Episode:泥棒猫5
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
シービングキャットことクロとの思いがけない邂逅に、リーンは上機嫌で城に戻った。
だが、戻った途端に、その機嫌が一気に損なわれることとなってしまった。
「おやおや、兄上。こんなところで何をほっつき歩いているのかな?」
ばったり出くわしたのは、リーンの弟のバアジだった。
実の弟だが、その態度は決して友好的ではない。
「やあ、バアジ。」
一応、リーンは無難な挨拶をしたが、バアジはフンと鼻を鳴らすだけだ。
「次期国王たる皇太子が、こんなところでプラプラしていていいのかな?政治のお勉強だの、縁談の準備だの、やらなきゃならないことは、山ほどあるはずだろう?」
リーンの方が二歳上なのだが、バアジの態度に敬意は一切ない。
「たまの息抜きだよ。今から家庭教師の授業だ。」
「そうか。まぁ、家庭教師自体をつけられたことがない僕には、知ったこっちゃないけどね。」
それだけ言って、バアジは歩き去っていった。
「……ハァ。」
リーンはその後姿を見ながら、溜息をついた。
このバアジとは、二人きりの兄弟なのだが、子供の時からどうにも反りが合わない。特にバアジの方がリーンを忌み嫌っており、会えば毎回このような感じになってしまう。
リーンとしては、別に仲違いをしたいわけではないのだが、記憶に残る限り、バアジと和気藹々と会話をしたことはない。
憂鬱な気分で自室へ向かっていると、今度はリアに出くわした。
「あっ、リア。ちょうどよかった。」
「はい、何でしょうか?」
城内なので、リアはしっかりと敬語で対応している。
「明日、ちょっと客人と会うんだけど、紅茶とお菓子とか、用意できる?」
「客人……ですか?」
リアは怪訝そうな顔をした。
というのも、リーンは皇太子の割には内向的で、自分から人に会うことをあまりしないからだ。
リーンのほうから、茶菓子の用意を提案してくるなど、もしかしたら初めてかもしれない。
「用意するのは可能ですが、どなたとお会いになるのですか?」
「明日、クロが来ることになったんだ。」
「クロ?」
うっかり言ってしまって、リーンはしまったと思った。つい先程、シービングキャットに会うのは絶対にダメだと言われたところだった。
「あっ、友達。クロっていう綽名なんだ。」
「友達……なんていたの、あんた?」
つい、素の口調でリアが言ってしまった。
皇太子という立ち位置もあり、リーンには友達と呼べる存在は、リアが知る限りいたことはないはずだ。強いてあげるなら、従妹であるリアが、友達的な立ち位置を兼ねているようなものだ。
「失礼な!俺にも友達の一人や二人はいるよ。」
リーンは語気強めに言い放った。
焦りを誤魔化すためだったが、リアには見栄を張っているようにしか見えなかった。
「まぁ、別にいいですけど。明日の何時頃にご用意すればいいですか?」
リアが釈然としていないのは一目瞭然だったが、一応了解はしてくれたらしい。
「さっき、リアと話してた時間でお願い。部屋に持ってきてくれれば、あとは自分で持って行くから。」
「畏まりました。」
リアはお辞儀をすると、首を傾げながら立ち去っていった。
その姿が見えなくなると、リーンは額に滲んだ冷汗を拭った。
「あっぶなー……リアは鋭いし、頭がいいから、気付かれたら終わりだもんな。」
この終わりは、リーンではなくクロの命運が尽きることを意味する。本当に慎重にやらなければならない。
「とはいえ、これでお茶とお菓子は手配できたし、明日が楽しみだ。」
リーンは再びご機嫌になりながら、今度こそ自室へ戻っていった。




