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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Episode:泥棒猫

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66/141

Episode:泥棒猫17

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 そして二日後。

 クロは約束の時間に城に忍び込むと、いつものガゼボに向かった。

 そこに待っていたのは、久しぶりに対面するリーン……だけではなかった。

「あら、あなたがクロちゃん?」

 真っ先に声をかけてきたのは、ビア・ヴェサルだった。

 その後ろには、申し訳なさそうにしているリアの姿も見える。

「……どういうこった?」

 楽しみにしていた気持ちを、若干挫かれた気がしながら、クロが尋ねた。

 すると、リアがバツが悪そうに説明を始めた。

「一昨日の後、リーンにこのお茶会のことを話しに行ったんだけど、それをビア様に聞かれたのよ。それで、リーンと普段タメ口で話してるのがバレて、黙ってる代わりに、一緒にお茶会に出たいって言われた次第。」

「だって、あのシービングキャットでしょ?会ってみたいじゃないですか。」

 リアにしては珍しいミスだったが、それを見逃さないビアも中々目敏い。見た目は清楚でやや地味な印象のお姫様だが、とんでもない食わせ者かもしれない。

「ごめんね、クロ。今日は四人でお茶会でもいいかな?」

 リーンが申し訳なさそうに言うと、クロは溜息をついた。

「わかったよ。頼んだのはこっちだからな。」

 クロは渋々ガゼボの中に入った。


 四人で席に着くと、まずビアが話題を切り出した。

「まずは先日のお礼を。クロちゃん、危ないところを助けて頂き、ありがとうございました。」

 一国の姫からいきなり礼を言われて、クロは多少たじろいだ。

「いや、まぁ、そんな大したことしてねぇけど。」

「リアさんから大体の話は聞きました。お披露目会を中止にしないよう、腐心しながら止めて下さったそうで。あなたがいなければ、お披露目会は無事に遂行できなかったでしょうし、そもそも私の命もなかったかもしれません。」

「まぁ、確かに苦労はしたけどな。」

 前日にお腹が痛くなるくらいの気苦労はあった。

「俺からも礼を言わせてくれ。俺の大事な婚約者を守ってくれてありがとう。それに、クロはビアの命だけでなく、オブスタクルとヴェサルの平和も守ってくれたんだ。本当に感謝している。」

 リーンとビアが、揃ってクロに頭を下げた。

「別にいーって。っていうか、一国の皇太子と姫が、盗人に頭なんか下げて、いいのか?」

「外に知れたら、一大事ね。」

 リアがさらっと恐いことを言った。

「じゃあ、もうやめとけって。んで、結局、何でこのお姫様は狙われたんだ?」

 クロが尋ねると、三人の表情が暗くなった。

「男達は全員、連行途中に死んだわ。」

 代表してリアが言った。

「なんだって!?もしかして、やりすぎた?」

 クロが青ざめて訊くと、リアは首を横に振った。

「いいえ、全員自殺。こういう事態に備えて、毒を隠し持っていたのよ。身元がわかるものも持ってなかったし、結局、オブスタクル側かヴェサル側か、どちらの刺客かわからず終いよ。」

「或いは、別の国の刺客の可能性もあります。オブスタクルとヴェサルの合併をよく思っていない国は、いくつかありますから。」

 ビアの補足に、クロは溜息をついた。

「政治ってのは、本っ当に面倒臭ぇな。おまえら、やってて嫌になんねぇのか?」

「なりますよ。特に今回みたいに命を狙われたりした、猶更です。」

 答えたのはビアだった。

「それでも、私達は食べ物に困ったり、飢え死にを心配したりする必要はありません。その時点で、貧民街に暮らすあなた方より、遥かに恵まれています。嫌だとかつらいとか言っていたら、バチが当たります。」

 ビアの発言は、今までクロが物を盗んできた金持ちや貴族とは違い、かなり真っ当なものに思えた。しかも、どこか芯が一本通っているような、そんな感じもする。

「そうかい。このリーンにも言ったが、そう思ってるんなら、少しでもあたし達が楽に暮らせるように、何とかしてくれ。あたしは自分の身一つならなんとかなるが、あそこに産まれた子供はそうはいかない。で、別に好きであそこに産まれたわけでもねぇ。」

 クロは日々、食料を運んでいるキノばあさんが預かっている子供達を思い浮かべながら言った。

 すると、リーンとビアは力強く頷いた。

「わかってる。クロやリアが繋ぎとめてくれた縁だ。俺達が絶対に何とかする。」

「その通りです。お任せ下さい。」

 ああ、お似合いだな……と、クロは思って、少し嫌な気分になった。

「さて!暗い話はここまで。こっからが本題!」

 リアが急に明るい声で場を切り替えた。

「本題?」

 クロが怪訝な顔をする。

「まずはクロ公!」

「なんだ、クロ公って……」

「身分が下のくせに、あたしより優遇されてるから、その嫌味。」

 リアは隠すことなくストレートに言ってきた。

「別にどうでもいいが。」

「あたしもビア様も、クロ公とリーンがどうやって出逢って、夜な夜な逢引してたのか、気になってしゃーないの!」

「会ってたのはいつも昼だ。」

「それはいいの!一国の皇太子と、一介の盗人がどうして出逢って、秘密裏に何度も会って、何をして何を話していたのか、洗い浚い白状しなさい!」

 リアにビシッと言われて、クロはうんざりしたように溜息をついた。

「別に、大したことはしてないけど。」

「いや、あたしの勘が正しければ、リーンがビア様と結婚を決意したのも、クロ公が関わっているはず。」

 リアが指摘すると、ビアが少し驚いてクロのほうを向いた。

「そうなんですか?クロちゃん、詳しく教えて下さい。」

「リーンのほうに訊け。」

「じゃあ、リーン!今すぐ話しなさい!」

「……なんか、犯罪者の取り調べみたいだなぁ。」

 リーンはたじろぎながら、頭を掻いた。

 結局、それから長時間かけて、リーンとクロは馴れ初めから喧嘩別れに至るまでの経緯、そして暗殺阻止の大立ち回りの舞台裏まで、細かく話を訊かれることとなったのであった。


「なぁ、まだこの話続くのか?」

 クロがそう言ったのは、日が沈み始めた頃だった。

 リアとビアの質問攻めはいつまでも止まらず、とうとう日暮れを迎えてしまっていたのだ。

「ああー、まだ訊きたいことが山のようにあるのにー」

 リアが悔しがりながら悶えている。

「じゃあ、クロちゃん、明日も同じ時間にここでお茶会しませんか?」

 ビアがクロに提案した。

 だが、クロは露骨に嫌そうな顔をした。

「明日もこの尋問が続くのかよ。」

「あっ、でも俺明日は他国の使者との謁見があるから、来れないんだけど。」

 リーンがそう言うと、ビアはニコリと笑った。

「大丈夫です。私とリアさんでおもてなししますので。」

「賛成!」

 リアが素早く同意し、クロは天を仰いだ。

「わかったわかった。明日の同じ時間だな。」

 相手が一国の姫となると、流石のクロも無下にはできない。

 仕方なくクロが了解すると、女子二人は大喜びだった。

 そうして、その日のお茶会はお開きとなり、クロはいつもの壁の抜け穴から城を後にした。

「なんか、妙な人脈ができちまったなぁ。」

 自国の皇太子とその従妹の侍女、そして停戦中とはいえ、敵国の姫……貧民の盗人という立場からすれば、凄まじいとしか言えない人脈だった。

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