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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Episode:泥棒猫

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58/141

Episode:泥棒猫9

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 それからというもの、大体3日から4日に一度は、ガゼボで秘密のお茶会が開かれるようになった。

 時間は決まって昼下がりから夕刻にかけての麗らかな時間で、話題はその都度バラバラだった。

 だが、不思議と話が途切れることはなく、それぞれの身近な話から、政治経済、自然科学に至るまで、本当に多岐に渡る雑談をリーンとクロは交わしていた。

 最初は半強制的に来させられていたクロも、最近は自発的に来るようになり、少し楽しみにすらしていた。

 そんなある日であった。


「一回、城の外を見たいな。」

 お茶会の最中に、リーンがポソッとつぶやいた。

「えっ?城の外に出たことないのか?」

 クロは紅茶を吹き出しそうになった。

「いや、出たことないわけじゃないんだけど、年に一回くらいしか機会がないんだ。それも、自由に動き回れるわけじゃないし、大体社交会とかの用事で出るから、目的地と城を往復するだけなんだよね。」

「へぇ~、ちょっと街を散策するくらい、いいんじゃねぇの?」

 リーンは首を横に振った。

「腐っても皇太子だから、俺が外に出るとなると、警護の問題とかでみんな大変になるんだ。余計なお金もかかるし、この前の福祉の話と逆行しちゃうでしょ。」

「タダで警護してくれる臣下とかいないのかよ。人望がない皇太子だなぁ。」

「面目ない。」

 クロの辛辣なツッコミに、リーンは素直に返している。

「で、何で城の外に行きたんだ?」

 クロが水を向けた。

「最近、クロの話を聞いていて、自分が如何に世間を知らないか、痛感したんだ。名前がない者やいつ産まれたかわからない者がいるなんて、想像したこともなかったし、貧民街どころか、それ以外の民衆がどんな生活をしているのかすら、きちんと知らない。いくら、民衆の為の政治を目指しても、彼らの生活の現状を知らなければ、必ず齟齬が起こる。だから、今のうちに、少しでも城の外の様子を知っておきたいんだ。」

「まぁ、いい心がけなんじゃない?」

 クロは素っ気なく返す。

「でも、さっきも言った通り、俺には頼れる人間が殆どいないんだ。リアに無理を言えば、できないことはないかもしれないけど、リアにとってリスクが高すぎる。だから、現状俺にはクロしかいないんだ。」

「へぇ~……えっ?」

 そこで初めて、クロは話の本筋に気付いた。

「ちょっと待て!それはあたしに、こっそり城外へ連れ出せって言ってるのか?」

「頼むよ、この通り!」

 リーンはその場でバッと頭を下げた。

「冗談言うな!リアよりあたしのほうがリスク高いじゃねぇか!見つかったら、確実に処刑だぞ!?」

 クロは断固拒否の構えである。

「絶対に見つからないようにするから、お願い!クロ以外に頼める人はいないんだよ!」

「ダメだ!第一あたしは盗人だぞ?皇太子が盗人と連れ立って城の外に出るなんざ、ただの自殺行為じゃねぇか!」

「クロなら信頼できるから!大丈夫でしょ?」

 リーンは捨てられた子犬のような目で見てくる。

 クロは溜息をつく。

「あのなぁ……何であたしのこと、そこまで信用してるんだ?名前も家柄もないし、貧民街暮らしだし、おまけに盗人だぞ?」

 クロがそう言うと、リーンはなにか不思議そうな顔をした。

「だって、クロは凄くいい人じゃないか。少なくとも俺に危害を加えようなんて、思ってないでしょ?」

 底抜けの信頼を見せられ、クロは思わずたじろいだ。ここまで自分のことを信じてくれる人間に出くわしたのは、生まれて初めてだった。

「……おまえ、本当に皇太子のくせにバカほどお人よしだな。」

 クロは小さくぼやくと、パンと膝を叩いた。

「わかった。じゃあ、お人好しなおまえに現実を見せてやる。」

「本当に!やった!」

 リーンは子供のように喜んだが、クロはそれを手で制した。

「ただし!トラブルになってもあたしは責任を持たないからな。おまえが殺されることがあっても、見捨てて逃げるから、そのつもりでいろ。」

「わかった!」

 本当にわかっているのか疑わしいような、元気なお返事だった。

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