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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人

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14/141

Side:人12

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

『住民の皆様へ

 このアパートで動物を飼育している人がいるのではないか、という連絡を最近いただいております。

 当アパートは、動物の飼育が禁止となっております。

 もし、飼育されている住民の方がいらっしゃいましたら、すぐにお止めいただきたいと存じます。

 拒否されれば、契約に則り、退去していただくこととなりますので、宜しくお願いします。』



 出勤しようとした時、入口のポストにそんな内容の紙が放り込まれているのに気付いた。

 大家が書いたものだろう。多分、全室放り込まれている。

「マジか……」

 まだ時間に余裕はあったので、修一は慌てて部屋内に戻り、契約書を引っ張り出した。

 契約書を見たのは、入居以来だった。

「……マジだ。」

 契約書には結構な文章量があったが、その片隅に『動物、ペット等の飼育は不可とする。』という一文があった。契約書など、読み飛ばしてしまい込んでいたので、まったく気付いていなかった。

 そもそも、入居当初はペットを飼うなど、夢にも思っていなかったので、印象にすら残っていなかったのだ。

「……どうする……」

 こうなると、選択肢は二つだ。

 このまま隠し通すか、ここを出て引っ越すか。

 だが、前者はこの手紙が放り込まれた時点で、押し通せる可能性は低い。クロが結構元気な猫であることも考え併せると、早晩バレてしまうと考えたほうがいい。

 そうなると、引っ越ししか、選択肢はないが……

「みぃい?」

 いきなり部屋に戻ってきた修一を、クロが怪訝そうに覗き込んでいる。

 修一は寄ってきたクロの頭を撫でると、大きく溜息をついた。

「……大丈夫。必ず何とかするから。」


「引っ越しですか?急に?」

 仕事の合間に、修一が今朝のことを伝えると、結花からは予想以上のオーバーリアクションを返ってきた。

「そうなんです、急遽なんですけど……」

「どうしてですか?」

「実はですね、」

「どこに引っ越すんですか?」

「いや、それはまだ、」

「ここは辞めちゃうんですか?」

「いえ、その、」

「いつまで、今のところに?」

「あ、あの!御船さん、落ち着いて下さい。」

 怒涛の質問攻めを、修一はやっとの思いで堰き止めた。

「あ。すみません、つい……」

 なぜか結花がシュンとなる。叱られた後のクロみたいだ。

「実は、俺のアパート、動物の飼育禁止だったんですよ。」

「そうなんですか!?」

 結花からまたオーバーリアクションが返ってきた。

「いや、普通把握しておけよ、っていう話なんですが、全然気付いてなくて……今日、大家からと思われる手紙で、注意勧告がきました。このままだと、退去するしかないんですよ。」

「それで引っ越し、というわけですか。別に遠くに引っ越して、ここを辞めるわけではないんですね。」

 結花としては、やはりそれが気がかりだったのだろう。話を聞いて、ほっとしたようだ。

「ただ、問題は……」

「お金ですか?」

「恥ずかしながら……」

 最近まで無職だったので、引っ越し資金がない。

 一応、給料日は二度あったが、クロにかかるお金もあり、貯金は減り続けている状態だ。

「あと、引っ越し先も問題でして……」

「引っ越し先?」

 一応、昼休憩の時間に、近くで猫が飼えるアパートかマンションを簡単に探してみたのだが、とにかく物件が少ない。犬や金魚なら飼える物件は結構あるのだが、その殆どが猫不可なのだ。

「どうも、猫が柱で爪とぎをするのが、賃貸で嫌われる理由らしいです。退去する時に、修繕費とかでトラブルになることが多いそうで……」

「ああ、なるほど。賃貸だと、そういう問題が出るんですね。」

 持ち家で猫を飼っていた結花は、こういう賃貸の事情は知らなかったらしい。

 必然、数少ない猫飼育可能物件は、家賃が高くなってしまう。

 今見つけている範囲では、一番安いところでも、今修一が住んでいるアパートの二倍以上である。

「生活のランニングコストが上がっちゃう、ということですね。安月給ですみません……」

 話を聞いて、結花が申し訳なさそうに言った。

「いえいえいえ!これはもう、猫一匹養えない、俺の甲斐性の問題ですから!御船さんは気にしないで下さい。」

 修一は慌てて執り成した。

「とはいえ、もたもたもしていられないですよね?」

「そうですね。現状、まだ完全にバレたわけではないですが、時間の問題だと思います。その前に、早く引っ越し先を探さないと……」

 状況はかなり切迫している。

 頭を抱える修一の様子を見て、結花が天井を見上げて考え込み始めた。

「そうですねぇ……引っ越し資金や敷金礼金なら、お給料の前借をして差し上げられますけど、毎月かかる高額な家賃の対策にはなりませんし……あっ!」

 不意に結花が何かを閃いた。

「あの、河瀬さんがよければ、なのですが……」

「何か方法があるんですか?」

 修一が食い気味に尋ねると、結花は若干含みがある笑みを浮かべた。

「クロちゃん、ウチで預かりましょうか?」

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