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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人

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20/142

Side:人17

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 それから、クロが脱走することはなかったが、逆に修一が御船家へ泊まるのが恒例になった。

 やはり、クロがいなくなったマンションで、一人で寝起きするのは味気なく、おまけに御船家の居心地がよすぎて、週のうち三~四日は泊まってしまっている。

 8月に入り、連日続く猛暑と熱帯夜も、マンションへ足を遠のかせる要因となった。

 また、この夏の間に、二人にもう一つ小さな変化があった。

「クロちゃんの餌って、まだ予備あるかな?」

「あっ、これでラスト。後で俺が買ってくるよ。」

 会話から、敬語が抜けたのだ。

 一階での勤務中は、未だに敬語で話し合っているが、二階で一緒にいるときは、敬語は使わなくなった。どちらから提案があったというわけでもなかったのだが、クロ脱走の一件があってから、自然とそうなっていった。

 そうして暑い夏が過ぎ、9月も半ばを過ぎて、ようやく辺りが秋めいてきた頃のことである。


「う~ん……やっぱり、画像だなぁ。」

 二階リビングでパソコンと睨めっこしていた修一が、呻いていた。

「どうしたの?」

 夕食の準備をしていた結花が、手を止めて寄ってきた。

「いや、とりあえず御船書房のアカウントは作ってみたんだけど、アイコンとバナーに印象的な画像が欲しいなって思ってさ。」

 今月初め辺りから、修一は通販の準備をし始めていた。

 結花もパソコンやインターネットが使えないわけではなかったが、前職の杵柄もあり、修一の方がこの手の作業は得意だった。なので、自然と通販関係は修一の担当となった。

 現在、通販サイトは準備中だが、同時に御船書房のSNSアカウントを、修一は作っていた。通販・リアル店舗どちらにしても、ネット上の宣伝は欠かせないと考えたからだ。

 だが、アカウントのレイアウトで、躓いてしまったらしい。

「店の外観とか、本棚の写真とか撮って加工するとか?」

 結花が提案したが、修一は唸ったままだ。

「それだと、他の書店のアカウントと差別化できないんだよね。外観も特徴的なわけではないし……」

「平凡な外観で、悪かったですね。」

 結花がむくれて見せると、修一は慌てて首を横に振った。

「いやいやいや!そういうことじゃなくて!」

「ぷっ」

 修一の慌てぶりに、結花が思わず吹き出す。

「冗談だよ。でも確かに、こういうものの画像って難しいね。本と関係ないものにすると、それはそれで意味がないしね。」

 結花の言う通りだった。

 単にインパクトのある画像なら、ネットを漁れば、いくらでも出てくるのだが、一応、事業に使うものなので、特に公序良俗に反するものを使うわけにはいかない。

「ホームページとか、SNSのページって、何となく見てたけど、みんなよく考えて作ってるんだなぁ、って思うなぁ。」

「まぁ、ウェブデザイナーとか、それ専用の職業があるくらいだしね。」

 SNSアカウント作りは、軽く暗礁に乗り上げていた。


 翌日の火曜日、常連の木下さんがやってきた。

 結花は客注品の整理をしていたので、レジは修一がすることとなった。

「そういえば、この前の子猫ちゃんは元気?」

 予防接種の時のことを、木下さんは覚えていてくれたらしい。

「ええ、元気ですよ。最近、やんちゃになってきて、大変です。今も二階にいますよ。」

 何気なく修一が言うと、木下さんは目を丸くした。

「あら、河瀬さんが飼ってるんじゃなかったの?」

「ええ、実は俺のアパート、ペット禁止で、拾ったはいいものの、飼えなかったんですよ。それで、今は御船さんの家でお世話になっています。」

「あらあら、そーなの。下には降りてこないの?」

 どうも、木下さんはクロに会いたいらしい。

「ここに連れてきたことはないんですけど……御船さん、いいですか?」

「逃げないようにすれば、大丈夫ですよー。」

 バックルームから結花の返事が聞こえてきた。

「では、少しお待ちください。」

 経営者の許可が出たので、修一は二階に上がると、ひょいとクロを抱っこした。

「クロ、お客さんがお呼びだよ。」

「みゃん?」

 突然のことに、クロは見るからに戸惑っていたが、抵抗はしなかった。

 そのまま、一階のレジまで連れてくると、台の上にクロを座らせる。

「あらー、ちょっと見ない間に、大きくなったわねぇ。」

 木下さんがそう言って、クロをナデナデする。流石に動物病院のスタッフだけあって、猫の扱いには慣れている。

 クロも特に嫌がることはなく、なされるがままにしてくれている。

「この時期の子猫は成長が早いですね。俺は猫を飼うのは初めてなので、ちょっとびっくりしてます。」

「そうね、あっという間に大人になっちゃうわよ。」

 そんな、他愛ない会話を交わしていた時だった。

「あー!猫ちゃん!!」

 急に、店内に元気な叫び声が響き渡った。

 たまたま、前の道を通りがかった幼稚園か保育園と思われる一団が、クロを見つけたらしい。御船書房は基本的に、営業時間中は入口が空きっ放しなので、入口から近いレジ付近は通りからよく見えるのだ。

