Episode:泥棒猫19
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
翌日。
この日、ガゼボにいたのは、リア一人だった。
「今日はおまえが話し相手か。」
クロが挨拶がてらそう言うと、リアは素っ気なくうなずいた。
「リーンもビア様も、今日は用事があるの。でも、昨日ビア様が約束しちゃったからって言われて、あたしがお遣い。」
「そうかい。ご苦労さん。」
クロはそう言って、席に着き、紅茶を啜り始めた。
「あんたと二人きりでゆっくり話すのは初めてね。」
「そうだな。殺伐とした打ち合わせしかしたことなかったな。」
ビアの時とは違い、リアとクロは自然に会話が始まった。
「ちょっと訊きたかったんだけど、あんたって、政局を利用して金持ちになろうとか、政治に取り入ろうとか、そんなつもりはないのよね?」
リアが尋ねると、クロはバカにしたような表情を返した。
「当たりめぇだろ。こんなに面倒臭ぇことや命の危機が頻発するのに、政治になんか関わりたくねぇよ。」
「じゃあ、単純にリーンとお喋りしたかっただけなの?」
「……それの何が悪い?」
クロはリアをジロリと睨んだ。
「別に悪いとは言ってないわよ。リーンにはそういう人がいなかったから、むしろ私は感謝してるわ。」
「どういうことだ?」
クロには今一つ意味がわからない。
「リーンは皇太子っていう立場だから、生まれた時から関わる人間全てが、政治に関する人ばかりだったのよ。母親も早くに亡くなっちゃったしね。唯一、あたしだけが友達的な立ち位置だったけど、やっぱりフロー一族には変わりないし、完全に政治的人物じゃないかっていうと、そうでない。」
「要するに、どういうこった?」
「要するに、ただのお友達がリーンにはいなかったってこと。それができたことで、リーンは大きく前に進みだした気がする。私にはできなかったことよ。」
リアはほんの少しだけ、悔しそうに言った。その辺りから、リアとリーンの微妙な距離感が窺い知れる。
「あたしは、たまにここでお茶会してただけだけどな。でも、それであたしらの生活がいい方に変わるなら、この前の大立ち回りも無駄じゃなかったってこった。」
クロは菓子を咥えた。
「おかげで、こっちは凄く苦労したけどね。ビア様がフォローしてくれたおかげで、何とか乗り切ったけど。」
リアはまだ恨み言を言っている。余程大変だったらしい。
「だから、悪かったって。これでも精一杯やった方なんだよ。」
「わかってる、一番悪いのはビア様を暗殺しようとしてた奴らだし、あの状況で全員叩きのめしたのは、凄い離れ業だったのも認めてる。でも、本っ当に大変だったのよ。首が飛ぶかと思ったもん。」
「そんなにかよ。」
「そんなによ!」
リアは大真面目に言った。
「それはまぁ……お互い、命を張って、がんばったってことで。」
「無駄に綺麗に纏めないで!」
リアはそこで大きく息をついた。
「それに、まだ後始末が終わってないのよ。」
「後始末?」
クロは眉を顰めた。
「結局、犯人は全員死んじゃったから、誰の差し金かわからない。でもせめて、あの銃の出所は押さえなきゃならないの。あんな便利な武器が、国内に密輸されてるってなったら、それこそ大事になるわ。」
「銃を売った奴が誰かわからねぇと、やばいってこと?」
「そういうこと。」
「そんなの、憲兵達に調べさせりゃいいじゃねぇか。」
リアは首を横に振った。
「もう調べさせたわ。でも、出所はわからなかった。多分、表沙汰になってないルートがあるんだと思う。それを、この前の騒ぎの責任をとる形で、あたしがやらなきゃならなくなったの。」
リアは心底しんどそうに溜息をついた。
「武器なら、西の貧民街にこっそり売ってる奴らがいるけど、あれかな。」
クロが何気なく言うと、途端に顔を上げた。
「あんた、心当たりあるの!?」
食い気味にリアが叫んできたので、クロは思わずのけ反った。
「あ、ああ。でも、西の貧民街はあんまり行かないし、細かいことは知らねぇよ。」
「じゃあ、調べて!」
「ええ~?」
クロは露骨に嫌そうな顔をした。
「あたし達だと、貧民街に下手に介入できないの!あんたなら、調べられるでしょ?」
「やだよ。西の貧民街は、数ある貧民街の中でも、特にガラが悪いんだから。ましてや、武器商人相手なんて、下手したらぶっ殺されるっての。」
「あんたなら、上手く出来るでしょ?」
「簡単に言いやがって……」
クロは溜息をついた。
「じゃあ、何かご褒美あげる。それでどう?」
リアはかなり必死だ。
それだけ、捜査が難航しているのだろう。
「でも、おまえこの前の盾の一件で、金ないんだろ?」
「だから、お金かからないことで……そうだ、この前、あんたリーンと一緒に城を抜け出したんでしょ?」
急に話が変わった。
「リーンから聞いたのか。まさか、調べないと処刑するとか言わないよな?」
「言わないわよ。そうじゃなくて、リーンがまた散歩に行きたいって言ってるの。でも、ビア様が来た今となっては、前みたいに簡単にはいかないの。リーン一人ではね。」
「つまり、その手引きをおまえがやると?」
「そう。あんたも、リーンとデートしたいでしょ?」
確かに、それは吝かではない。
「わかった。ただ、あたしの身に危害が及ばない範囲だけだぞ。この前みたいなのは御免だ。」
「勿論。宜しく頼むわ。」
リアは愛嬌たっぷりの笑顔で、クロの手を握った。




