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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人

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25/142

Side:人22

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 最後の番組放送翌日の11月26日のこと。

 その晩、マンションにおいてある在庫の整理も兼ねて、修一は久々にマンションに帰って寝ることにしていた。

 コンビニで買ってきた晩ご飯を机に置き、テレビを点けようとした時だった。

 スマホが鳴った。

「ん?莉愛?」

 画面には『河瀬莉愛』の名前が表示されていた。この名前を見るのは、二年ぶりくらいだ。

「もしもし?」

 修一が電話に出ると、スマホの向こうから、ハイテンションな声が飛んできた。

「修一君!?何で本屋で働いてんのー!」

 声量の大きさに、思わず修一はスマホを耳から離してしまった。

「なんだよ急に。一体どうした?」

「サクラテレビの夕方の番組で見たの!街の本屋が紹介されてて、そこに修一君が出てたから!もう、びっくり!」

「あー、なるほど。」

 修一はようやく得心がいった。

 この河瀬莉愛は、修一の従妹である。

 年は修一の二つ下で、兄弟がいない修一にとっては妹のような存在だったが、大学進学に伴って、現在のマンションで一人暮らしを始めてからは、すっかり疎遠になっている。一年か二年に一回、盆や正月に顔を合わせるくらいだ。

「何で本屋なの?営業職じゃなかったの?」

「いや、色々あって、辞めた。」

「えー!?だって、お給料よかったじゃん!今の本屋はそんなに高給なの?」

「いや、収入的にはだいぶ下がったけど、男の一人暮らしだから、問題なく暮らせてるよ。」

「いやいやいやいや!今はよくても、結婚とかどうすんの!?収入低かったら、誰もお嫁さんになってくれないよ!」

「ん~、それはそれで仕方ないんじゃない?」

「河瀬家が断絶しちゃうじゃん!そっちが本家なんだよ!」

 莉愛は修一の父の弟の娘である。次男である莉愛の父が分家扱いで、別の家を建てて暮らしており、元々の実家である河瀬家は、修一の父が祖父から継いでいる。その祖父母は、二年前に相次いで亡くなっており、現在河瀬本家の当主は、修一の父である。

 といっても、別に凄い旧家だとか、そういうわけではなく、田舎の普通の家庭である。ただ、未だに地元で暮らしている莉愛は、田舎特有の跡継ぎ論にうるさい。

「まぁ、断絶したら、それはそれで仕方ないんじゃない?」

「そうなったら、莉愛が婿養子探すっていう、超絶困難ミッションやらなきゃならなくなるじゃん!」

「嫌なら、莉愛も結婚しなくてもいいんじゃない?そういう時代だし。」

「絶対ダメ!っていうか、なんでそんなに色々後ろ向きなの!?」

「逆に何でおまえはそんなに、家系存続に熱心なんだよ……」

 実家と分家が歩いて五分の距離だったので、二人は兄妹のように育ってはいた。だが、物静かで地味な修一とは違い、莉愛は社交的で見た目も派手、可愛らしい顔立ち、といった感じなので、性格や考え方は似ても似つかない。

 割と幼い頃から、修一は何かと莉愛と比べられ、主に人間関係の面では、莉愛を見習うようによく言われたものであった。

「それで、用件は何?」

 修一が若干うんざりしながら尋ねると、再び莉愛のマシンガントークが始まった。

「いや、『何?』じゃないって!こっちは、ウチの親も伯父さん達も、修一君が仕事を変えたこと知らなかったから、大騒ぎになってんの!生活はどうなってるのか、今後どうするつもりなのか、一度話してきてって、言われたの!」

