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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人

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34/141

Side:人31

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

「御船さんに何かあったんですか!?」

 修一が急に叫んだので、クロとじゃれていた莉愛が思わずぎょっとした。

「詳細は後で説明しますが、御船さんがウチの専務達に連れていかれてしまいました。多分、半強制のお見合いです。」

「お見合い?御船さんが?」

 修一が再度叫ぶと、莉愛が突然修一からスマホを引ったくり、スピーカーモードにした。

「ちょっと丸公!何がどうなってんの!?」

「えっ、その声は、この前の従妹さん?一緒にいるんですか?」

「そんなことはいいから、早く状況説明!」

 莉愛の叫びは容赦がない。

「は、はい。実は……」

 丸山の話によると、忘年会の最中に、丸山が上司に呼び出され、結花を連れてくるよう頼まれたのだという。それ自体に何の疑問も抱かなかった丸山は、会場内にいた結花を見つけ、上司に紹介した。

すると、その上司の後ろから、更に上役が出てきたそうだ。

「上役って、どのくらい?」

 莉愛が尋ねると、丸山は言いにくそうに答えた。

「専務です。専務取締役。それから、その息子の営業部長です。」

「息子?」

 その時点で、修一は嫌な予感がした。

 その予感は的中で、専務は息子を結花に紹介し、結花は戸惑いながらも自己紹介をしていたのだとか。

 そこで用なしとなった丸山は引き剥がされ、専務とその息子、そして結花は会場から出ていって、別の場所に行ってしまったのだという。

「でも、何で専務と息子が、結花ちゃんをそんな目的で連れていったの?」

 莉愛が疑問を口にすると、丸山の口調が申し訳なさそうなものに変わった。

「すみません、そこをしくじりました。」

 結花が連れていかれた後、残された上司に丸山が問い詰めたところ、どうやら専務の息子は前々から、会合等で結花を見かけており、想いを寄せていたとのこと。

 ところが、それを知らなかった丸山は、御船書房の大量発注をこの上司に依頼しており、専務の子飼いだったこの上司は、専務が出版社に直接連絡をとって、早めの手配をしてくれたとのことだった。

