Episode:泥棒猫27
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
「うわ、痛そう……」
リーンがクロの左肘を見て、つぶやいた。
「これでも、二日経ったから、だいぶマシになったんだぜ。」
クロは腕を袖で覆いながらそう言った。
この日は久しぶりにリーンがお茶会に参加していた。リアも一緒でビアがお休みである。
「気を付けてね。ビアも言ってたと思うけど、出来るだけ早く、クロがちゃんとした生活を送れるよう、がんばるから。」
リーンは心配そうに言った。
「そこまで言うなら、シービングキャットの賞金首を解除してくれよ。あれのせいで、リアルに命狙われることがあるんだよ。」
「いや、それはちょっと難しいんだけど……」
「ちぇ!」
クロは悪態をついて、いじけて見せた。
「で、この流れで言うのは心苦しいんだけど、この後用事があって、早めに抜けなきゃならないんだ。」
「ええ?マジかよぉ……」
「ごめん!明日はフルでいられると思うから!」
リーンはそう言って、紅茶を早々に飲み干し、ガゼボから出ていった。
後には、クロとリアだけが取り残された。
「本当に忙しいな、あいつ。」
「そうね。」
リアが短く返事をした。
「ん?どうした?」
リアの元気がない。
そういえば、今日は珍しく、殆どお喋りに参加してこなかった。
「ちょっと疲れてるだけ。最近、ここでの時間以外は激務だから。」
「へぇ、大変だな。」
クロはそんなに気にしていない。
「それより、一つ訊きたいことがあるんだけど。」
急にリアが真剣な調子で口を開いた。
「なんだ?」
「あんた、リーンのことは好き?」
単刀直入な質問に、クロは啜っていた紅茶を吹き出しそうになった。
「何言ってんだよ、急に!」
「真面目に訊いてるの。この前、ビア様はお戯れで妾なんて話してたけど、実際どうなの?」
どうも、からかったり茶化したりするつもりはないらしい。
クロは紅茶のカップを置くと、ちゃんとリアを見据えた。
「あたしは貧民街で育ったただの盗人だから、好きとか愛とか、そういうもんは正直よくわからん。ただ、リーンと喋ってるのは楽しいし、ここでのお茶会が、今まで生きてきた中で一番幸せな時間だとは思ってるよ。お菓子は美味いしな。」
クロの答えに、リアは表情を曇らせた。
「あんたがリーンのことを大好きなのはわかってるけど、だったら猶更、二人の邪魔しちゃいけないんじゃないの?可哀そうだけど、あんたは泥棒猫で、リーンとは結ばれることはないんだから。」
「いや、大好きとは言ってねぇんだけど……」
クロが珍しくリアに気圧されている。
「あの二人が婚約するきっかけになったのは偉かったと思うけど、今あんたがやってることは、明らかにリーンの為にならないことだよ。本当にリーンの幸せを願うなら、どう立ち振る舞うべきか、わかるよね?」
「どうしたんだよ、急に?」
クロが怪訝そうな顔をすると、リアは溜息をついた。
「あんたは多分年下だからまだわかんないかもしれないけど、このままリーンに関わり続けたら、多分我慢できなくなるよ。ビア様はクロ公のことを気に入ってるみたいだけど、あたしは人の気持ちはそんなにうまくいかないと思う。」
「じゃあ、どうしろっていうんだよ?」
クロが尋ねると、リアは意を決したように息をついた。
「結局、独り占めするしかないのよ。好きな人っていうのはね。」
「独り占め……」
クロは反芻するようにつぶやいた。
「運命っていうのは残酷よね。もしあんたとリーンが同じ身分で生まれていれば、今頃二人は結ばれていたのかもしれないのに……」
「あたしとリーンが……想像もつかねぇな。」
「幸せだったはずよ。」
リアが言い切った。
「あんたとリーンが結ばれたら、二人とも一番幸せだったはず。ビア様とリーンもお似合いだとは思うけど、本当はあんたと結ばれるほうが、一番幸せな形になったはず。でもだからこそ、現状あんたは、ビア様とリーンの間の、強力な障壁になりかねないのよ。」
「やけに言い切るな、おまえ。」
「これでも、いろんな人の色恋沙汰は見てきたもの。」
リアはどこか悲しそうな笑顔になった。
「だから、どちらかがリーンを独り占めしないと、災いの元になりかねないの。それだけは、よく理解した上で動きなさい。」
「もし、あたしがリーンを独り占めしようとか考えたら、どうするんだよ。」
「とりあえず、この国は終わりね。」
リアのさらっと言った言葉に、クロはどこか空恐ろしさを感じた。
そのまま二人は黙りがちになり、なし崩しでその日の茶会は終了となった。
その帰り際のことである。
「あっ、クロ公。この前のご褒美の件だけど、ちゃんと手配しておいたから。」
「ご褒美?」
一瞬考えて、この前の西の貧民街の件だと思い出した。
リーンと散策する手筈をリアが整えてくれるというやつだ。
「明日、リーンの体があくから、その時に外に連れ出して。お邪魔虫のあたしは、理由をつけてここに来ないようにするから。」
「マジか。わかった!ありがとな!」
クロは無邪気に喜んで、茂みに姿を消した。
それを、リアがどこか悲し気な表情で、見送っていた。




