Side:人11
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
ジメジメとした梅雨が終わり、季節は灼熱の真夏へと移り変わった。
修一が御船書房で勤め始めてから二か月余りが過ぎ、ようやく一通り仕事ができるようになってきた。
「そろそろ、お仕事にも慣れてきたと思いますし、ネット通販の準備を始めましょうか。」
結花がそう提案してきたのは、七月終わりのことだった。
「そういえば、そういう名目で雇われたのを忘れていました。日々の業務に、ひたすら集中してましたね。」
「本当に真面目にしっかり働いてくれてますものね。おかげで助かっています。」
結花はにっこりと笑った。
「その通販について、働き始める前に少しだけ調べたんですけど、どういう形式でやるんですか?大手の通販サイトに参加するのか、自前でやるのか……」
修一が尋ねると、結花は少々困った表情になった。
「大手のサイトは、経費の面からいって難しいですね。他のサイトとの差別化も難しいですし、ウチがやったからといって、わざわざお客様に選んでもらえるようなアドバンテージはありません。」
「となると、自前でサイトを立ち上げて、注文がきたら、俺達で梱包して発送する感じですか。支払いとかはどうするんですか?」
「ショッピファイやベースみたいに、あまり経費をかけずに、支払い機能付きのサイトを作れるプラットフォームがありますので、その辺りを利用しようかと思っています。」
「なるほど。」
近年は本に限らず、個人や小さな企業が気軽に通販を行えるようにサポートしてくれるプラットフォームが複数出てきているのだ。
「問題は、通販に乗せるラインナップをどうするかなんですよねぇ……」
結花は額にシワを寄せて、つぶやいた。その表情は、結花を見た時のクロに少しだけ似ていた。
「当然、世にある全ての本はムリなので、店内にある本からチョイスすることになるのですが、どういうラインナップにすれば、話題になるかが、わからないんですよねぇ……個人書店でやってるところは、どこも個性的なラインナップにしてるのですが、本自体は他の通販やリアル店舗で手に入るので、そのサイトで買いたいと思わせなければならないんです。そこが超難しいですね。」
本は性質上、手作りアクセサリーや民芸品、料理とは違い、オリジナルの一点物を用意することができない。日本全国どこでも買える本を、御船書房のサイトでこそ買いたいと思わせるにはどうするか……それが最大の課題だ。
「俺達のオススメとか、話題の本とかを並べても、わざわざここで買わないですよね。」
「私達が芸能人とか、強力なインフルエンサーとかじゃなければ、ムリですね。もしそうなら、本を売るより、もっと効率よくお金を稼ぐ方法はあるでしょうし。」
「そうですよねぇ……」
難しいとは思っていたが、やはり売上につなげるのは、ハードルが高そうだ。
その上、かかる経費のことを考えると、通販部門で黒字を出すのは、なかなか至難の業だ。
その後しばらく、二人で話し合ったのだが、結局、サイトの方向性や作成方法は決まったものの、肝心要の本のラインナップは、まったく決まらなかった。
そして、そんな時に限って、厄介な問題が起こるものなのである。




