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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Episode:泥棒猫

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67/141

Episode:泥棒猫18

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 翌日。

 クロは指定通りの時間にガゼボを訪れた。

 だが、そこにいたのはビア・ヴェサルだけであった。

「こんにちは。」

 ビアが丁寧に挨拶してきたが、クロはそういう文化は持ち合わせていない。

「あれ?姫様一人か?」

「ええ。リアさんが急用で来られなくなってしまいまして。今日は私一人がお茶のお相手となってしまいました。」

「いやまぁ、別にいいけど……」

 一国の姫とサシでお喋りしろと言われても、流石に気が引くというものだ。リーン相手なら、そんなことはないのだが。

 とりあえず、クロとビアは席に着くと、紅茶を啜り始めた。

「ずず……」

 クロのほうは、特段ビアとの話題がない。だから、何を話せばいいのかわからない。

「昨日の続きになってしまうのですが。」

 そんな雰囲気を察したか、話題を切り出したのはビアだった。

「クロちゃんは産まれてからずっと、この国の貧民街に暮らしているそうですね。親御さんとかは、どうしてらっしゃるのですか?」

 クロはビアの意図がわからなかったが、とりあえず正直に答えることにした。

「物心ついた時には、もう親はいなかった。だから、生きてるのか死んでるのか、わからねぇ。そもそも、この国で産まれたのかも、はっきりしねぇんだよ。」

 クロの告白に、ビアの表情が曇った。

「そうですか。それは失礼を致しました。」

「別にいーよ。貧民街じゃ珍しいことじゃねぇ。」

 リーンもそうだったが、いちいち、こういう話題で詫びを入れてくる辺りが、王族の変わったところだなと、クロは思っている。

 多分、王族周辺の礼儀作法なのだろうが。

「それでは、今は一人でお暮しなのですか?」

「ああ。一応、育ての親のばあさんは、隣に住んでるけどな。」

「そうですか。それでは一つ相談なのですが……」

 ビアは居住まいを正した。

「クロちゃん、私の侍女になりませんか?」

「じじょ?」

 クロは面食らった。

「正確には、形式的に侍女になる、ということです。今後、国を統合するにあたって、先日のように命を狙われることもあるかもしれません。そういう時に、クロちゃんに守ってほしいのです。」

「要するに、侍女のふりしたボディガードってわけか。」

 クロがそう言うと、ビアは頷いた。

「現状、男性の警備はいますが、自分は女なので、やはり女性しか連れていけない局面はあるのです。ですが、現状侍女の中に武術の心得があるものは皆無なので、もし襲撃されれば、一たまりもありません。」

「なるほど、敵が頭の回る奴なら、そういうのを狙ってくるかもな。」

 この辺りは、リーンとはまた別のデリケートな部分だ。

「なので、クロちゃんがいてくれれば、心強いのです。侍女になって頂ければ、お給金も出せますし、今のように罪を犯しながら暮らす必要はなくなります。」

 どうやら、ビアはクロのことを全面的に信頼してくれているらしい。

 それはそれで嬉しくないこともないが、クロとしては何となく面映ゆい。

「確かに、飢える心配はなくなりそうだな。それに、リーンやリアとも、堂々と会うことができるようになるってわけか。」

 クロはそこまで言って、言葉を切った。

「でも、それはできねぇ相談だ。」

 ビアはちょっと驚いた顔をした。

「なぜですか?」

「あたしの育ての親のキノばあさんだが、未だに懲りず、貧民街の身寄りのない子供を育ててるんだよ。その食い扶持を稼いでるのがあたしなんだ。あと、他の街の年寄りにも、時々食べ物を届けている。この城をショートカットに使ってたのも、街と街を手早く移動する為だ。シービングキャットなんて言われて有名になってるらしいが、要は食い扶持が多くて、しょっちゅう盗みを働いてるだけなんだよ。」

 クロが置かれている状況が想像よりシビアだったのだろう、ビアは真剣な顔で考え込み始めた。

「……では、クロちゃんに出すお給金とは別に、その方々の食料も城で確保するというのは、どうでしょうか?」

 クロは首を横に振った。

「どこの範囲までそれをやるんだ?キノばあさんだけか?ばあさんが面倒見てる子供も含むか?他の街の年寄りはどこまで入れるんだ?そうなったら、食い物をもらえる貧民とそうじゃない貧民で不公平が出る。」

「不公平、ですか……」

「貧民街での不公平は、殺しを生むぞ。」

 クロが突き付けたのは、貧民街の厳しい現実だった。

 ビアは確かに王族や貴族の中では聡明と思われるが、どうしても発想は富裕層の暮らしがベースになってしまっている。

「単なる付け焼刃では、無理ということですね。確かに、クロちゃんの言う通りです。」

 ビアはあっさり自分の考えの非を認めた。この辺りの物分かりの良さが、彼女の聡明さの源なのかもしれない。

「そういうわけだから、すまねぇな。こんな盗人をそこまで買ってくれたのは、嬉しいけど。」

 クロがそう言って、話を畳もうとした。

 その時だった。

「では、私が嫁いだら、貧民街の人達全てを保護して、貧民街そのものをなくします。それでいかがでしょうか。」

「ええっ!?」

 いきなり、途轍もなくでかいことを言われて、クロは再び面食らった。

「オブスタクルとヴェサルの貧民がきちんと暮らせるよう、専用の施設を作ります。詳細は、リーン様や他の臣下の方々と相談しますが、そうすればクロちゃんは心置きなく、侍女として働けるのではないでしょうか。」

「いやまぁ、そりゃ確かにそうだが……何年先の話になるんだよ、それ。」

 クロがそう言うと、ビアは人差し指を一本立てた。

「一年です。一年で施設を作る目途を立てます。」

 ビアは言い切った。

「一年って……そんなすぐできるのか?」

「はい、必ずやり遂げます。ですから、一年後、この計画が軌道に乗ったら、私の侍女になっていただけますか?」

 ビアはそう言ってニッコリと笑った。

 だが、クロは呆気にとられるしかなかった。

 清楚で大人しい姫様かと思いきや、とんだ豪胆な肝っ玉をお持ちのようだ。旦那になるリーンより、遥かに男らしい。

「わかったよ。じゃあ、一年後、楽しみにしてるぜ。」

 ここまで言われると、クロも笑うしかなかった。

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