Episode:泥棒猫14
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
ルミに会ったその日のうちに、クロは管轄している貧民達の食料をそれぞれ三日分ずつ調達し、配って回った。
そうして、三日間分時間を作り、翌日から早速動き始めた。
結婚のお披露目会はその三日後だ。対策をとるには、今日を含めて二日間しか時間がない。
「とはいえ、何をどうすればいい……?」
現状、わかっているのは、どちらの国の者かわからない連中が、ビア・ヴェサルの命を狙っているらしい、ということだけだ。ここで話していたということは、恐らく下見で来ていた可能性が高く、だとすると、決行はやはりお披露目会で、ビアがオブスタクルに来る時だと考えらえる。
だが、わかっているのはここまでだ。
しかも、それを城の人間に伝える手段が、貧民街の盗人であるクロにはない。
「せめて、リーンとのお茶会を続けてればなぁ……」
あそこで怒ってしまったことが、こんな形で災いするとは思っていなかった。しかし、それ悔いたところで、状況は改善しない。
とりあえず、クロは城へ向かい、いつもの壁の穴から中に忍び込んでみることにした。
お披露目会の準備で多くの人間が出入りしているので、人は多いものの、警備は若干手薄になっている。
「こんなことだから、あんな連中の侵入を許すんだよ……」
自分のことは棚に上げて、クロは遠くに見える憲兵に言ってやった。
庭に侵入したクロは、茂みに隠れていつものガゼボに向かったが、そこには誰もいなかった。
「まぁ、都合よくいるわけないか。」
少し待ってみたが、リーンどころか、他の人間も来る気配はない。どうやら、お披露目会はガゼボがある城の東側とは真裏、西側の入口及びバルコニーで開かれるようで、人員は殆どそちらに集中しているらしい。
「これは埒が明かないな。」
クロはリーンに会う線は諦め、城から脱出した。
次に向かったのは、ウェスタームのような、貧民とも比較的接点がある街の人のところだった。何件か回って、お披露目会の行程を調べ、ついでにクロが見た男三人を見ていないかも確認した。
その結果、どうやらお披露目会は当日の朝、ビア・ヴェサルがオブスタクルに入るところから始まるらしいことがわかった。
流れとしてはまず、オブスタクルとヴェサルを隔てる壁の扉が開き、そこからビアを始めとしたヴェサルの要人達が行進してオブスタクル城へ向かう。その後、一旦門は閉じられ、諸準備の後、西側にある正面入り口が開かれ、そこに面したバルコニーで二人揃ってお披露目となるそうだ。
壁の扉から城まではメインストリートの一つにもなっている大きな通りがあり、そこを直進するようだが、街の人や貧民に聞いたところ、その通りの周辺で、例の三人組やそれに似た格好の男が複数回目撃されていた。
そこまで調べたところで、日が暮れてしまった。
クロは塒に戻り、今日わかった範囲の情報を整理した。
「やっぱり、狙うのは比較的警備が手薄な行進中か……」
男達の出現位置から見て、それは間違いなさそうである。
だが、手段やタイミングに関することは、まるでわからないし、何人で行動しているのかもはっきりしない。少なくとも、五人以上いるのは確かだが。
「当日ぶっつけで見つけても、全員一気に叩きのめすのはムリだな。城側からすれば、あたしも警備対象だしな。」
そう、クロは決して城側やリーンの味方だと思われていない。だから、派手には動けない。
「字が書けるウェスタームにでも頼んで、手紙を書いてもらって、それを城に届けるか……いや、単なる怪文書だと思われて終わりか。くっそー、難しいな……」
クロはそのまま、一晩頭を抱え続ける羽目になった。
翌日、クロは再び城に忍び込んだ。
だが、やはりガゼボにリーンの姿はない。
「くそぉ、いねぇな。どうすりゃいいんだ。」
クロは悪態だけついて、城から出ると、とりあえず行進の会場となる通りへ向かった。
こちらも準備は進んでおり、既に一般人は通りを通れなくなっていた。
通りの両サイドには柵が設けられ、それが壁の扉から城までずっと続いている。恐らく、この柵の外側から民衆が行進を見られるようするのだろうが、当然柵には警備の人間が並び、不届き者がいないか目を光らせることになると思われる。
「……結構、距離があるな。」
当然だが、柵からビア一行が通ると思われる通りの真ん中まで、かなり離れている。恐らく大股でも十歩は必要で、柵から飛び出して襲おうと思っても、辿り着く前に取り押さえられる可能性が高い。
「となると、遠距離から狙える投擲武器か、爆発物系か……」
もし、爆発物系での襲撃となると、ビア達だけでなく、民衆にも被害が出かねない。
「おいおい……いよいよ責任重大になってきたじゃねぇか。」
クロはうんざりしてきた。
その後、しばらく通りの周りを調べたが、爆発物らしきものは仕掛けられていなかった。だが、通りに面した建物の中となると、調べるのは困難だ。絶対に安心とはいえない。
一方、投擲武器に関しては殺傷力が低いので、確実に殺せる保障がない。
どちらも、可能性はあるが、この形式で暗殺するには、何か決定打に欠ける気がした。
「今日は変な奴もいないしなぁ……」
一応、例の男達がいないかも見ながら歩いているが、今のところそういう人物に出くわしてもいない。
そして、当初からの課題である、城側の人間にどうやってこれを知らせるかが、まったく解決できる気配がない。
いよいよ、八方塞となってきた。
「くっそぉ、あと半日しかないってのに……!」
珍しくクロの顔に焦りが出ていた。
そうして、取り留めもなく辺りを見回していた、その時だった。
クロの視界に、通りを歩く一人の女が入ってきた。
「あれは……確か、リア・フロー……」




