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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人

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Side:人38

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 気が付くと、御船家の寝室だった。

 体を起こすが、クロの姿はない。

「そうだ、昨日はリビングに残ったんだっけ。」

 リーンがつぶやくと、隣で寝ていた結花が目を覚ました。

「どうかした?」

「う、うん。ちょっと。」

 修一は慌てて服を着ると、リビングへ向かった。

 だが、リビングの猫ベッドにも座布団にも、クロの姿はない。

「クロ?」

 嫌な予感がして、窓をチェックした。

 だが、鍵は閉まっている。その代わり、一階へのドアが開いていた。

 慌てて下へ降りると、レジ横のクッションで、クロは丸まっていた。

「クロ……どこかに行ったのかと思ったぞ。」

 修一はホッとして、クロの頭を撫でた。

「みゃー」

 クロはいつも通り、修一の手に頭をスリスリしてきた。


 墓参りから数日後。

「結花ちゃん、秋月さん、小説家デビュー決まったって!」

 叫びながら御船書房に飛び込んできたのは、莉愛だった。

「えっ!ホント!?」

 結花と莉愛が何やら嬉しそうにキャッキャと騒ぎ始めた。

「どうしたの、二人とも?」

 バックルームで作業をしていた修一が、騒ぎを聞きつけてやってきた。

 すると、その修一の眼前に、莉愛がスマホの画面を印籠の如く突き出した。

「秋月さんの小説が書籍化するんだって!やったよ!」

 秋月というのは、小説投稿サイトで小説を掲載しているアマチュア作家である。

 昨今はネットの普及に伴い、アマチュアのイラストレーターや物書きが増え、その中から人気が出て、プロデビューする者が多くいる。

 莉愛はそこに目を付け、膨大にいるアマチュアの中から、有望そうな人を見つけては、SNSを使って繋がりを作っていた。

 中には、何人か御船書房を訪れてくれる人もおり、その内の一人が秋月だった。

 秋月はまだ20歳の若い女性で、高校生の頃から投稿を続けており、それなりに読者も多いとのことだった。ただ、新人賞や投稿サイト内のコンテストなどに応募はしているものの、これまで受かったことはないとのことだった。

 以前、店に来た時に修一も秋月を見かけはしたが、フェア切り替えで大量の返本があったので、対応は結花と莉愛に任せ、挨拶を交わすくらいしかしていなかった。

「へぇー、凄いな。知ってる人からプロ作家が出るって、なんかワクワクするな。」

 修一が平凡な感想を言っていると、なぜか莉愛に頭を叩かれた。

「呑気なこと言ってんじゃないの!今すぐ秋月さんに会いに行くから、結花ちゃん借りるよ!」

「えっ、お祝いの言葉でも、言いに行くの?」

「発売時にサイン会を開いてもらうよう、お願いしに行くの!」

「あっ、なるほど。」

 今年、インフルエンサーの出版記念サイン会はやったが、それを再び企画しようということだ。修一には微塵もそんな発想はなかった。

 莉愛と結花曰く、小説投稿サイトからの書籍化デビューの場合、既に多数の読者がついているので、デビュー時にイベントを開けば、その読者が遠方からでも来てくれる可能性が高いのだという。

 しかも、出版業界は慣例として、有名作家や芸能人の新刊発売時は、大手の書店でサイン会などのイベントを行うことは多いが、新人のイベントを大々的に行うことはあまりない。

 そういう意味で、秋月のような作家のデビューは、御船書房の規模の書店にとっては、チャンスなのだという。

「もう、秋月さんの家の近くの喫茶店で、会う約束は取り付けてあるから、すぐ行くよ!」

 流石に莉愛の仕事は早い。

 だが。

「いや、店のほうは……」

「修一君、お留守番!」

「いや、今日は入荷が多いから……」

「気合と根性で頑張れ。」

 莉愛にすげなく言われ、修一は捨てられた子猫のような目で結花を見たが、

「修一さん、すみません。」

 結花はその言葉だけを残して、莉愛と共に出ていってしまった。

 残された修一は、おもむろにレジへ向かうと、小さく溜息をついた。

「クロ、今日は孤独に頑張るしかないらしいぞ。」

「みゃー」

 クロは哀れに思ったのか、珍しく自分から体をスリスリしてくれた。


 秋月のデビュー作は、『泥棒猫』というそうだ。

 現在は、秋月というペンネームで投稿しているが、デビュー時に秋月瑠美と名を改めるのだとか。

 結花と莉愛の交渉により、デビュー当日に御船書房でのサイン会が決定した。

 やはり、小説投稿サイトからのデビューは年間かなりの数がいるため、秋月の元には出版記念のイベント類の依頼は全くきていなかったらしい。

 そこから、イベントの準備が始まり、取次を通しての入荷の手配も開始となった。

「確かに、これは穴場かもしれませんねぇ。今回を契機に、同じように投稿サイトからデビューする作家の間で、ここなら出版時にイベントを開催してくれるっていう評判が定着すれば、恒常的にイベントを開催できるようになるかもしれません。」

 話を聞いて、興味深そうに私見を述べていたのは、丸山だった。

「とりあえずは、今回のイベント成功させないことには話にならないのですが、設営や段取りは前回の料理本の時の踏襲でいいとして、何冊くらい入荷すればいいでしょうか?」

 結花が尋ねると、丸山はスマホで何やら調べ始めた。

「書籍化が決定したのは、『泥棒猫』っていう作品でしたよね。ブックマークは12000以上ありますね。」

 どうやら、丸山は小説投稿サイトを閲覧しているらしい。

「ブックマークって、続きが掲載されたら、読者に通知がいくというやつですよね?」

「ええ。要は続きが読みたい人の人数なので、読者数の目安になるんですよ。出版社は住良木出版だから、過去の同経緯の出版だと、初版2000から5000部ってところか……」

 どうやら、サイトと共に、取次の内部情報も併せて見ているらしい。

「それは、規模的にはどうなんですか?」

「まぁ、このタイプの新人としては、普通ですね。今回一回限りで、出版が終わってもおかしくない規模感です。その先は本人のがんばり次第ですが、御船書房と河瀬莉愛さんが関わってくるとなると、面白くなるかもしれませんね……」

 丸山はニヤリと笑った。

「入荷できるかどうかはわかりませんが、100部で調整してみます。その秋月さんは、100回サインを書かなきゃならなくなるので、大変かもしれませんが。」

「そうですね、サイン会って、それが心苦しいですよね……」

 結花は苦笑いを浮かべた。

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