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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人
3/124

Side:人2

原案:クズハ

見守り:蒼風 雨静

文;碧 銀魚

 とりあえず落ち着いて、座布団の横に座ると、子猫はその座布団の上で、再び丸まった。

「なんか、早くも信頼されてるなぁ……」

 こうなると、先程までの緊張が解けてきて、表情が緩む。

 こんな小さな動物でも懐かれると、そこはかとなく嬉しくなってきてしまう。世の中に動物を飼う人が多い理由がよくわかる気がした。

 ただそれだけに、このまま放っておくわけにもいかない。これから飼い続けるかどうかは別として、とりあえず世話をしないと、この小さな体は長くもたないだろう。

 修一は手に持ったままのスマホで、ネット検索を開いた。

「猫、必要なもの……」

 検索すると、簡単な猫の飼い方を説明したページがいくつか出てきた。

 そのいくつかを目を通す。

 それによると、今最低限必要なものは、餌とそれを入れる入れ物、そしてトイレだ。

「まぁ、人間と一緒か。」

 どうやら、ホームセンターに行けば、一通りは揃うらしい、が。

「どーするかなぁ……」

 失職しているこの状況では、かなり痛い出費だ。

 このまま、追い出してしまう方が、現実的な判断に思われるが……

「……ちょっと買いに行ってくるから、おとなしく待ってろよ。」

 修一は子猫にそう声をかけて、立ち上がった。


「……わかんねぇ。」

 ホームセンターに来ると、途端に修一は途方に暮れた。

 トイレから見始めたのだが、種類がいくつもあって、どれを選べばいいのか、わからない。しかも、トイレ単体が何種類もある上に、中に入れる猫砂も何種類もあり、素人の修一はお手上げだ。

 さらに、餌のコーナーに来ると、これまた膨大な種類が置いてあり、もはや頭を抱えるしかなかった。

「猫を飼うのって、こんなに大変なのか……」

 多分、普通の人とはズレたところで、修一は生き物を飼う大変さを実感していた。


 結局、懐具合の都合もあり、トイレは一番安いプラスチック製のかご型のもの、猫砂は砂っぽいからという理由で、目の細かい砂状のもの、餌はドライフードと猫缶を一種類ずつ買うことにした。餌皿は、錆びにくいステンレス製のものにした。

 帰ってくると、子猫は座布団の上で丸まったままだった。

「ただいま。」

 と、口にして、強烈な違和感が湧いてきた。

 そういえば、ここに住み始めてから、「ただいま」と言ったことは一度もなかった。

 子猫はパッと顔を上げ、

「みゃー」

 と、元気に返してきた。ちゃんと「おかえり」を言ってくれるらしい。

「やべ、こんな些細なことなのに、なんか嬉しい……」

 修一は軽く感動を覚えた。


 早速、トイレの設置を始めた。

 ネットで調べると、この部屋のような間取りの場合は、玄関に設置するのがいいらしい。

 風呂場で洗ってから水滴をふき取り、玄関の片隅に置いて、砂を入れる。

「これでいいのかな。」

 スマホと睨めっこしながら、作業を終えた。

 次いで、餌。

 餌皿をリビングに備え付けられているキッチンで洗うと、ドライフードを入れ、子猫のそばに持ってきた。

「おーい、餌だぞ。食べるかー?」

 子猫は立ち上がると、餌皿に近寄ってきた。

 くんくんと餌の匂いを嗅ぎだす。

 修一はなぜか、かなりの緊張感を以って、その様子を見守っている。

 カリッと、音を立てた。

「にー……」

 だが、一口だけで、子猫は食べるのをやめてしまった。

「マジかぁ……じゃあ、これはどうだ?」

 修一は猫缶の方を開けた。そのまま置けて、皿がいらないタイプのものだ。

 子猫はまた、匂いを嗅いで、ぺろりと舐めはしたが、やはりそれ以上は食べなかった。

「マジかぁ……あっ、待てよ。」

 修一は閃き、冷蔵庫から牛乳を出した。

 これならと思ったが、そこで初めて水入れ用の皿を失念していたことに気づいた。

「……仕方ないか。」

 比較的使用頻度の低い小皿を出すと、修一はそれに牛乳を入れて、子猫に差し出してみた。

 しかし、今度は匂いを嗅いだだけで、口をつけすらしなかった。

「マジかぁー……」

 結局、牛乳を捨て、小皿に水道水を入れたところ、これだけは物凄い勢いで飲んだ。

 成功したのは、これだけだった。


 水以外に何も進展がないまま、夜になってしまった。

 買い物も行けず、昼飯も食べ損ねたので、久々にカップラーメンの出番となった。キッチンの片隅に転がっていたものを拾ってきたのだが、賞味期限は一週間ほど過ぎている。

「まぁ、大丈夫だろ。」

 お湯を入れて、三分待っていると、子猫がその様子をじっと見ているのに気付いた。

「どうした?」

 修一は子猫を撫でると、猫はゴロゴロと喉を鳴らし始めた。

 ようやく、自然に頭を撫でられるようになってきた。

「う~ん……こいつに餌を用意できてないのに、自分だけ餌を食べるのは、罪悪感あるなぁ……」

 そう思うと、若干焦りを感じた。

 今のところ元気そうだが、このまま餌をちゃんと与えられないと、数日ともたないだろう。

 明日には、絶対に何とかしなければならない。

 かわいいだけでは、動物を飼うことはできないのだ。

「そういえば、名前どうしようかなぁ。」

 ずっとこいつ、おまえで呼んでいたが、流石に可愛そうな気がしてきた。

「名前、名前……えっ、名前ってどうやってつければいいんだ?」

 ペットを飼ったことがない修一は、何かに名付けをしたことがなかった。

「猫、子猫、小さい、いや、これはその内、大きくなるか……う~ん……」

 そのまま、しばらく考え込んだ。子猫はその様を、横でじっと見つめている。

「……クロ、とかでいい?」

「みゃー」

 結局、途轍もなく安直な名前しか思いつかなかった。

 だが、子猫は嬉しそうに返事を返してきた。

「そっか、それでいいか。必ず、明日は何とかするからな、クロ。」

「みゃー」

 修一がそう言うと、子猫ことクロは、元気にお返事してくれた。


 とりあえず、カップラーメンはのびてしまった。

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