロは悪態をついて、いじけて見せた。

「で、この流れで言うのは心苦しいんだけど、この後用事があって、早めに抜けなきゃならないんだ。」

「ええ?マジかよぉ……」

「ごめん!明日はフルでいられると思うから!」

 リーンはそう言って、紅茶を早々に飲み干し、ガゼボから出ていった。

 後には、クロとリアだけが取り残された。

「本当に忙しいな、あいつ。」

「そうね。」

 リアが短く返事をした。

「ん?どうした?」

 リアの元気がない。

 そういえば、今日は珍しく、殆どお喋りに参加してこなかった。

「ちょっと疲れてるだけ。最近、ここでの時間以外は激務だから。」

「へぇ、大変だな。」

 クロはそんなに気にしていない。

「それより、一つ訊きたいことがあるんだけど。」

 急にリアが真剣な調子で口を開いた。

「なんだ?」

「あんた、リーンのことは好き?」

 単刀直入な質問に、クロは啜っていた紅茶を吹き出しそうになった。

「何言ってんだよ、急に!」

「真面目に訊いてるの。この前、ビア様はお戯れで妾なんて話してたけど、実際どうなの?」

 どうも、からかったり茶化したりするつもりはないらしい。

 クロは紅茶のカップを置くと、ちゃんとリアを見据えた。

「あたしは貧民街で育ったただの盗人だから、好きとか愛とか、そういうもんは正直よくわからん。ただ、リーンと喋ってるのは楽しいし、ここでのお茶会が、今まで生きてきた中で一番幸せな時間だとは思ってるよ。お菓子は美味いしな。」

 クロの答えに、リアは表情を曇らせた。

「あんたがリーンのことを大好きなのはわかってるけど、だったら猶更、二人の邪魔しちゃいけないんじゃないの?可哀そうだけど、あんたは泥棒猫で、リーンとは結ばれることはないんだから。」

「いや、大好きとは言ってねぇんだけど……」

 クロが珍しくリアに気圧されている。

「あの二人が婚約するきっかけになったのは偉かったと思うけど、今あんたがやってることは、明らかにリーンの為にならないことだよ。本当にリーンの幸せを願うなら、どう立ち振る舞うべきか、わかるよね?」

「どうしたんだよ、急に?」

 クロが怪訝そうな顔をすると、リアは溜息をついた。

「あんたは多分年下だからまだわかんないかもしれないけど、このままリーンに関わり続けたら、多分我慢できなくなるよ。ビア様はクロ公のことを気に入ってるみたいだけど、あたしは人の気持ちはそんなにうまくいかないと思う。」

「じゃあ、どうしろっていうんだよ?」

 クロが尋ねると、リアは意を決したように息をついた。

「結局、独り占めするしかないのよ。好きな人っていうのはね。」

「独り占め……」

 クロは反芻するようにつぶやいた。

「運命っていうのは残酷よね。もしあんたとリーンが同じ身分で生まれていれば、今頃二人は結ばれていたのかもしれないのに……」

「あたしとリーンが……想像もつかねぇな。」

「幸せだったはずよ。」

 リアが言い切った。

「あんたとリーンが結ばれたら、二人とも一番幸せだったはず。ビア様とリーンもお似合いだとは思うけど、本当はあんたと結ばれるほうが、一番幸せな形になったはず。でもだからこそ、現状あんたは、ビア様とリーンの間の、強力な障壁になりかねないのよ。」

「やけに言い切るな、おまえ。」

「これでも、いろんな人の色恋沙汰は見てきたもの。」

 リアはどこか悲しそうな笑顔になった。

「だから、どちらかがリーンを独り占めしないと、災いの元になりかねないの。それだけは、よく理解した上で動きなさい。」

「もし、あたしがリーンを独り占めしようとか考えたら、どうするんだよ。」

「とりあえず、この国は終わりね。」

 リアのさらっと言った言葉に、クロはどこか空恐ろしさを感じた。

 そのまま二人は黙りがちになり、なし崩しでその日の茶会は終了となった。


 その帰り際のことである。

「あっ、クロ公。この前のご褒美の件だけど、ちゃんと手配しておいたから。」

「ご褒美?」

 一瞬考えて、この前の西の貧民街の件だと思い出した。

 リーンと散策する手筈をリアが整えてくれるというやつだ。

「明日、リーンの体があくから、その時に外に連れ出して。お邪魔虫のあたしは、理由をつけてここに来ないようにするから。」

「マジか。わかった!ありがとな!」

 クロは無邪気に喜んで、茂みに姿を消した。

 それを、リアがどこか悲し気な表情で、見送っていた。

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