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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人

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26/141

Side:人23

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

「こんばんはー!」

「いらっしゃ―えっ!?」

 閉店間際に若い女性が御船書房に入ってきた。

 それ自体は普通のことだったが、レジにいた結花は声かけをしようとして、思わず言葉に詰まった。

 入ってきたのは、先程修一と一緒にいた女性だったからだ。

 だが、修一の姿はない。

「あっ、いたいた!初めましてー」

 女性は愛嬌いっぱいの笑顔でレジに近寄ってきた。

「は、初めまして、えっと、御船結花です。」

 結花は戸惑いながら、とりあえず自己紹介した。

「莉愛っていいまーす。修一君の、うーん、子供の時からの、知り合いかな。」

「はぁ……」

「結花ちゃんって呼んでいい?」

「えっ、あっ、はい、いいですけど……」

 結花は戸惑いっ放しだ。

「修一君に聞いたんだけど、もうすぐ閉店なんだよね?そのあと、少しお話できない?」

「べ、別に大丈夫ですけど……」

「じゃあ決まり!どこで待てばいい?」

「えっと、ここでお待ち下さい。閉店してしまいますので。」

「はーい!」

 結花は莉愛にそう告げると、そそくさと閉店作業を始めた。

 莉愛はその様子を見ながら、レジに座っているクロに話しかけた。

「あんたがキューピットなんだって?」

「みぃ……」

 なぜか、クロは憔悴していた。

「あれ?なんか元気ないね?」

「みぃ」

 クロは機嫌悪そうに返事を返した。


 閉店作業終了後、結花は莉愛を二階に案内し、リビングで相対した。

「あの、それでお話とは何でしょうか?」

 結花は明らかに緊張している。接客で慣れている彼女にしては珍しい。

「別にそんなに構えないでよ~。ちょっと世間話したいだけだからぁ。」

 一方の莉愛は、愛想よく友好的に話してくる。

「実はこの前、サクラテレビでここの紹介番組見てね、修一君のお父さんとお母さんが驚いちゃったんだ。っていうのも、職場を変えたことを、修一君言ってなくてさぁ。それで、あたしがお願いされて、修一君がどうしてるのか、見に来たってわけ。」

 莉愛の説明を聞いて、明らかに結花の表情に動揺が入り混じった。

「河瀬さんのご両親と、仲がよろしいんですか?」

「まぁね。子供の時から、家族ぐるみの付き合いだったからさぁ。」

「そうですか。」

 結花は固い声質で返す。

「で、こっからが本番なんだけどさぁ……」

 不意に莉愛の視線が鋭くなった。表情は相変わらず愛嬌たっぷりの笑顔のままなので、妙な迫力がある。

「修一君、最近はよくここでご飯食べたり、泊まったりしてるらしいね。ただの経営者と従業員の関係で、しょっちゅう家に泊まらせたりするのぉ?」

 結花の額に冷汗が浮かんだ。

「それは、クロちゃんの為で……」

「うん、それも聞いた。でも、あたしが知る限り、何とも思ってない男を、何回も家に泊めたりしないよねぇ……?」

「それは……」

「本当に猫の為だけ?」

「えっと……」

 結花は顔を真っ赤にして俯いた。

 次の瞬間だった。

「ぷっ、ハハハハハハハッ!」

 突然、莉愛が爆笑し始めた。

 結花はポカーンとしている。

「ハハハ、ごめん、ごめん、結花ちゃん可愛くて、つい、いじめちゃった!」

 莉愛は机をバンバンと叩きながら、笑っている。

「あの……」

 展開についていけず、結花は只々戸惑っている。

「いや、本っ当にごめん!わざと苗字言わなかったんだけど、あたし、フルネームは河瀬莉愛っていうんだ。修一君の従妹。」

「えっ?いとこ?」

 結花は目を丸くした。

「サクラテレビの動画を見て、修一君の様子を見に来たっていうのは本当なんだけど、VTR見てて、結花ちゃんと修一君って、どんな関係なのかなぁ~って、気になっちゃって。それで、カマかけしに来ちゃった。」

