表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/142

Side:人25

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 11月の月間売上は、昨年対比150パーセントを記録した。

 莉愛のおかげでバスった30日単日だと、昨対300パーセントである。

「いやー、僕が入社してから、初めて見ましたね、昨対300とか。」

 2日連続でやってきた丸山が、レジ締めの記録を見ながらそう言った。

 12月最初の日だったが、昨日の余波で比較的客数が多かった。結花とクロががんばって客を捌き、修一は今日も100冊以上きていた通販の注文を発送して、閉店間際の今、ようやく返本作業をしていた。

「大手のチェーンとかでも、ないんですか?」

 修一が尋ねると、丸山はオーバーに首を横に振った。

「全っ然!大手でも日昨対100パーセントすら見ることも、あんまりないですよ。月単位だと、本当にまったくなので、月昨対100パーセントなんて、UMAと同じですよ。」

 書店業界というのは、本当に厳しい時代らしい。

「じゃあ、ツチノコ並みの価値はありそうですね、そのレジ締め記録。」

「これもらって、財布とかに入れておいたら、金運アップしないですかね?」

「本当に蛇の抜け殻扱いじゃないですか。」

 修一は記録を取り上げた。本気で持って帰りそうだったからだ。

「まぁ、冗談は置いておいて、通販の在庫、品切れとかは?」

 急に真面目な話題に切り替えてきた。

「えっと、いくつか、今日品切れになりました。」

 猫本のほうは、コミックエッセイが売り切れた。メディアミックス本のほうは、コミックの1巻が3点品切れ、間の巻もいくつか切れていた。

「やっぱ、1巻が真っ先になくなりましたねぇ。」

「今度から、1巻だけ多めにしたほうがいいですね。」

 店売りでもそうだが、コミックやライトノベルはが映像化した場合、1巻だけ買う層が一定数いる。面白ければ、続巻を買うつもり、というのが殆どだ。

「1月からのアニメ化ばっかりなので、今ならギリ、発注すれば間に合うと思います。思いきって、倍は入れておきましょう。」

「本気で俺のマンションの足の踏み場がなくなるなぁ。」

 修一はぼやいた。

 本格的に、御船家の二階に棲みつかなければならなくなりそうだ。

 と、その時だった。

「結花ちゃーん、いるー?」

 レジの方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。多分、莉愛だ。

「あっ、莉愛さん。こんばんは。」

「みゃー」

 結花とクロの挨拶が聞こえる。

 この前、結花には莉愛を紹介しなかったのに、いつの間にか二人は仲良くなっていた。修一が知らない間に、ここを訪問していたらしく、SNSに上がっていたクロと莉愛の写真は、その時に撮ったものだそうだ。

「行動力お化けだな。」

 修一は、密かに莉愛のことをそう呼んでいた。

「あれ?あの子って、ここをバズらせた、インフルエンサーじゃないっすか?」

 丸山が、バックルームの戸の隙間から覗き見しながら、修一に尋ねた。

「ああ、そうですよ。俺の従妹なんです。」

「いとこ!?インフルエンサーの可愛い従妹とか、そんな超有効手段、何で今まで放置してたんですか!?」

 丸山は一声叫んで、レジの方にすっ飛んでいった。

 確かに、従妹なので可愛いかとかで見ていなかったが、数少ない人脈を有効利用しようなどとは、思い至っていなかった。

「どうも初めまして、わたくし、取次の当店担当、丸山と申します。」

 結花と莉愛が話していたところに、丸山は平気で割って入っていった。

「取次の担当……?」

 莉愛は名刺を受け取りながら、怪訝そうな表情になっている。

「取次というのは、私達書店の取引先です。書店は取次から本を入荷して、売っているんですよ。発注とか、キャンペーンとか、色々あるので、各店には担当の社員さんがついてるんですよ。ウチの担当が、この丸山さんなんです。」

