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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人

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Side:人40

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 それは、秋の優しい日差しが差し込む朝のことだった。

「さて、行ってくるから、お留守番お願いな。」

 修一は、リビングの猫ベッドで丸まっているクロに話しかけた。

 クロはおもむろに頭を上げた。

「みぃ?」

「本当はおまえにも一緒にいてほしかったんだけどな。流石に、式場に猫はNGだったわ。帰ってきたら、色々話してやるから、それで我慢してくれ。」

「にぃ~」

 クロはむくりと起き上がると、スタスタと修一に歩み寄り、足元に体をスリスリしてくれた。

『がんばってこいよ』

 まるで、そう言っているようだった。

「クロ、ありがとう。」

 修一はクロの頭を撫でてやると、立ち上がった。

「修一さん、そろそろ行くよー」

 下から結花の声が聞こえてくる。

「わかってる。今行くよー」

 修一はそう返事しながら、一階へと降りていった。それを見届けると、クロは欠伸をして、猫ベッドへ戻っていった。

 今日は、御船書房は臨時休業。

 そして、修一と結花の結婚式の日だ。


 式は教会で行い、参列者は双方の親類のみとした。ただ、御船家側はあまり親戚がおらず、遠縁の親類が3人出席しただけとなり、対して河瀬家は十数人規模になったので、バランスがかなり偏ってしまった。

「まぁ、こればかりは仕方ないね。」

 ウエディングドレス姿になった結花が、控室でそう言って苦笑した。

 出来れば、この姿を父親に見てほしかったであろう。

 一応、式場に遺影と位牌は持ってきてはいるのだが。

「それより、ドレスを着られるだけ、幸せだと思わなきゃ。前のままだったら、結婚相手がいても、婚姻届を役所に出して、終わりだったと思うから。」

「俺も結花さんのドレス姿を見られて幸せだよ。クロや莉愛に感謝しないとな。」

 修一はそう言って微笑んだ。

 その莉愛は、現在親族控え室で、親類達の相手をしている。

 今日はシックなパーティードレス姿で、普段よりむしろ控えめに見える格好だった。

「クロちゃんにも来てほしかったね。」

「猫はハードル高かったなぁ。仕方ないけど。」

 式の打ち合わせ段階でプランナーにお願いしたのだが、食品衛生法の兼ね合い等もあり、クロの参加は認められなかった。この式の一番の立役者と言っても過言でなかっただけに、二人の落胆は大きかった。

「まぁ、ちょっと奮発して、撮影をプロにお願いしたし、クロにはそれ見て満足してもらおう。」

「そうだね。」

 二人はそう言って頷き合った。


 式は厳かな雰囲気で行われた。

 人数を絞ったおかげもあり、式場は静かで、でも皆が祝福してくれているのが伝わってくる……そんな不思議な空気だった。

 神父の言葉の後、指輪の交換がなされ、誓いのキスが交わされる。

 その瞬間、拍手が巻き起こった。

 この2年、世話を焼きまくっていた莉愛など、その瞬間に号泣していた。

「これから、もっと幸せにするよ。」

「期待してます。」

 二人は拍手の中で、そう囁き合った。


 さて、今回の結婚式で大変だったのは、実はこの後の披露宴の準備だった。

 当初、披露宴は式に出席してくれた親類にプラスして、お世話になっている丸山と木下さんを始めとするクロもお世話になっている常連さんを呼ぶ予定でいた。

 ところが、結婚が決まってからの約一年半の間に、御船書房に関わってくれた人が一気に増え、その内のかなりの人数が、披露宴に行きたいと言ってくれたのだ。

 直近では、サイン会を開いた秋月も行きたいと言い出し、結局参加者は総勢100人に迫る勢いとなってしまった。

 そこで、半年前の段階で会場を一回り大きいものに変更したのだが、費用がかなり増えてしまった。

だがそこは、修一の両親が援助してくれた。

「お世話になった人は、選りすぐりせず、全員呼びなさい。」

 父の修平がそう言って、修一にお金を渡してくれたのだ。

 この瞬間、修一は年甲斐もなく、泣いてしまった。

 斯くして、当初より大幅に豪勢な披露宴は、式とは打って変わって大盛況となった。

 特に、莉愛の繋がりで来たインフルエンサーには芸達者な人が多く、音楽の演奏やちょっとした出し物を連発してくれたので、彼らを知らない新郎新婦の親戚達も多いに楽しんでくれた。

 中でも異色だったのが秋月で、二人の馴れ初めとドラマチックなプロポーズを、わざわざ短編の小説にし、それを莉愛との共通の知り合いである声優見習いの子に朗読させたのだ。しかも、ご丁寧に『泥棒猫』の挿絵を描いていたイラストレーターに依頼して挿絵を制作、それをスライドに映しながらという徹底ぶりであった。

 これは会場全体には大いにウケたが、当人の新郎新婦と、大暴れしていた莉愛は顔を赤くして俯くしかなかった。


 斯くして、大盛り上がりのうちに披露宴は終了した。


「あ~、疲れた。」

 そうつぶやいたのは、結花ではなく莉愛だった。

 修一と結花、そして莉愛は普段着に着替え、式場を後にしていた。

「莉愛、本当にお疲れ様。」

「私達の為に、ありがとう。」

 修一と結花は揃って礼を言った。

 莉愛は式の前後は親類の相手、そして披露宴では、莉愛の繋がりから来た人が多かったので、その出し物のプロデュースや管理をやっており、恐らく一番動き回っていたのだ。

「いいってことよ、こんなに幸せな日はないんだから。それに、みんな楽しんでくれたみたいだし、インフルエンサー冥利に尽きるわ。」

 莉愛はそう言って笑い飛ばした。

「それで、莉愛はこの後どうする?叔父さん達は先に帰ったけど?」

「ん~~、三人だけで二次会しない?確かに楽しかったけど、親戚の手前もあったし、何より色々やらなきゃならなかったから、全然お酒飲めなかったんだよね。お祝いにパーっと飲みたい。」

 莉愛が背伸びしながら提案した。

「じゃあ、御船書房に戻りましょうか。クロちゃんも心配ですし。」

 結花がそう言うと、莉愛がニヤリと変な笑みを浮かべた。

「大丈夫、夜が更ける前に帰るから。二人の結婚初夜は邪魔しないよ~」

「えっ!?」

「ちょっと、莉愛さん!」

 珍しく、結花が声を荒げた。

 それが余程面白かったのか、莉愛は膝を叩いて爆笑していた。

 その後、三人はコンビニで酒やつまみを買い、御船書房に帰ってきた。

「ただいま、クロ。」

 修一はリビングに入るなり、クロに声をかけた。

 クロは猫ベッドに寝転んでいた。

「クロ?」

 ふと、修一は違和感を感じた。

 いつもなら、電気を点ければ、クロは頭を上げて、こちらに気付くからだ。

 だが、今日は寝ころんだまま動かない。

「クロ、どうした?」

 修一は荷物を下ろすと、クロが寝転んでいる猫ベッドに近づいた。

 次の瞬間だった。

「クロ!?クロ、大丈夫か!!」

 修一は絶叫した。

 クロはピクリとも動かなかった。

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