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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Episode:泥棒猫

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Episode:泥棒猫16

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 リーンとビアの婚約お披露目会は、日が昇ると同時に始まった。

 まず、ヴェサル城で質素なセレモニーが行われ、最近は病床に伏していることが多かったキング・ヴェサルも久しぶりに国民の前に姿を現した。

「それではビア、粗相がないようにな。」

「はい。心得ております。」

 キング・ヴェサルの激励に、ビアはニコリと応え、従者と共に城を後にした。

「リーン様、待ってて下さい。」

 ビアはウキウキしている内心をひた隠し、オブスタクルとの壁の門に向かって歩き始めた。


 一方、オブスタクル側は、既に壁の門から城へ続くメインストリートに観衆が集まり始めていた。

 クロは夜明け前から通りに面する高層の建物によじ登り、怪しい者がいないか目を光らせている。

 夜明け後しばらくまでは、通る人数も少なかったので、チェックできたが、行進の時間が近づいてくると、次第に観衆の数が増え、クロ一人では確認しきれなくなった。

「やっぱり、持ち物で探すしかないな。」

 昨日、お披露目会の段取りをリアから教えてもらった際、銃の形状もついでに教えてもらっていた。子供の背丈くらいの細長い形状のものらしく、それを地面に水平に構えて撃つのだそうだ。

 いきなり抜き身で銃を持っているとは考えづらいが、形状からして細長い袋か入れ物に入れて持ち運ぶはずである。そういう荷物を持っていれば、観衆の中でも比較的目立つ。

 クロが探すのはそれだ。

「割と手ぶらの人間が多いな。助かるぜ。」

 行進を見に来た観衆は、その殆どが何も持っていない。クロは器用に建物の屋根を飛び移りながら、通り壁と城の間を何往復もして、怪しい人物を探していく。

 そうして、日が昇り始めて、しばらく経った頃だった。

「ん?あれは……」

 クロの目に、二人組の男が留まった。

 やたらと眼光鋭く辺りを見回し、その内の一人は子供の背丈くらいの細長い袋を持っている。その纏う雰囲気は、この前クロが遭遇した三人組と酷似している。

「あれか……二人一組で、一人は撃って、もう一人は見張りってところか。」

 クロはその二人に当たりをつけたが、そこからもう一度辺りを見回した。

 目撃された男は恐らく五人くらいはいる。銃が一つと限らないので、もしかしたら、もう一組いるかもしれない。

「あっ!いた!」

 最初に見つけた二人組から少し離れたところに、もう一組、二人組の男がいた。やはり、辺りを警戒しており、一人は同じような細長い袋を持っている。

「照準に問題ありってことだから、二組体制で狙うのか。念の入ったこった。」

 一応、その二組の男達に当たりはつけたものの、あの袋の中身が銃だとは限らないので、確証が持てない。また、もし二組同時に銃を構えられたら、クロ一人では対処しきれない。

「どうする……ちょっと危険だが、先に喧嘩でも吹っ掛けて、憲兵に突き出すか……でも、万が一違ったら、あたしが捕まりかねないし、そうなったらここを離れなきゃ、逃げられない……」

 やはり、一人で相手をするのは難しい。

 リアの愛嬌のある笑顔を憎々しく思った、その時であった。

 壁の門の扉が、重苦しい音をたてて、開き始めた。

「しまった!もう来たのかよ!?」

 リアに聞いていた予定の時間より、少し早い。てっきり、予定通り来るものだと思っていたクロは、一気に焦り始めた。

 開かれた扉の向こうには、十数人の身形の良い人間達が立っていた。

 その真ん中に護衛されるような形で、一際綺麗に着飾った妙齢の女性がいる。

 あれが、ビア・ヴェサルであることは、クロにも一目瞭然だった。

「仕方ねぇ!こうなりゃ、多少の騒ぎはリアの奴に尻ぬぐいしてもらうか!」

 クロは懐からボロ布を出すと、地面に降りて、手ごろな石を探した。

 その間に、ビア一行は門を抜け、オブスタクルの領内に足を踏み入れた。

 同時に、男達が細長い袋を開ける。

 中からは、やはり黒光りする鉄筒が出てきた。

「当たりだな。」

 クロは石を拾い、ボロ布で包む。

 男達は二組とも銃を完全に取り出し、徐々に歩み寄ってくるビアに銃口を向けた。

 だが、観衆は皆、ビア一行に目を奪われ、男達の行動に誰も気付いていない。

 また、見張り役が銃を構える男を体で隠し、前方の憲兵やビア一行の警備からは見えないようにしている。

「させるかよ!」

 クロはビア一行に近いほうの二人組目掛けて、ボロ布を投石器代わりにして、勢いよく投げつけた。

「ぐあっ!」

 バン!

