Side:人9
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
それから、半研修状態で二日間勤務が続いた。
初めての職種なので、作業部分ではわからないことやミスが連続したが、その都度、結花が優しくフォローしてくれた。
一方で、前職が営業だったおかげで、接客部分は問題なくこなすことができ、思ったよりはスムーズに店に馴染むことができた。常連客からの評判も良く、その点に関しては、結花も大喜びだった。
目下の問題は、日頃の運動不足からくる筋肉痛で、痛みが治まる前に、次の勤務でまた筋肉痛になる、というのを繰り返している。
涼しい顔で力仕事をこなす結花には、恐れ入った。
「腕とか足は大丈夫ですか?」
結花が尋ねてきたのは、金曜日の夕方、修一が帰る直前だった。
「全然ダメです。」
修一は正直に答えた。
「それも慣れれば、大丈夫になってきますけど、今はつらいですよね。」
「御船さんも、始めは筋肉痛になりました?」
「そうですね。私も特に運動とかしてなかったので。父がいなくなった中で、慣れない仕事をやって、筋肉痛に苛まれていたので、泣きそうでしたね。」
確かにそれは、きつかっただろう。
「俺は御船さんがフォローしてくれるし、帰ればクロがいるので、だいぶ恵まれてますね。」
「でも、それはそれとして、筋肉痛は?」
「痛いです。」
痛いものは痛いのだ。
「でしたら、今晩閉店後にお伺いしてもいいですか?筋肉痛に関しては、先輩ですので、軽減する方法をお教えしますよ。」
久々に結花がそう言ってきた。
「えっ?筋肉痛って、緩和できるもんなんですか?」
「ええ。あくまで緩和ですけどね。クロちゃんにも会いたいですし。」
結花はにっこりと微笑んだ。
修一の上がりが十八時で、閉店まで二時間あったので、その間に結花から買い物を頼まれた。内容は、肉や野菜などの、いわゆる夕食の材料だった。
帰りしなにスーパーに立ち寄り、お遣いを済ませて家に帰ると、お出迎えしてくれたクロが、怪訝そうな顔をした。
スーパーのレジ袋を二つも持って帰ってきたのは、初めてだからだろう。
「にぃや~?」
「まぁ、そう変な顔をするなよ。」
時計を見ると、まだ結花が来るまで時間があるので、食材は冷蔵庫に入れておく。
「にぃや~?」
これまた、クロは怪訝そうな顔で見てくる。
空っぽだった冷蔵庫が結構埋まった。
「未だかつてないくらい、冷蔵庫が埋まったなぁ……」
「にぃや?」
クロはわざわざ、冷蔵庫の前まで寄ってきて、首を傾げている。
どうも、猫は飼い主がいつもと違う動きをすると、様子を見に来るものらしい。
しばらくすると、結花がやってきた。
「みぃ……」
例によって、クロが眉間にシワを寄せる。
「おまえ、いい加減に慣れろよな。」
修一が窘めると、クロはスススと、膝の上に乗ってきた。
「なんか、私には心開いてくれませんねぇ。一緒にお風呂入った仲じゃない。」
結花がちゃらけ気味に言うと、クロはジトっとした視線を返した。
だが、結花はなぜか愉快そうだった。
「そういえば、お願いしたものは買えました?」
「はい、あのお釣りは……」
「別にいいですよ。クロちゃんの餌代にでもしてあげて下さい。じゃあ、キッチンお借りしますね。」
結花はさらっとそう言うと、仕事の時と同じく、テキパキと動き始めた。
この部屋のキッチンが、過去一使いこなされること約三十分。
「お待たせしましたー」
これまた、この部屋では見たことがないような料理が並んだ。
玄米ご飯、キノコ汁、豚肉の生姜焼きとサラダ、冷ややっこ……おやつにバナナもついている。
「すごっ!」
「にゃ!」
修一が料理に驚いて叫び、その声に驚いてクロが叫んだ。
「大したものではありませんが、筋肉痛には効果があるものにしてみました。」
「そうなんですか?」
「筋肉痛には、まずはタンパク質です。それから、ビタミンB群とビタミンCですね。それらを多く含むものをチョイスしました。」
ふと、修一は自分が買ったものを思い出す。
「でも、マグロとか卵とかも買いましたけど、それは?」
「それらも、同じです。後で料理して、タッパーで置いておきますので、明日と明後日のお休み中に召しあがって下さい。」
「マジですか!?」
母親以外の人がここまで料理を作ってくれたのは、生まれて初めてだ。
「さぁ、冷める前に頂きましょうか。」
結花の号令で二人の晩餐が始まった。
楽しく談笑しながら食べる結花と修一だったが、クロはその間、修一の膝の上でずっと料理を睨んでいた。
夕食後、結花は予告通り食事を用意し、風呂に入る際は、湯船に浸かるよう指示して帰って行った。




