Side:人42
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
クロの退院は翌日となった。
普段の開院時間の一時間前に、修一と結花が小西動物病院を訪れ、キャリーケースに入ったクロを受け取った。
小西も御船書房までついてきてくれて、家での処置や餌とトイレのさせ方等を教えていってくれた。
「とりあえず、昼休みと閉院後に様子を見に来ます。もし、容体に変化があったら、すぐに電話を下さい。この子ができるだけここで長く過ごせるよう、最善を尽くしましょう。」
「すみません、お忙しいのに、そこまでして頂いて。」
修一が頭を下げると、小西は珍しくニコッと笑った。
「構いませんよ。この子が来てから、この店だけでなく、商店街の雰囲気も随分変わりました。今まで来なかった人が来るようになって、随分と賑やかになった。この街で暮らす私達としては、嬉しい限りです。このくらいの恩返しをしても、バチは当たらないでしょう。」
小西の言葉に、修一まで涙が出そうになった。
小西が帰るのと入れ違いに、一旦帰っていた莉愛が御船書房にやってきた。
今日からクロが二階にいるので、入荷や返本などの業務は結花と修一が入れ代わりで行い、どちらかがクロについている形になった。
引き続き莉愛がレジと接客を手伝ってくれるとのことで、しばらくはこの体制でいくことになりそうだ。
「莉愛、他に仕事があるのにすまないな。」
修一が申し訳なさそうに言うと、莉愛はニヤっと笑った。
「別にだいじょーぶ。クロ公は今や有名猫の一匹だから、事情を話したら、みんな納得してくれたよ。しばらくは、手伝えると思う。」
それが空元気なのは、修一にもわかったが、それでも気丈に振舞ってくれる莉愛の存在が、今は途轍もなくありがたかった。
そのまま、クロの容体はゆったりと悪化しながらも小康状態を保ち、大きな発作などを起こすこともなく、三日が過ぎた。
その間、クロを可愛がってくれた常連や、サイン会をした作家達や、莉愛のインフルエンサー仲間などが、相次いでお見舞いに来てくれた。
流石に以前のように愛嬌を振り撒くことはできなかったが、それでもクロは頭を撫でられたら、微かに手にスリスリしたり、軽く鳴いたりと、反応を返していた。
それがまた、見舞いに来た人間の涙を誘い、大抵みんな泣きながら、リビングを後にするのだった。
クロが帰ってきてから、三日目の朝、秋月がやってきた。
「おはようございますぅ。」
まだ、開店前だったが、修一が応対し、クロがいる二階のリビングへ通した。
「お加減はどうですかぁ?」
「今は小康状態ですが、ずっとここで寝ています。ただ、撫でてあげたりしたら、ちゃんと反応はしてくれますよ。」
秋月が尋ねると、横についていた結花がそう答えた。
「そうですかぁ……」
秋月はゆっくりと、クロの体を撫でた。
クロがスッと目を開けて、秋月の顔を見ている。
「あなたのような、面白い猫がいなくなるのはぁ、残念ですぅ。元気になってくれれば、いいんですけどぉ。」
「そうですね……」
結花はわずかに涙ぐんだ。
ちょっと、これ以上話すのは厳しそうだったので、修一が間に入った。
「秋月さん、お忙しいのに、わざわざ見に来て頂いて、ありがとうございます。クロも喜んでいると思います。」
「いえいえぇ。これも私の役目ですからぁ。」
「役目?」
修一が尋ねた、その時だった。
「修一君、結花ちゃーん、ちょっとおねがーい。」
一階から、莉愛の声が聞こえてきた。
また誰かが来たらしい。
「秋月さん、すみません。ちょっと下に行ってくるので、クロのことを見ててもらっていいですか。」
「いいですよぉ。」
バタバタと出て行く修一と結花を、秋月はクロを撫でながら見送っていた。
その後、秋月は一時間ほど、クロの横についた後、帰路に就いた。
そうして、翌日。
結婚式から一週間が経った日の朝。