 石は銃を構えていた男に直撃すると同時に、破裂音がした。石が当たった拍子に銃口は上を向いており、ビアや他の人には当たっていない。

「おいどうし-がっ!」

 もう一人のほうにも石が飛んできて、見事頭にヒットした。

 だが、音に驚きビア一行が足を止め、同時にもう一組の男達が慌てて銃を構え直した。

「させるかってんだよ!」

 クロは男達の一瞬の焦りを見逃さず、構える直前に男の背後に走り寄っていた。腰の短刀を抜き、銃を構える男の肩を背後から刺す。

「ああああっ!」

 男は悲鳴を上げて銃をとり落とし、クロはそれを素早く拾うと、もう一人の男の足に銃口を密着させた。

 撃ち方リアに習っている。

「や、やめろ!」

「やなこった。」

 バン!

 男が足を押さえて倒れ込んだ。

 その発砲音を聞きつけ、すぐに憲兵が走ってきた。

「どうした!何事だ!」

 憲兵はかなりの剣幕だが、クロは動じない。

「こいつらを目立たないように捕らえろ。音はセレモニーの花火か何かだって誤魔化して、お披露目会は続けろ。あっちで倒れてる二人組も……あっ!!」

 瞬間、クロは驚愕した。

 通りの向かい側の観衆の中に、もう一組、銃を構えている男が見えたのだ。

「くそっ!手に入るのは一つか二つじゃなかったのかよ!!」

 止むを得ず、クロは観衆の列から飛び出した。

 そのまま、ビアの護衛に素早く駆け寄る。

「それ貸せ!」

 クロが引っ手繰ったのは、護衛が持っていた装飾された盾だった。

 銃口は真っ直ぐビアのほうを向いている。

だから、着弾点は容易に想像がついた。

 バン!

 発砲音と盾を持ったクロが、ビアの前に滑り込んだのは、ほぼ同時だった。

 ギン!という音共に、盾の左上が小さく凹んだ。

 タッチの差で、クロのほうが早かった。

「いい加減にしやがれ!!」

 クロはそのまま男達に突進し、盾で手早く殴りつけた。

「げふっ!」

「ぎゅ!」

 二人は敢え無くその場で倒れ込み、すぐに憲兵が取り押さえた。

 クロは辺りを見回したが、どうやら他にビアを狙う者はいないようである。

 だが、行進は止まってしまい、状況が把握できない観衆は、ざわついている。

 不測の事態とはいえ、派手に暴れ過ぎた。

「あの姿、もしかして、シービングキャット?」

 しかも、観衆からそんな声も聞こえてきている。

 クロは小さく舌打ちした。

「あー、面倒くせぇ。これだから、政治だの何だのは嫌なんだよ。」

 クロは独り悪態をつくと、盾を持ったまま、徐にビア一行のほうに戻ると、その前に立った。

 観客がその様子を、固唾を呑んで見守っている。

 それを確認すると、不意にクロは大声を張り上げた。

「あたしはシービングキャット。今、オブスタクルを騒がしている盗人だ!」

 途端に観客がどよめいた。

「いつもはケチな金持ちから食い物を盗んでいるが、今日は国を挙げてのお祭りだ!何か、もっと大きなものを盗んでやろうと思って物色してた。そうしたら、そこで伸びてる奴らがいいもの持ってやがった。何を持ってたって?」

 クロはニヤリと笑って見せた。

「ヴェサルのお姫様の暗殺計画だ。」

 途端に、観客から悲鳴に近い声があがる。

「こんな面白ぇものは盗まない手はない!どうせやるなら、お姫様の目の前で、派手に盗んでやろうと思って、参上した次第。そして今それは、見事に盗み出された。このシービングキャットの手によって……なーんてな!」

