Episode:泥棒猫9
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
それからというもの、大体3日から4日に一度は、ガゼボで秘密のお茶会が開かれるようになった。
時間は決まって昼下がりから夕刻にかけての麗らかな時間で、話題はその都度バラバラだった。
だが、不思議と話が途切れることはなく、それぞれの身近な話から、政治経済、自然科学に至るまで、本当に多岐に渡る雑談をリーンとクロは交わしていた。
最初は半強制的に来させられていたクロも、最近は自発的に来るようになり、少し楽しみにすらしていた。
そんなある日であった。
「一回、城の外を見たいな。」
お茶会の最中に、リーンがポソッとつぶやいた。
「えっ?城の外に出たことないのか?」
クロは紅茶を吹き出しそうになった。
「いや、出たことないわけじゃないんだけど、年に一回くらいしか機会がないんだ。それも、自由に動き回れるわけじゃないし、大体社交会とかの用事で出るから、目的地と城を往復するだけなんだよね。」
「へぇ~、ちょっと街を散策するくらい、いいんじゃねぇの?」
リーンは首を横に振った。
「腐っても皇太子だから、俺が外に出るとなると、警護の問題とかでみんな大変になるんだ。余計なお金もかかるし、この前の福祉の話と逆行しちゃうでしょ。」
「タダで警護してくれる臣下とかいないのかよ。人望がない皇太子だなぁ。」
「面目ない。」
クロの辛辣なツッコミに、リーンは素直に返している。
「で、何で城の外に行きたんだ?」
クロが水を向けた。
「最近、クロの話を聞いていて、自分が如何に世間を知らないか、痛感したんだ。名前がない者やいつ産まれたかわからない者がいるなんて、想像したこともなかったし、貧民街どころか、それ以外の民衆がどんな生活をしているのかすら、きちんと知らない。いくら、民衆の為の政治を目指しても、彼らの生活の現状を知らなければ、必ず齟齬が起こる。だから、今のうちに、少しでも城の外の様子を知っておきたいんだ。」
「まぁ、いい心がけなんじゃない?」
クロは素っ気なく返す。
「でも、さっきも言った通り、俺には頼れる人間が殆どいないんだ。リアに無理を言えば、できないことはないかもしれないけど、リアにとってリスクが高すぎる。だから、現状俺にはクロしかいないんだ。」
「へぇ~……えっ?」
そこで初めて、クロは話の本筋に気付いた。
「ちょっと待て!それはあたしに、こっそり城外へ連れ出せって言ってるのか?」
「頼むよ、この通り!」
リーンはその場でバッと頭を下げた。
「冗談言うな!リアよりあたしのほうがリスク高いじゃねぇか!見つかったら、確実に処刑だぞ!?」
クロは断固拒否の構えである。
「絶対に見つからないようにするから、お願い!クロ以外に頼める人はいないんだよ!」
「ダメだ!第一あたしは盗人だぞ?皇太子が盗人と連れ立って城の外に出るなんざ、ただの自殺行為じゃねぇか!」
「クロなら信頼できるから!大丈夫でしょ?」
リーンは捨てられた子犬のような目で見てくる。
クロは溜息をつく。
「あのなぁ……何であたしのこと、そこまで信用してるんだ?名前も家柄もないし、貧民街暮らしだし、おまけに盗人だぞ?」
クロがそう言うと、リーンはなにか不思議そうな顔をした。
「だって、クロは凄くいい人じゃないか。少なくとも俺に危害を加えようなんて、思ってないでしょ?」
底抜けの信頼を見せられ、クロは思わずたじろいだ。ここまで自分のことを信じてくれる人間に出くわしたのは、生まれて初めてだった。
「……おまえ、本当に皇太子のくせにバカほどお人よしだな。」
クロは小さくぼやくと、パンと膝を叩いた。
「わかった。じゃあ、お人好しなおまえに現実を見せてやる。」
「本当に!やった!」
リーンは子供のように喜んだが、クロはそれを手で制した。
「ただし!トラブルになってもあたしは責任を持たないからな。おまえが殺されることがあっても、見捨てて逃げるから、そのつもりでいろ。」
「わかった!」
本当にわかっているのか疑わしいような、元気なお返事だった。




