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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Episode:泥棒猫

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50/141

Episode:泥棒猫1

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 搔っ攫ったパンと肉を麻袋に放り込むと、彼女は石畳の地面を駆け、手近の塀を駆け登った。そのまま、すぐ横の屋根に飛び移る。

「おい、待てー!」

 パンと肉を盗られた男は、慌てて追ってきているが、肥え太った体で、彼女に追い付けるはずはなかった。

 彼女は男を一瞥すると、侮蔑を込めた笑みを浮かべ、そのまま屋根伝いに逃げ去った。

「くそっ!逃げられた!!」

 男は地団太を踏んで悔しがった。

 その後ろから、パンと肉を売った商人が走ってきた。

「あちゃー、シービングキャットにやられたな。運がねぇ。」

 商人は屋根の上を巧みに飛び移っていく姿を見ながら、つぶやいた。

「ちくしょう、あれが噂のシービングキャットか……何で俺が買った後にわざわざ盗るんだよ!店から直接盗っていけばいいだろうが!」

 男が癇癪を起こすと、商人は愉快そうに笑った。

「シービングキャットは、いつもそうだよ。店に押し入ったりはせず、必ず買った客から盗る。しかも、あんたみたいな身形の良い奴からな。」

「ふざけるな!」

 男は再び叫んだが、商人は気にする素振りもなく、自分の店へと帰っていった。


 彼女は街の一角から路地裏に入ると、そのまま奥へ進んだ。

 しばらく進むと、あばら家がいくつも並んだ、小さな集落のようなものが姿を現した。

 貧民街だ。

 その中に建つ粗末な小屋の一つに、彼女は入っていった。

 凡そ家具と呼べるものは何もないあばら家だが、ここが彼女の塒だった。

「まぁ、上々か。」

 彼女は麻袋から、先程の戦利品を取り出すと、肉とパンそれぞれを適当にちぎり、半分余りを持って、外に出た。

「おーい、キノばあさん。生きてるかー?」

 彼女はすぐ隣の、同じくあばら家に呼びかけた。

 すると、中から腰の曲がった老婆が出てきた。

「生きてるよ。毎度その呼び方、やめてくれないかね。」

 キノばあさんと呼ばれた老婆は、そう言って手を差し出してきた。

 彼女は持ってきた肉とパンを渡す。

「量が少ないから、これは全部ここで食べて。南の街には、後でもう一回盗ってきて、渡しに行くわ。」

「あいよ、気を付けなよ。」

 キノばあさんは、それだけ言って、あばら家へ戻っていった。

 その家の中には、何人もの子供の気配がある。

 彼女がヒラヒラと手を振ると、中の子供のうち、数人が手を振り返してきた。

「じゃあ、飯だけ食って、次の仕事までひと眠りするか。」

 彼女は一人つぶやいて、自分の塒へと戻っていった。


 それが、この国でシービングキャット……泥棒猫と呼ばれる、名も無き彼女の日常だった。

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