 莉愛は無邪気にそう言ったが、こういう陽キャムーブに慣れていない結花は、たまったものではなかった。

「……それで、ご満足は頂けましたか。」

 結花の表情に一気に疲労が滲んだ。

「ううん。」

「ええ……」

 莉愛はにっこり微笑んだ。

「ズバリ訊くけど、二人の関係性は、今どういう状況?」

「どういう、と言われても……」

「この黒猫ちゃんをダシに、半同棲まで持ち込んだっていこうことは、修一君に気があるんでしょ?」

「えっと、それは……」

「あるんでしょ?」

 言葉に妙な圧がこもる。

「その……はい。」

 結花は観念して、頷いた。

「だよねー!そーじゃないと、おかしーもんねー!」

 莉愛は妙に楽しそうだ。

「で、どこまで進んでるの?もう、キスとかした?それとも、もっと先?」

「いえ、何も……」

「今更隠さなくていいって!恋愛トークしよーよ!」

「あの、すみません、本当に何も……」

「もう何か月も半同棲状態で、何も手ぇ出してないって、それは修一君が、極めて朴念仁ってことになるけど、そんなことはないでしょ?」

「いえ、本当に……」

「えっ、あいつそんなに朴念仁だったの?」

「えっと、河瀬さんは社会人としてはとても優秀なので、朴念仁というわけではありませんけど……」

「手は出して?」

「ないです。」

 莉愛は大袈裟に天を仰いだ。

「ないわー……」

「なんか、すみません。」

 結花が謝ると、莉愛は慌てて首を横に振った。

「違う違う違う!結花ちゃんは全然悪くないからね!むしろ、がんばってるほうだから!悪いのはあの朴念仁だから!」

 修一がたまに口にする『朴念仁』だが、どうも河瀬家自体の口癖みたいだ……などと、こんな場面だが、結花は思った。

「じゃあ、いつも仕事終わった後、ここで一緒にご飯を食べて、黒猫ちゃんの世話をして、別々に寝て、また朝ご飯を一緒に食べて、下に出勤してるの?」

「まぁ、そんな感じです。」

「ないわー……あいつ、マジか。」

 莉愛は再び天を仰いだ。

「あの、河瀬さんは御船書房の為にがんばってくれてますし、とても優しくて、クロちゃんの世話も、一所懸命しています。」

 結花が慌てて修一のフォローを入れると、莉愛は目頭を押さえて唸り始めた。

「ん~~~、いや、それはわかってんのよ。こっちも長い付き合いだし。こんだけ朴念仁だって非難しといてナンだけど、恋人とか結婚とか考えるなら、いい物件だとは思うよ、修一君は。ただ、これはなぁ……」

 莉愛も、きちんと修一を評価した上で、ああだこうだと言っているらしい。

 と、急に莉愛が顔を上げ、結花を真正面から見据えた。

「結花ちゃん、単刀直入に訊くけど、修一君との関係を深めたい?」

 その語気に結花は一瞬たじろいだが、すぐに表情を引き締めた。

「はい。河瀬さんが嫌でなければ、そうしたいです。」

「こんなに人の気持ちの面で鈍い奴だけど?」

「でも、誰に対しても敬意は忘れない人です。不器用でも、それを蔑ろにはしません。」

「前職は、メンタルの問題で辞めてるみたいだけど、またそうなるかもよ?」

「それなら、私が支えます。私には父が残してくれた、この店がありますから。」

 結花は頼もしい笑顔を向けた。

 莉愛はニッっと笑った。

「おっけ!じゃあ、二人の為に、おせっかい焼くから。覚悟しておいて!」

 結花は少々驚いた。

「えっ、そんなお手を煩わせるようなことを……」

「いいって。どっちみち、河瀬家の今後が、最近最大の懸念議題になってたから。奥手で鈍感な修一君にとっても、河瀬家にとっても、これは千載一遇のチャンスなの。わかる?」

「は、はい……」

 ちょっと思っていたより大事になりそうで、結花の背筋に冷汗が流れた。

「大丈夫、結花ちゃんや修一君が嫌な思いをしないように、細心の注意を払うから。大船で乗った気でいてよ!」

 莉愛は、はじけんばかりの笑顔で、結花の手を握った。


 話し合いの後、時間が遅くなったので、莉愛は結花の手料理をご馳走になることになった。

 修一との夕食用に買った食材が、そのまま流用された。

「ナニコレ、超うまっ!」

 莉愛はかなり大袈裟に感想を返してくれた。

「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです。」

 結花が返すと、莉愛は首をブンブンと横に振った。

「いや!マジでうまい!ウチとか、修一君ちの料理とは大違い!もう、あたしの為にも、絶対結花ちゃんは離さないから!修一君ならいくらでも捧げるから、見放さないで!」

「はは……」

 修一の反応を見た時も思ったが、河瀬家は料理の質に若干の問題があるのかもしれないなぁ……と、結花は少し心配になった。

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