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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人

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Side:人29

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 その次の日曜日のことであった。

「えっ!?まだ付き合ってもないの!?」

 結花の目の前で、叫び声をあげていたのは、莉愛だった。

 普段、日曜日は結花が店に出て修一が休みなのだが、莉愛が結花と遊びたいと言ってきたので、今日は修一が休日出勤扱いで店に出ている。

 ただ、最近は日曜といえど、瞬発的に混むことがあるので、すぐに助けに行けるよう、外には遊びに行かず、御船書房二階の御船家でお茶することとなった。

 その一幕で、莉愛が絶叫していたのだ。

「その、店が忙しくなって、色々余裕がなくてね。」

 結花が言い訳を口にしたが、莉愛はそういう表面上の言い訳が通用する相手ではない。

「閉店後、毎日一緒に寝起きしてるんでしょ?もっと親密になってても、よくない?」

「いやぁ、実は、クロちゃんががっちりガードしてて、河瀬さんから離れないんで……」

「夜寝る時は同じ部屋なんでしょ?」

「夜寝る時も、クロちゃんが河瀬さんと一緒に寝てて……河瀬さんが引っ越してきてから、リビングの猫用ベッドで寝てくれなくなったんだよね。」

「あいつかー……」

 たかが猫と侮るなかれ。

 クロが間に入ってくるだけで、いわゆる甘い雰囲気になりかけても、綺麗に吹き飛んでしまう。

 その感じは莉愛も理解しているようで、オーバーリアクションで頭を抱えて悩み始めた。

「もうクリスマスまで、少ししかないじゃん。それまでに何とかしなきゃ……」

「う~ん、そうなんだけどねぇ……」

 その時だった。不意に結花のスマホが鳴った。修一からだった。

「あっ、ちょっと下が混んでるみたいなので、莉愛ちゃん少し待ってて下さい。」

「はいよー……」

 結花がそそくさと下へ降りていくと、入れ違いにクロがリビングに入ってきた。

 一階のレジにいたはずだが、どうやら水を飲みにきたらしく、莉愛を無視して水入れに向かっていく。

「おい、クロ公。」

 水を飲み始めたクロに、莉愛が突然話しかけた。

「みゃ?」

 クロが怪訝そうに振り向いた。

 すると、莉愛はクロの頭をがっと鷲掴みにした。

「にゃっ!?」

 クロは慌てたように抵抗したが、莉愛はそれでも一切離さない。

「あんたが修一君を大好きなのはわかってるけど、だったら猶更、二人の邪魔しちゃいけないんじゃないの?可哀そうだけど、あんたは猫で、修一君とは結ばれることはないんだから。家族でいたいなら、あの二人の為に動きな。」

「みゃ……」

 莉愛の凄みに、珍しくクロが気圧されている。

「あの二人が出逢うきっかけになったことは偉かったと思うけど、今あんたがやってることは、明らかに修一君の為にならないことだよ。本当に修一君の幸せを願うなら、どう立ち振る舞うべきか、わかるよね?」

 不意に、莉愛がクロの頭を掴んでいた手を離した。

「あたしも、あんたには感謝してるの。だから、こんな脅迫みたいなことさせないで。ちゃんと、修一君の為になるよう動いてくれれば、それでいいから。」

「みゃあ……」

 莉愛はにんまり笑うと、クロはしょぼくれたような顔をして、リビングから出ていった。


 午後になると、攻守交替となり、結花が店番、修一が二階で莉愛とお話となった。

「それで、通販はどれくらい売れてるー?」

 結花が尋ねると、修一はすぐさまパソコンを開いた。

「大体だけど、一日百から二百冊は注文入るかな。最近はどっちかというと、書店員というより、梱包作業員みたいになってきてる。」

 大量注文の品は、ほぼ全て入荷を終えたが、マンションを埋め尽くす在庫は、結構凄まじい勢いで減っていっている。もちろん、店でも棚にフェアを組んで同じものを販売しているので、こちらの分もあるのだが。

「そっかー、まぁ、効果は上々だね。」

 あれから、莉愛は事あるごとに御船書房やクロのことを発信してくれている。

 最近は莉愛から繋がった他のインフルエンサーや配信者などにも評判が広がり、ちょいちょい画像撮影や、動画の撮影に来る人もいるほどだ。

「多分、全体売上は昨対200パーセントくらいにはなりそう。だいぶ、御船さんの生活も楽になるんじゃないかな。」

「それじゃあ、あたしも頑張った甲斐があったわ。でも、これを一時のブームで終わらせちゃダメだよ?」

 莉愛が釘を刺すと、修一はわかってましたとばかりに頷いた。

「ああ。事業で大事なのは継続だからな。継続できなければ、俺達は生活できなくなる。というか、生活を続けるって、大変なことなんだなぁって、今更ながら思うよ。」

 これまで修一は、親の庇護下で何となく生きてきて、その後は経営が盤石な会社で何となく働いて、何となく働けなくなった。働けるのが当たり前だと思っていたのに関しては、格段に甘かったと今ならわかる。

 そういう意味では、インフルエンサーとしてのブランディングを一から作って維持している莉愛は、修一にとっては驚異の存在でしかなかった。

「まぁ、そこまでわかってるなら、あたしはもう何も言わないから。協力してほしいことがあれば、出来る範囲でするし、遠慮なく言いなよ。」

 その莉愛は、あくまでクールだ。

 二つも年下とは思えぬ貫禄だった。

「あっ、そう言えば、聞きたいことというか、相談というか、なんだけど……」

 不意に修一が話を変えてきた。

「どしたの?」

「この前、丸山さんが言ってたんだけど、あの人、御船さんのことを、その、狙ってたらしいんだ。」

「まぁ、そーだろーね。」

 莉愛は事も無げに返した。

「えっ?莉愛、気付いてたのか!?」

 修一は驚いたが、莉愛は呆れ顔だ。

「まぁ、そんなに長時間話したわけじゃないから、何となくそーかな?ってくらいだけどね。でも、修一君が来た時点で、もう身を引いてたんじゃないの?それくらい理解できる程度には、頭良さそうだったし。」

 莉愛は丸山の動向を、さらりと言い当てた。修一はもう驚嘆するしかない。

「その通りだけど……何それ、超能力?」

「社会人なんだから、それくらい人を見る目を養いなよ。」

 莉愛から返ってきたのは、非常に厳しいお言葉だった。

「す、すみません……」

「今回はたまたま、流れでうまくいったけど、これから仕事でもプライベートでも、難局ってのは必ずあるよ。その時に、これくらい人を見れなかったら、チャンスを逃したり、痛い目見たり、誰かに迷惑かけたりしかねないから、これは必須。感心してる場合じゃないから。」

 全く以って返す言葉がない。

「気を付けます。」

「しっかりしなよ。これからは、修一君が結花ちゃんを守っていく立場になるんだから。」

 確かにこれまでは生活面でも仕事面でも、修一は結花に世話になり放しだ。

 いい加減、修一も頑張らなければならない。

「莉愛。」

「なに?」

 不意に修一が態度を改めた。

「もし、付き合えることになったら、その日の夜ってどうすればいい?」

「そんなこと、あたしに訊くなー!」

 莉愛は修一の頭を本気でぶっ叩いた。

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