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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人

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21/141

Side:人18

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

「第一回、御船書房経営対策会議ぃー。」

 夕食を食べながら、結花が急に宣言した。

「……会議って、食事しながらするもんなの?」

 修一が素直な疑問を口にした。

 修一の膝の上にいるクロも、雰囲気を察して怪訝そうな顔をしている。

「食事しながらはいけないという法律はありません!御船書房、28年目にして、初の経営会議を、今から始めます。」

「わかりました。」

 なんか、譲らなさそうなので、修一は素直に返事した。

「まぁ、冗談は置いておいて……昨日今日の売上を見た結果、クロちゃんの集客力がシャレにならないことが判明しました。」

 結花は仕事モードの敬語だ。一応、修一も合わせてみる。

「そうですね。それで、クロを常に一階に常駐させて、看板猫にするということですか?」

「う~ん、それなんですけどねぇ……」

 結花は歯切れが悪い。

「クロちゃんのストレスになることは、したくないんですよねぇ……」

「ああ、それはそうですね。」

 クロは推定生後半年程度なので、かなり成猫に近い大きさになりつつある。人間でいえば、思春期くらいの年齢だ。最近は、餌も成猫用に、少しずつ切り替えている。

 だが、だからといって、無理をさせていいということにはならない。

「クロちゃんは、びっくりするくらい手がかからない子ですし、凄く人懐っこいですけど、不特定多数の人間に接し続けるのは、流石につらいかもしれません。クロちゃんの健康を害してまで、売上を得たいとは思いません。」

 結花はきっぱりと言い放った。

 ああ、ここで働いていてよかったなと、修一は思った。

「クロはどうだ?」

 修一は、膝の上のクロに話しかけた。

「みゃん」

 クロはお返事をして、修一のお腹あたりに頭をスリスリしている。

「とりあえず、昨日今日でクロちゃんのファンが、それなりにできたのは事実だから、呼ばれたら連れてくる、という感じでしばらくは運用しましょうか。あと、必ずどちらかが、クロちゃんの動向を見張ること。心無い人がクロちゃんに乱暴したり、なんてことも考えられますし、この前みたいに脱走したら、危ない目に遭うかもしれませんから。」

「入口はどうします?脱走防止の為に閉めます?」

 結花はう~んと、唸りだす。

「店外の絵本塔のこととか考えると、閉められないんですよね。お客様が入りにくくなるというのもありますし……ただ、前の通りは車が少ないとは言え、人通りや自転車が多いですし、すぐ近くには踏切もありますし、どうしましょうか。」

 駅前の商店街入口に位置する御船書房の目の前には線路と踏切がある。猫がうろつくのは、確かに危ない。

「昔はあの踏切には警手さんがいたらしいですけど、今はいませんしね。」

「けいしゅさん、って何ですか?」

 修一には耳馴染みがない言葉だった。

「昔の踏切って、遮断機が手動だったんですよ。なので、電車が来るたびに、遮断機を上げ下げする係の人がいて、それを警手っていうそうです。そこの踏切も、昔は遮断機が手動だったそうで、警手さんがいたらしいのですが、私が生まれた頃には、既に今の自動遮断機になってたみたいです。多分、父が子供の頃の話だと思います。」

「確かに、常に踏切を見張ってくれてる人がいれば、多少クロが出歩いても、見張っててくれそうですよね。残念です。」

 修一は溜息をついた。

「とりあえず、入口は開けたまま、クロちゃんはどちらかが常に見張る、あと、お客様から要望があれば、二階から連れてくる、という形で運用してみましょうか。状況をみて、臨機応変に運用を変えていきましょう。」

「わかりました。クロ、よろしくな。」

 修一が話しかけると、クロはフンと鼻を鳴らした。

「じゃあ、そういうことで。今日は泊まる?」

 結花の言葉から敬語が抜けた。どうやら、お仕事モードは終了らしい。

「うん、ちょっとクロを労わってあげるよ。」

 修一もそれに合わせて、敬語をやめて、会話を再開した。


 翌日。

 二人はいつも通り、開店準備を始めていた。

「それじゃあ、シャッター開けますよ。」

「お願いしまーす。」

 修一がシャッターを開けると、看板と絵本塔を外に出していく。

 すると、開店直後にもかかわらず、客が一名、店内に入ってきた。杖をついたおばあちゃんだ。

「いらっしゃいませー」

 修一が絵本塔を出し終えた時には、女性は目当ての雑誌を手に、レジの前まで来ていた。

 慌ててレジに向かうと、修一はいつものように接客を開始する。

「お待たせ致しました。お預かりします。」

「みゃー」

 不意に鳴き声に、修一は驚き辺りを見回した。

 見れば、足元にクロがすり寄ってきていた。

「クロ!?何でここに!?」

 狼狽する修一を尻目に、クロはレジカウンターの台にぴょんと飛び乗ると、客のおばあちゃんに向かって、元気よく一鳴きした。

「みゃん」

「あら、かわいい黒猫ね。ここのウチの子?」

 客のおばあちゃんに訊かれ、修一は戸惑いながらも頷いた。

「は、はい。二階で飼ってるんですけど、勝手に出てきたみたいで……」

「あらそうなのー。いい子ねー」

 客のおばあちゃんは、そう言ってクロを撫でた。

 クロは昨日までよりは、愛想よく撫でられている。

「あれ?クロちゃん、もう連れてきたんですか?」

 バックヤードで作業をしていた結花が、騒ぎを聞きつけて、レジまでやってきた。

「いや、勝手に抜け出してきたみたいです。気が付いたら、レジの中にいました。」

 修一が説明している間も、客のおばあちゃんは、クロを機嫌よく撫でている。

 結局、そのままクロはレジに居座り、客に愛嬌を振りまき続けた。

 昨日のように、客が殺到することはなかったが、クロを見つけて、入ってくる客は相変わらずいたので、慢性的に客数が多い状態は続いた。

 そうして、あっという間に十八時なり、修一の退勤時間となった。

「そろそろ、退勤しますけど……」

「じゃあ、クロちゃんも一緒に二階にお願いします。朝からずっと、お客様に撫でられっ放しですから。」

 結花の指示で、修一はクロを連れて二階に戻った。

 クロは戻るなり、すぐにトイレに行って、餌と水の摂取を始めたが、昨日までのように、疲れている様子はなかった。

「おまえ、大人気だなぁ。昨日の会議の内容、もしかして理解してたのか?」

 修一が尋ねると、クロは

「みゃん!」

 と、元気よく返事してきた。まるで、「当たり前だろ!」と、言っているようだった。

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