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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人

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27/141

Side:人24

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 莉愛の襲来から、3日ほど経った11月末日のことであった。

 この日の朝、御船家で泊まっていた修一は、結花が朝食を用意してくれている間に、通販サイトの様子を確認していた。

「ん?」

 修一はクロのように眉間にシワを寄せ、次いで目をこすり始めた。

「どうかしたの?」

 朝食を持った結花が、怪訝そうに修一に尋ねた。

「いや、俺、疲れすぎてるかなぁ。これ、いくつに見える?」

 修一はパソコンの画面を指さした。

 開いていたのは、通販の注文数の画面だったのだが、そこには『234件』の数字があった。

「えっ!?」

 結花も目をこすって見直したが、確かに『234』と表示されている。

「河瀬さん!凄い数の発注が来てるじゃないですか!」

 思わず、結花が仕事モードで叫んだ。

「あっ、やっぱり俺の疲れ目じゃないんですか、これ?」

 釣られて、修一も敬語になる。

「最後に確認したのはいつですか?」

「昨日、退勤する直前なので、18時前でした。その時は0件だったんです。」

 通販は20日に初注文が来て以来、2日ないし3日に1件程度のペースで注文がきていたのだが、それがここにきて、一晩で何百倍もの注文がきたのだ。

「表示バグとかじゃないよな?」

 修一がブラウザの更新ボタンを押してみた。すると、注文数は236件になった。

「増えた!?」

 慌てて確認すると、注文者は100人程度で、1人平均2冊以上頼んできているらしい。

「誰か1人が、大量注文してるわけでもないですね。」

 結花が人数を見てつぶやいた。

「ちょっと、ページのアクセス解析を調べます。」

 通販ページには、アクセス解析機能がついており、どこのページから飛んできたかが、わかるようになっている。調べてみると、その殆どが、SNSの御船書房のアカウントからだった。

「ということは、なぜかSNSがバズったか……?」

 今度はSNSのページを開いた。

「フォロワーが1万人超えてる!?」

 昨日まで、10人しかいなかったフォロワーが、こちらも一晩で1000倍以上になっていた。

どうやら、直接原因はこれらしい。

「でも、どうして急にフォロワーが増えたのでしょうか?」

 結花が首を傾げる。

 修一はしばらく、急に増えた書き込みを確認した。本への熱いメッセージや、クロが可愛いという内容の書き込みが、やたらとたくさんあった。

 ふと、その中に共通する名前の存在に、修一は気付いた。

「R、I、A……って、名前がやたらと書かれてますね。この人が紹介でもしてくれたのか?」

 修一は検索をかけて、その人のアカウントへと飛んだ。

「あっ!莉愛!?」

 最新の画像に写っていたのは、クロを抱っこした河瀬愛理だった。これは3日前、莉愛が御船家を訪れた時、夕食後に撮っていたものだ。

「もしかして、莉愛さんはインフルエンサーとかしてるんじゃないでしょうか。」

 結花の予想通りだった。

 どうやら、数年前から複数のSNSを使って、莉愛は『RIA』の名前でインフルエンサーをしているようで、このアカウントのフォロワー数は100万人を超えている。

 過去の書き込みや画像を遡ってみると、企業からの案件なども、いくつか受けているようだ。

「あいつ、こんな仕事してたのか……」

 修一が御船書房で働き始めたことを莉愛は知らなかったが、逆に修一も莉愛が大学卒業後、何をしているかは、まったく知らなかった。

「みゃー」

 不意に、クロが大きめの声で鳴いた。この鳴き方は、二人を呼んでいる時のものだ。

「どうした?」

 声の方に目をやると、クロが窓際で腰を下ろし、外を見ていた。

「何かいるのか?」

 修一がクロの見ている方を覗き込んで、さっと顔色が変わった。

「御船さん、あれ!」

「はい?」

 結花も覗き込んで、同じく表情が変わった。

 そこには、店の前に屯する、数十人の人々の姿があった。


 その日は正にお祭り騒ぎだった。

 開店の瞬間から、人が大勢雪崩こんできて、クロを撫でるわ、本を大量買いしていくわで、結花も修一も大忙しだった。通販の手配もしなければならなかったので、修一もいつもの三倍は動き回り、何とかその日の内に発送は終えたが、恐ろしいことに、その作業中にも注文が増えていくので、朝の236件以降のものは、明日に繰り越しになった。