「ほんとだ、猫ちゃん!」

「かわいー!」

 十人ほど子供達が店内に入ってきて、クロを眺め始めた。

「あのぉ、撫でても大丈夫でしょうか?」

 引率と思われる先生が尋ねてきたので、修一は快く頷いた。

「頭とか、背中とかを優しく撫でてあげれば、大丈夫です。基本的に人懐っこい性格なので。」

 そう説明すると、子供達はちゃんとそれを守って、クロを撫で始めた。

 クロは若干迷惑そうな顔をしていたが、これまた抵抗したりはしない。

 間もなく、木下さんは帰ったが、小学生集団がしばらく滞留したせいで、通りがかった人や客が、入れ替わり立ち代わりクロに構っていく形になり、結局一時間以上、クロはレジで接客をする羽目になった。


「クロ、大丈夫かー?」

「みぃー……」

 流石にくたびれた様子なので、昼休憩の時に二階に戻したが、餌と水を摂取して、そのまま座布団でコテンと寝てしまった。

 十八時の退勤後、修一は二階に戻ったが、クロは元の位置から動いた形跡はなく、ずっと熟睡していたらしい。

 余程、疲れたと見える。

「なんか、すまんな。」

 寝ているクロを起こさないようにしながら、修一はパソコンの電源を入れ、勤務時間外ながら、通販サイトの準備を進めた。

 閉店時間になり、結花が二階に上がってくると、ようやくクロは目を覚ました。

 おもむろにトイレへ行くと、再び餌と水を摂取、そして修一の膝の上に乗ってきた。

「今日の売上、いつもの二倍近くもあったよ。」

 二階に上がってくるなり、結花がそう言ってきた。

「えっ?今日、なんか売れ筋の新刊とかあった?」

「ううん。でも、午前中の売上が凄まじくよかったよ。」

 結花はレジ締めの際に確認をとったらしい。

「あー、そういえば、クロがレジにいた間、いつもは前を素通りするような人達が、やたらとクロを見つけて入ってきてたな。なんか、雑誌とか漫画とかをついで買いしてたかも。」

 クロやそれを触りに来る客に気を取られていて、レジを打った回数までは覚えていなかったが、あの時にかなりの売上を稼いだらしい。

「流石はクロちゃん。凄い集客力だね。」

 結花がそう言うと、クロはフンと鼻を鳴らした。

 その様子は、どこか誇らしげだった。


 翌日、午後の閑散時間に棚の整理をしていると、聞き覚えのある元気な声が、店内に響き渡った。

「あれー?今日は猫ちゃんいなーい!」

 見れば、昨日の子供達のうちの一人だった。今日は母親と一緒に来たらしい。

「いらっしゃいませ。猫は二階にいるけど、連れてこようか?」

「やったー!」

 修一が尋ねると、子供は大喜びだった。

 すぐに二階からクロを連れてくると、昨日と同じく、レジの台の上に座らせる。

「かわいー!」

 子供は昨日と同じく、撫で始め、クロは昨日と同じく、若干迷惑そうな顔をしている。

 すると、母親が申し訳なさそうに頭を下げてきた。

「申し訳ありません、この子がどうしてもって聞かなかったので。わざわざ連れてきて頂いてしまって。」

「別に大丈夫ですよ。この子も、基本的には人間が好きな性格なので。」

 修一がそんな話をしていると、

「あら?黒猫?」

表を通りかかった婦人が、またクロを見つけて入ってきた。

「ああ、優しく撫でてもらえば、大丈夫ですよ。」

 修一が対応していると、更に通りかかった人が駆け込んできた。

「あーかわいいー!」

「猫ちゃん?」

「あれ?本物の猫?」

 そこからは昨日と同じく、異例の客足となった。

 十八時になってもレジ打ちが途切れず、急遽修一は閉店まで勤務を延長することとなった。クロはいろんな人に撫でられ続け、今日はなんと三時間以上、レジの台の上にいた。

「今日は、午後の売上が凄まじいね。」

 レジ締めをしながら、結花はつぶやいた。

 クロはトイレと餌の為、先に二階に行ってもらい、今は二人で閉店作業を行っている。

「これが、招き猫というやつか……」

 修一も売上を見て、目を丸くしている。

 今日はこの時期の平均売上の二倍を超えている。

「これは、もしかすると、もしかするかも。」

 修一は小さくつぶやいた。

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