Episode:泥棒猫7
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
クロとの茶会を終えた夜、リーンは自室にリアを呼び出した。
「如何なさいましたか、リーン様。」
リアが思い切りよそ向きの口調で話してきた。
「今は二人きりなんだから、別に敬語じゃなくていいよ。」
リーンが気軽に言うと、途端にリアがギロリと睨んだ。
「リーン様、私は今から就寝するところでしたので、このような時間に呼び出されるのは、大変困るのですが。」
確かに、リアは既にネグリジェ姿だ。
「ご、ごめんて。どうしても、今日中に話しておきたいことがあって……」
素直にたじろぐリーンを見て、リアは溜息をついた。
このお坊ちゃんが、悪気があって呼び出したとは思えない。
「それで、何の用なの?」
いつもの砕けた口調に戻り、リーンは安心した。
「実は例の件なんだけど、ビアとで話を進めたいんだ。」
リーンの言葉に、リアの顔に驚きの色が浮かんだ。
「えっ?何でまた?」
リーンは真っ直ぐにリアを見つめた。
「今日、友人と話していて、この国の状況を少しでも良くする為に、俺ができることは、これだと思ったんだ。俺はまだ皇太子で、政治に関することは何もできないけど、今からでもやれることはやろうと思う。これ以上、民が苦しむのを見過ごすことはできない。」
いつになく真剣な言葉に、リアは息を飲んだ。
「他の候補を選んだほうが、楽な人生だと思うけど、本当にそれでいいの?」
「うん。俺は楽な人生を歩みたいわけじゃない。この国の皇太子に生まれたからには、国民の為になる生き方をしたいんだ。」
リアの思いの他、リーンの決意は固かった。
ほんの三日前まで、ぼんやり生きているようにしか見えなかったのに、一体何があったのか……リアは驚くしかない。
「わかったわ。リーンが決めたことなら、私は反対しない。国王様達には?」
「明日伝えるつもり。」
「そう。昨日話した通り、このままだと、この国は荒廃していく危険性が高い。それを何とかしたいというリーンの志は気高いと思うわ。ただ、これは茨の道でもあるわ。それはわかってる?」
リアが尋ねると、リーンは力強くうなずいた。
「覚悟の上だよ。」
どうやら、意志は揺らがないらしい。
リアは小さく息をついた。
「それなら、私は出来る限り応援はする。ただ、一つだけ聞かせて。」
「何?」
「その友人って、昨日話してた『クロ』っていう人?」
「うん、そうだけど……それがどうかしたの?」
リーンがキョトンとした顔で尋ねたが、リアは首を横に振った。
「いえ、大したことじゃないわ。話ってそれだけ?」
「うん。ごめんね、寝る間際に呼び出して。」
「そういう内容なら別にいいわよ。じゃあ、明日に備えて、早く寝なさい。」
それだけ言って、リアはリーンの自室を後にした。
「おやすみー」
背後からリーンの能天気な挨拶が聞こえてきた。
自室に戻ったリアは、ベッドに腰かけると、誰にともなくつぶやいた。
「ビア・ヴェサルか……厄介なことにならないといいけど。」
その表情は決して明るいものではなかった。