 次の瞬間、クロは盾の陰に隠れたかと思うと、一瞬にして町娘の姿に早変わりした。

 観客が再びどよめく。

「皆さん、お騒がせしました!これは今回のお披露目会の為に仕込ませてもらった、サプライズ大道芸です!楽しんでいただけたでしょうか?」

 クロが威勢よくそう言って大袈裟なお辞儀をすると、観客から拍手が巻き起こった。

 咄嗟の策だったが、シービングキャットが人助けをして、尚且つこれだけの大勢の前で素顔を晒して町娘の恰好をするなど、誰も思わない。

 おかげで、見事に騙されてくれた。

 一応、憲兵達も空気を読み、男達を密かに引きずっていっている。

 クロは一通り観衆に向かって挨拶をすると、ビアに持ったままだった盾を返した。

「すみません、えー、ちょっとだけ不測の事態があって、盾に傷がついてしまいました。請求は、えっと、リーン皇太子にお願いします。」

 クロが慣れない敬語でそう言うと、ビアは一瞬鋭い目でクロのことを見た。

「……!」

 思わず、クロはビクッとしたが、すぐに朗らかな笑顔になり、ビアは盾を受け取った。

「ありがとうございます。とても面白かったです。お披露目会の後、しばらく滞在しますので、機会があればまたお目にかかりたいです。今日の舞台裏も聞きたいですし。」

「いや、はい。まぁ、機会があれば。」

 完全にバレているのがクロもわかったが、その上で口裏を合わせてくれるつもりらしい。向こうとしても、ここでお披露目会を中止にしたくはないのだろう。

「そ、それでは、失礼します。」

 クロは下手な挨拶をすると、猛スピードでその場を駆け出し、観衆の中に飛びこんだかと思うと、そのまま姿を消した。

 観客から再び「おおー!」と歓声が上がった。

 その様子を見ながら、ビアはニコリと微笑んだ。

「思ったより面白そうな国ね。」


 男を計六人捕らえた憲兵達は、とりあえず物陰まで運んだものの、その処理をどうするか、途方に暮れていた。

 六人全員が見事に気絶しており、重症の者の手当てを優先している状態だ。

「誰に報告したもんか……」

 憲兵の隊長が溜息をついた。

 恐らくこれは、自分達が深入りしていい問題ではない。真っ先に報告する相手を間違えたら、政治的な問題になりかねない。

 と、その時だった。

「リア・フローに報告しろ。」

 不意に物陰から声が飛んできた。

 見れば、先程この男達を叩きのめした町娘が、いつの間にか立っていた。

「何だと?どういうことだ?」

 隊長が尋ねるが、町娘は面倒臭そうにするだけだ。

「あたしはリア・フローの遣いだ。彼女が大体の事情を把握しているから、後始末はリアに指示を請え。」

 それだけ言い残し、町娘は走り去った。


 行進で多少のサプライズはあったものの、お披露目会はその後、滞りなく行われた。

 ビア・ヴェサルは予定より少し早くオブスタクル城にたどり着き、一旦中に入ってから、正面入り口のバルコニーで二人揃って登場となった。

 観衆の大歓声の中、リーンとビアは朗らかな笑みで手を振り、そして、両国民に向かって宣言をした。

「私、リーン・フローとビア・ヴェサルは、ここに婚姻することを宣言致します。そして、それに伴い、長く対立してきたオブスタクル王国とヴェサル王国は手を結び、一つの国となります。どちらの国民も、全員が幸せになれるよう、私もリアも全力を尽くします。皆さんも、共に頑張りましょう!」

 リーンの言葉に、観衆は大盛り上がりだ。

 そして、その宣言を少し離れたところで、黒装束の少女が聞いていた。

「……リーンが『私』なんて、似合わねぇなぁ。」

 クロはぼそりとつぶやいた。


 日が沈む頃になると、ようやく祭りはお開きの雰囲気となってきた。

 そんな、独特の物寂しさ漂う街を、リアは一人で歩いていた。

 目指すは、昨日クロと遭遇した、通りの一角である。

「おっ、ようやく来たか。」

 そこには既にクロの姿があった。昨日のうちに待ち合わせの約束をしておいたのだ。

「ちょっと!何であんなに派手にやったの!?」

 開口一番、リアはクロに怒鳴った。

「しかたねぇだろ。ビアや他の奴らの命を守ったんだから、勘弁しろ。というか、おまえが銃は2つくらいしかないとか言うから、油断したんだろうが。」

「それくらい想定しなさいよ!あんたがあたしに押し付けたから、言い訳するのが物凄く大変だったんだから!色んな人に怒られたし!」

「おまえなら、何とかなっただろ。」

 さらっとクロに言われて、リアは思わず黙った。

「……はぁ。まぁ、何とかしたけど。」

 図星だったらしい。

「とりあえず、言われた通り、ビアの命は守ったし、下手人共以外はケガ人もなし。その上、お披露目会も中止にならないように立ち回ったんだから、十分だろ。」

「まぁ、ギリギリだったけどね。」

「じゃあ、礼をよこせ。」

 クロは手を差し出したが、リアは首を横に振った。

「あんたが壊した盾の修理代、あたしが払うことになったの。だから、お金なくなった。」

「ええ?おまえ、城で働いてるのに貧乏なんだな。」

 クロが軽口を叩くと、リアがジロリと睨んだ。

「あんた、あの盾が幾らするか、わかって言ってる?」

 そう言われて、クロは初めて冷汗が出てきた。

「……盾は武器を受ける為のもんだろ。」

「あれは儀礼用の飾り盾よ。どっちかと言えば、飾って置く為の骨董品なの。」

「いや、咄嗟だったから……」

 流石にクロもバツが悪くなったが、リアは手でそれを制した。

「だから、あたしが払うから気にしないで。あたしの小遣いで、ビア・ヴェサルの命を守れたんなら、安いもんよ。」

「……悪かったよ。」

 クロは、もごもごと謝った。

 最近、クロはちょっとだけ素直になった。

「というわけで、謝礼は渡せないけど、お茶会の段取りはしてあげる。」

「本当か!?」

 クロの表情がパッと明るくなった。

 その顔を見ると、どこにでもいる女の子のようにしか見えない。

「ええ。二日後、リーンの体が空くと思うから、その日の午後に連れていくわ。いつも、そのくらいの時間に待ち合わせてたんでしょ?」

「ああ。恩に着るぜ。」

 クロは心底嬉しそうだ。

 だが、対してリアの表情は少し浮かない。

「……じゃあ、その段取りで。」

 リアはそれだけ言い残し、その場から立ち去った。

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