「ああ……」

 確かに、仕事が変わったことは、親に話せずじまいだった。

 ここで、親本人ではなく、コミュ力が高い莉愛にお鉢が回ってくる辺りが、修一と両親との微妙な距離感を物語っている。

「明日、そっちに行くから、何時ならいける?」

 どうやら、修一のマンションに来るつもりらしい。

「別に電話でいいだろ。」

「ダーメ!生活の状態とかもチェックしなきゃならないの!で、何時?」

 拒否権はなさそうである。

「勤務が十八時までだから、その後ならいいよ。」

「わかった!十八時ね!」

 そこで、電話が切れた。

 暗転したスマホの画面を見て、修一は溜息をついた。

「……説明、めんどいなぁ。」


 翌日。

「修一君、いるー!?」

 莉愛が怒鳴り込んできたのは修一のマンション……

ではなく、なんと御船書房だった。

「えっ?莉愛?何で?」

 レジにいた修一が、目を白黒させた。

 傍らにいたクロも、何事かと眉間にシワを寄せている。

「この前のテレビに、場所も紹介されてたから、調べてきたの!職場がどんな感じなのかも、見ておきたかったし。」

 確かに、VTRの最後に地図付きで紹介されていた。

 まさか、直に店に殴り込んでくるとは思わなかった。

「わかった、今から帰る準備するから、クロでも撫でて、ちょっと待ってて。」

「あっ、テレビに出てた黒猫!かわいー!!」

 途端に莉愛はクロに飛びついた。動物にも慣れているのか、躊躇うことなくクロを撫でまわしている。

「みぃぃぃぃ」

 莉愛のことはクロに任せ、修一はバックルームに駆け込んだ。

「御船さん、すみません。時間ぴったりで申し訳ないんですけど、知り合いが来たので、上がらせてもらいます。」

「知り合いですか?じゃあ、今日は夕飯を召し上がっていかないですか?」

「そうですね。じゃあ、お疲れ様です。」

 修一はそそくさと着替えて荷物を持つと、売場の方に戻った。

 莉愛はクロを撫で続けていた。

「お待たせ。じゃあ、行くぞ。」

「えっ、お店どうするの?」

「経営者がそこにいるから、大丈夫。」

 いちいち、結花に莉愛を紹介するのが面倒臭かったので、修一はさっさと莉愛を連れて、店を出ていった。

「……」

 その様子を、店の奥から結花が無言で見つめていた。


「うわっ!なにこれ、本だらけじゃん!」

 マンションに入るなり、莉愛が叫んだ。

 修一のワンルームマンションは、現在、リビングの半分ほどが本の在庫置き場になっており、ベッドや机などの家具類が、もう半分に寄せられている。

「最近、通販始めたから、在庫の置き場がなくて、ここに一時的に置いてるんだよ。狭くて申し訳ないけど、そこら辺に座って。」

 修一に促され、莉愛は信じられなさそうにしながら、リビングの片隅に座った。

「これ、生活できてるの?」

 莉愛が見回しながら尋ねてきた。

「いや、最近は御船書房で殆ど寝泊まりしてるから、あんまりここは使ってないな。だから、物置代わりになってるんだけど。」

「えっ?あの売場に布団敷いてるの?」

「そんなわけないだろ。二階が住居スペースになってるから、そこで寝泊まりしてるんだよ。」

「へぇ~……えっ?」

 一瞬、莉愛がフリーズした。

「どうした?」

「ちょっと待って、あのお店って、もう一人、経営者の女の子いたよね?その人はどうしてるの?」

「どうしてるって、同じく二階で生活してるけど。」

 瞬間、莉愛の顔が驚愕に埋めつくされた。

「ち、ち、ち、ちょっと!仕事の後、二人で同じところで寝泊まりしてるの!?」

「いや、部屋は別だよ。おかげで、食費とかが、結構助かってるよ。」

「そーじゃなくて!!何それ、半同棲じゃん!それで、仕事変えたの!?」

 そこでようやく、莉愛が何を勘違いしているか、修一は察した。

「いや、莉愛が思ってるようなことじゃなくて。クロっていう黒猫がいただろ?あいつの為に、こういう形の生活になってるだけだよ。」

 修一はそう前置きして、前職を辞めた経緯から、クロとの出逢い、御船書房で勤めるようになった経緯まで、順に説明していった。

「……というわけ。一応、きちんと生活はできてるから、心配しなくていいよ。」

 修一が説明を終えたが、莉愛はどこか釈然としない表情をしている。

「ん~~~~……そーなるかなー……」

「なにが?」

「いやぁ……」

 珍しく、莉愛の歯切れが悪い。

「まぁ、いーや。それで、今後はどうするつもり?」

 しばらく唸ったあと、莉愛は話題を切り替えた。

「とりあえず、しばらくは御船書房でお世話になろうと思ってる。店の経営は、決して順調とは言えないけど、クロも看板猫をがんばってくれてるし、拾ってもらった恩は、返したいしね。もっと先の将来とかは……まぁ、これからじっくり考えるよ。」

「そっかぁ……まぁ、とりあえず、ウチの親と伯父さん達には、そう言っておくわ。」

 莉愛はそう言って、立ち上がった。

 どうやら、用件は終わったので、帰るつもりらしい。

「あっ、そういえば、あの本屋って、何時まで営業してるの?」

 ふと、帰る直前に莉愛が尋ねてきた。

「夜の8時までだけど?」

「はーい、りょーかい。」

 それだけ返事をして、莉愛はマンションから出ていった。

「何だったんだ、あいつは……」

 修一は入口のドアを見つめながら、つぶやいた。

 おかげで、今晩は御船家で泊まるつもりだったのに、二日連続でマンションで独りぼっちである。

「まぁ、あいつも頼まれて来たんだろうし、下手に騒がずに帰ったから、良しとするか。」

 と、自分に言い聞かせ、修一はリビングに戻った。


 だが、修一は莉愛の行動力を甘く見ていた。

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