 また、急激に注文と客数が増えたので、店内の在庫が全体的に品薄になり、結花が丸山に慌てて連絡を入れた。

 事情を話すと、丸山はわざわざ店まで足を運んでくれた。

「うわっ、本当に凄い人っすね!」

 店内に入るなり、丸山はどこか嬉しそうに叫んだ。そこから、店内の本の在庫状況を確認を始めたが、合間にちょいちょいレジ作業や接客も手伝ってくれたのが、とても助かった。この辺りは、流石に卒がない。

「返本、今日は10冊しかありませんね。」

 閉店間際になってようやく返本作業に入ったが、棚の本が大量に売れたおかげで、入荷した本をそのまま入れることができ、販売期限がきた週刊誌と月刊誌しか返本は出なかった。こんなことは、結花が経営を引き継いでから、初めてであった。

「いやー、凄かった!空前の大騒ぎでしたね!」

 丸山が肩をグルグル回している。既に疲れ切っている結花と修一とは対照的に、丸山はまだまだ元気そうだ。

「丸山さん、助かりました。ちょっとこの事態は予想してなかったので、二人では対処しきれませんでした。」

 結花が礼を述べると、丸山は手をヒラヒラとはためかせた。

「別にいーですよ!ここの売上アップは、僕の営業成績にもなりますし。」

 そう言ってから、丸山はタブレットを取り出した。本社から支給されているものだ。

「とりあえず、今日売れた本に関しては、ちょっと特別に発注かけたので、出来るだけ早く再入荷できるようにしておきます。あと、通販の在庫も、減ったものは発注をかけておきました。」

「ありがとうございます。」

 修一は頭を下げた。

丸山は発送作業中、注文数と在庫を照らし合わせ、発送作業が終わる前に、修一のマンションに置いてある在庫も加味して、発注を終わらせてくれた。この辺りの処理力の高さには、脱帽するしかなかった。

「で、今後ですけどー、この状態って続きそうですか?」

 丸山が尋ねると結花は首を傾げた。

「莉愛さんの宣伝によるものなので、もしかしたら一時的かもしれません。ただ、莉愛さんは継続的に宣伝してくれるのであれば、全体的な客数の底上げにはなるかもしれませんね。」

「なるほどー、だったら、雑誌の入荷も各種上げるよう、通達出してみます。いくつかは、早速来週から入荷数が増えると思うので、出すのがメンドーになるかもしれませんけど、宜しくです!」

「わかりました。」

 結花に嫌そうな素振りはなく、むしろ仄かに嬉しそうだった。

 ちなみに、クロはレジの猫用ソファーで、白目を剥いて気絶していた。


 閉店後、修一は莉愛に電話をかけた。

「あっ、修一君。電話ってことは、やっぱバズった?」

 開口一番、莉愛はそう言ってきた。

「いや、やるならやるって言えよ。不意打ちだったから、用意も覚悟もしてなくて、大変だったんだぞ。クロなんて、疲れすぎて、半分気絶してるし。」

「あー、それは悪いことしたなぁー。でも、たくさん本が売れて、よかったでしょ?」

「それはそうだけど……ああいうインフルエンサー的なことしてるんだったら、言ってくれよ。」

「そっちだって、書店勤務になったこと、言わなかったじゃん。お互い様だよ。」

 そこを突かれると、反論できない。

「まぁ、とりあえずありがとう。リアル店舗も通販も、空前の売上だった。莉愛のおかげだ。」

 修一は改まって礼を言うと、莉愛はゲラゲラと笑い出した。

「別にいいって、河瀬家のこれからに関わることなんだから。」

「えっ?」

「それより、これからガンガン御船書房を推していくから、しっかり運営していってよ?いっぱい本を売って、結花ちゃんがお金を貯められるようにすること!わかった?」

「ああ、もちろんだ。」

 修一はこの時、莉愛の言葉の真意を理解していなかったが、御船書房を決死の覚悟で運営していこうという気持ちだけは本当だった。

「よし、今日はそれでおっけー!じゃあ、またそっちに行くからね。結花ちゃんによろしくー。」

 そう言って、莉愛は電話を切った。

「恐れ入ったよ、莉愛には。」

 一瞬、劣等感の虫が騒ぎかけたが、結花に習って、莉愛や丸山に負けないくらいの成果を出そうと、修一は考え直すことにした。

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