 結花が簡単に説明を入れた。

「いやー、RIAさんの拡散力は凄かったですねー。おかげで、こっちは大騒ぎですよ。取次の部長レベルまで、ざわついてますもの。」

 丸山はあからさまに莉愛を煽てたが、これでいい気になるほど、莉愛は軽くない。

「ふぅ~ん。まぁ、あたしは結花ちゃんと修一君の助けになれれば、いいだけだけどね。」

「ほぉ?」

 不意に丸山の目が光った。

「そう言えば、通販商品がいくつか品切れになったそうですけど、発注できそうですか?」

 結花が尋ねると、丸山は手でOKを作った。

「今なら大丈夫。ただ、1月アニメの作品は、今がラストチャンスなんですよ。なので、当初の倍発注しようと、河瀬さんに提案したのですが、渋られました。マンションのスペースがなくなるとのことで。」

 今度は莉愛の目がキラリと光った。

「ねぇ結花ちゃん、本って売れなくても、返品できるんだよね?」

「えっ?そうですね。」

 結花が頷くと、莉愛は丸山の眼前に手をパーにして翳した。

「5倍。5倍発注して。」

「えっ!?」

 結花は驚愕したが、丸山は予想していたかのように、ニヤリと笑った。

 元々、通販用のメディアミックス本は、各巻10冊ずつ入荷していた。これでも御船書房では破格の冊数だったのだが、5倍となると、各巻50冊である。取り上げているものアニメ化作品の1つが既刊10巻の為、これだけで500冊になる計算だ。

 それが、単巻の猫本と合わせて、20作品もあるのである。

「いや~、発注自体は可能なのですが、返本できるとはいえ、果たして売れますかねぇ……?」

 どこかわざとらしく丸山が言うと、莉愛はフンと鼻を鳴らした。

「通販で取り上げられてる本は、あたしがあっちこっちで紹介するし、出来るだけここで買わせるように仕向けるわ。完売させる勢いでいくから、そのつもりで!」

 莉愛が丸山相手に啖呵を切った。

経営者のはずの結花が、完全に置いてきぼりだ。

「わかりました。でも、置く場所はどうします?」

 丸山が、またもやわざとらしく話を振った。

「結花ちゃん、軽く引っ越し作業とか、する時間ある?」

「引っ越し??」

 急な話の転換に、結花は追いつけていない。

「修一君の部屋、この前見た時に、大体全体の5分の1くらい本で埋まってたんだよね。5倍入ってきたら、部屋がいっぱいになっちゃうんじゃない?」

 そこまで言われて、結花はようやく莉愛の企みに気付いた。

 要は、修一のマンションを本でいっぱいにして、御船家で完全に暮らすように仕向けようというのだ。

 そして、丸山は初対面にも拘わらず、一瞬で莉愛の意図を読み、協力する代わりに、ちゃっかり大量発注を取り付けたというわけである。取引先からの大量発注を取り付けたとなると、丸山の営業としての成績にプラスになるのだ。

「それは……大丈夫、です、けど……」

 結花が顔を真っ赤にして、頷いた。

 その返事を聞いて、莉愛と丸山は同時にニヤリと笑った。

「じゃあ、けってー!何日くらいに入荷になるの?」

「そうですねぇ……1週間前後で、順次入り始めると思います。上司にもかけあって、早めに入れられるようにしてみますので、クリスマスには、確実に入荷を終えられると思います。」

 丸山は、敢えて『クリスマス』を強調した。そこは、莉愛も念頭にあったらしい。

「上出来!じゃあ、今週中に必要なものを、マンションからこっちに運び出しちゃおう。結花ちゃん、それでいい?」

「は、はい。」

 結花は顔を赤らめたまま了解した。


 一方、バックルームで作業を続けていた修一は、

「やったー!閉店前に、ギリギリ終わったー」

 マンションから追い出されることを知る由もなく、返本作業を全うして、無邪気に喜んでいた。

 修一がこの話を知るのは数時間後。

 結花の手料理を前に、莉愛から世間話のついでで、さらっと話されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