 形上は部長である息子が手配したことになっており、恩返しに結花にプロポーズを申し込むという、ストーリーになっているらしい。

「きもっ!ふざけんじゃないわよ!」

 莉愛が叫ぶと、丸山の声がますます縮こまった。

「本当にすみません!僕、まだ入って何年も経ってなかったんで、社内政治とか、そういうのはよくわかってなくて。完全に頼る相手を間違えました。」

 とはいえ、これに丸山の責任があるかといえば、微妙なところだ。

「丸山さん、相手が専務だということは、もし断ったりしたら、御船書房はどうなりますか?」

 修一が単刀直入に尋ねた。

 激昂している莉愛とは対照的に、修一はあくまで冷静である。

「取引を打ち切られるかもしれません。帳合変更の必要が出てくるかもしれませんが、御船書房の規模だと、結構難しいと思います。」

 帳合変更とは、取次を変更することである。

「今、本の供給を打ち切られたら、確かに終わりですね。それに、丸山さんがいなくなるのも痛い。」

 修一の思わぬ言葉に、丸山が一瞬言葉に詰まった。

「そんな……僕は今回、完全にミスりましたよ?」

「俺なんて、その何十倍も、日々ミスしながら生きてますよ。それより、会場の場所を教えて下さい。すぐに行きます。」

 修一はあくまで冷静に、だが力強く言い切った。

「すみません、ありがとうございます。ただ、来てからどう対処するかは……」

「それはあたしが考える。ただし、丸公も責任取って、手伝いなさいよ。」

 そう言ったのは莉愛だった。

 先程から、丸山の話を聞きながら、ずっとスマホを操作している。

「丸山さん、最善は尽くしますが、もしそちらの会社と揉めてしまったら、ごめんなさい。俺はそれでも、御船さんを取り戻します。」

 修一の言葉に、丸山も感動したのか、声がワントーン上がった。

「その時は、僕も辞めます。若干、今回のことで嫌気がさしたところだし。」

 そこまで話して、場所の地図をメールで送ってもらうため、一旦電話を切った。

 すると、スマホを操作していた莉愛から、ペンと軽く頭を叩かれた。

「かっこいいこと言っちゃって、まぁ……」

「うるさいなぁ。冷やかすなよ。」

 修一は、今更ながら気恥ずかしくなった。


 修一は爆速で閉店作業を終え、準備を整えた。

 近所のレンタカー店には、莉愛がすぐに連絡を入れており、二人で駆け込んで、すぐに車を借りて出発した。

 運転は修一で、莉愛は助手席に乗り、未だにスマホを弄り倒している。

「修一君、スマホ貸して。」

 車に乗り込むなり、莉愛が修一に言った。

「あ、ああ、いいけど。」

 どちらにせよ、運転中はスマホを触るわけにはいかないので、修一は莉愛にスマホを渡した。ロックしてあったはずだが、莉愛はすっとそれを解除して使い始める。

「何で番号知ってるんだよ。」

「この前、あたしの目の前でロック解除してたでしょ?その時の指の動きで。」

「マジかよ……」

 言いたいことは色々あったが、今はそれどころではない。

 車を発進させると、丸山が送ってきた地図を頼りに、莉愛がナビをしてくれた。

 それをしながら、修一のスマホを勝手に使い、丸山に電話をかけ始める。

「丸公?そのバカ息子のフルネームわかる?」

 随分な言いようである。余程頭にきていると見える。

 それから、莉愛が丸山から可能な限りの情報を聞き出したのだが、それによると、今回の問題の息子は岡本晋也という名前で、岡本専務の五男らしい。

 この岡本専務は結構な子沢山で、兄弟は全部で七人もいるらしく、その子供達を大手の書店の重役の子息と結婚させたりしているらしい。晋也の上五人と、一つ下の次女は、既に結婚してしまっているそうで、現状独身は五男の晋也だけなのだそうだ。

「藤原氏の摂関政治かよ。」

 莉愛が話を聞いて、吐き捨てた。

 大企業のトップクラスになると、こういう話が未だ蔓延っているものなのかもしれない。

「しかし、そうだとしたら、何で御船書房みたいな小規模書店にちょっかいをかけてきたんだろ?単純に御船さんに一目惚れしたからだけなのかな?」

 修一が疑問を口にすると、莉愛が溜息をついた。

「どうもこのバカ息子、もう三十歳過ぎてて、兄弟で唯一二十代で結婚できなかったみたい。それで、親が焦ったんじゃない?絶対に幸せになれなさそうだけど。」

 莉愛に言葉には、いちいち棘がある。

「ウチみたいなところでもいいから、ってこと?酷くない?」

「それともう一つ。弱小書店とは言っても、ここ数か月は昨対百パー超えの売上を連発してるんでしょ?出版不況の中にあって、そんな書店はそうはないっていうなら、そこを密接に抱え込んでおこうって思うもんなんじゃないの?」

 どういう形にするかはわからないが、書店存続の為、晋也を婿養子にしてくる可能性も考えられる。

 莉愛は苛立たし気に、スマホの画面を見つめている。

「売上さえ上がれば、オールオッケーだと思ってたけど、甘かったわ。まさか、こんないらんおまけがついてくるなんて……しかも、引き金があたしの5倍発注だとか、超最悪!」

 どうやら、莉愛が押し通した発注が今回の誘因になったことを、かなり気にしているらしい。彼女に罪はないのだが、その辺りに莉愛の責任感の強さが垣間見える。

「でも、丸山さんに啖呵切った手前だけど、どうしようか。御船書房の将来を考えたら、揉めないようにするのが最善だけど……そう、うまくいくかなぁ。」

 修一は不安そうにつぶやいたが、苛立たしげだった莉愛が、急に笑顔になった。

「大丈夫。このバカ共はあたしと丸公でなんとかするから、修一君は結花ちゃんを助け出すナイトを上手くやれるよう、専念しな。」

「なんとかって、どうするんだよ?」

 ニヤッ……

 途端に、莉愛が凶悪な笑みを浮かべた。

 あまりに凄みのある表情だったので、修一は思わずビクッとなった。

「こういう禄でもないことやる奴ってのは、他にも禄でもないことやらかしてるもんなの。」

 それだけ言うと、莉愛は修一のスマホから再び丸山に電話をかけだした。

「あっ、丸公?さっき送った画像と資料、見た?そうそう、そーゆーこと。それで捻じ伏せるから、適当にサポートよろしく。」

 莉愛は物騒な物言いで、丸山と打ち合わせをしている。

 なんだか、先程とは別の意味の冷汗が出てきた、修一であった。

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