Side:猫13
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
翌朝、リーンとビアが慌ただしく朝飯を食べ終え、一階で開店の準備を始めた。
バタバタしていたせいか、リビングのドアを閉め忘れている。
お誂え向きだぜ。
あたしはリビングを抜け出すと、そのまま階段を下りて行った。この前、連れていかれた時に一階の作りは把握している。
階段を下りると、ビアとリーンに気付かれないように入口近くの機械が置いてある台へ向かう。確か、レジとかいう場所だ。
丁度、リーンが客の相手をしている。
「お待たせ致しました。お預かりします。」
「来たぞー」
リーンの足元で鳴いてやる。
「クロ!?何でここに!?」
驚くリーンを他所に、あたしは台の上に飛び乗った。
「こんちは。」
「あら、かわいい黒猫ね。ここのウチの子?」
客と思われるばあさんが、リーンに尋ねる。
「は、はい。二階で飼ってるんですけど、勝手に出てきたみたいで……」
「あらそうなのー。いい子ねー」
客のばあさんは、そう言って撫でてきた。
愛想よく、愛想よく。
「あれ?クロちゃん、もう連れてきたんですか?」
そこへビアがやってきた。
「いや、勝手に抜け出してきたみたいです。気が付いたら、レジの中にいました。」
リーンは困惑しているが、あたしは構わず、客のばあさんに愛想を振り撒き続けた。
その日一日、あたしは客に愛嬌を振り撒き続けた。
昨日のように、客が殺到することはなかったが、ちょこちょこあたしを見つけては、人が入ってくるので、殆ど一日中、誰かに触られている状態だった。
別に嫌じゃないが、こんなに人に触れられたのは初めてなので、どうにもこそばゆかった。色んな意味で。
そうして、あっという間に日暮れ近くの時間になった。
「そろそろ、退勤しますけど……」
「じゃあ、クロちゃんも一緒に二階にお願いします。朝からずっと、お客様に撫でられっ放しですから。」
リーンはビアに指示に従い、あたしを二階へ連れて行った。
うん、大分慣れてきたから、今日はぶっ倒れずに済みそうだ。
「おまえ、大人気だなぁ。昨日の会議の内容、もしかして理解してたのか?」
水を飲んだりしていたら、リーンが尋ねてきた。
「当たり前だろ!」
伝わらないだろうけど、あたしは元気よく言ってやった。
その日以降、あたしはリーンやビアと一緒に「出勤」するのが定番となった。
入口の位置に近いことや、買い物をする客は確実に来ることなどから、レジの傍らがあたしの定位置になった。
そこで、リーンが箱型のソファーを用意して、定位置に置いてくれた。おかげで、かなり過ごしやすくなり、寛ぎながら、客の相手をできるようになった。
仕事中はリーンもビアも忙しいので、トイレや水や餌は自分で二階に戻って済ませ、またレジに戻ることにした。これは、二人とも非常に助かったらしい。
その甲斐もあり、夏が終わった頃には、あたしは店の中を自由に動き回れるようになった。
「おまえは本当に賢い猫だなぁ……」
危ない場所を避けて動いたりしていたら、リーンがある時にそう言ってきた。
「舐めんな!」
あたしは誇らしげに言い返してやった。
「第二回、御船書房経営対策会議ぃー。」
ビアが開会宣言をしたのは、秋が深まってきたある日の晩飯時だった。
「今回は売上の報告をします。まず、月の後半からクロちゃんが店に出始めた9月は、昨年対比約120パーセント、ほぼフルで店にいてくれた10月は、昨年対比150パーセントとなりました!いぇーい!」
「い、いえい……」
珍しくテンションが高いビアに、リーンが若干ついていけていない。
「御船さん、それは、結構凄いことなんですか?」
「そうですね、凄く凄いことです。どれくらい凄いかと言うと、今年の月別昨年対比は、1月が82パーセント、2月が79パーセント、3月が86パーセント、4月が91パーセント、5月が89パーセント、6月が77パーセント、7月が82パーセント、8月が72パーセントでした。それからすると、飛躍的な売上です!」
「月別昨年対比って、去年の同じ月と比べてってこと?」
「そうです。つまり今年の1月は、昨年一月の売上の82パーセントの売上しかなかったということです。ちなみに、私が経営を引き継いでから、月別昨年対比で100パーセントを超えたのは、先月9月が初めてです。」
小難しいことはわからんが、相当商売はきつい状態だったらしい。
「それは、クロ様様ですね。正直、クロを見たいが為に、こんなに人が来るとは思いませんでした。」
あたしの猫の手を舐めるなってんだ。
「今のところ、クロちゃんがストレスを感じている雰囲気もありませんし、危険なことに遭うこともなさそうなので、このままクロちゃんの自由にさせておこうかなと思います。」
「確かに、疲れたら自分で二階に退避してるみたいですしね。」
まぁ、人が混んだりして、やばそうだったら、自分で二階に逃げてるからな。
そんなところで、手をかけさせはせんよ。
「そういえば、通販サイトのほうはどうですか?」
ビアが話題を変えてきた。
「11月中には、稼働させられます。目下の問題は、俺の写真技術と画像加工技術の未熟さです。」
「どういうことですか?」
「実は、クロが御船書房の顔みたいになったので、先立って作っていたSNSアカウントに店の外観と共にクロの写真を載っけています。ただ、俺が写真を撮ったことが殆どなかったので、うまく撮れなくて、現状微妙な写真しか載っていません。サイトの方にも、クロの画像を使おうと思ってるんですけど、なかなかうまくいっていません。」
せっかくのあたしの可愛らしい姿が、微妙な感じになっているのは知っている。
「スマホのカメラとか、使わないんですか?」
「まったく。」
「そうなんですか……クロちゃんの写真ねぇ……」
ビアはおもむろにスマホとかいう板を取り出すと、あたしをリーンの膝から降ろし、適当にカーペットの上に座らせ、スマホを構えると、5秒ほどでパシャリと撮った。
「こんな感じですね。」
「えっ!?うまっ!」
覗き見ると、リーンとは違い、可愛らしく撮れている。
「何でそんなにうまく撮れるんですか!?」
「ん~、慣れ?河瀬さんがいない時は、何度かクロちゃんを撮ってますし、自分の家なので、照明の角度とか、明るさとかは熟知しているので。」
「これはもう、撮り慣れてるかどうかだなぁ、単純に。」
「あと、加工すれば、こんな感じに……」
これまた、一分足らずスマホを弄り、再び見せてきた。あたしの姿が、可愛らしく変わっている。
「御船さん、写真の担当をお願いします!」
リーンは一瞬で降伏した。
その後、二人は「通販」とやらの小難しい話を始めた。
内容はよくわからないが、こちらはあまり芳しい雰囲気ではないらしい。
あまりに長いこと、二人で話しているので、退屈になってきた。
「おーい、まだかー」
あたしが鳴くと、自然と二人の視線が、こっちに向いた。
「あっ」
不意にビアが声をあげた。
「どうかしました?」
リーンが尋ねると、ビアはぐっと身を乗り出してきた。
「猫関係の本で固定フェアをサイト上で組むのはどうでしょうか?」
「どういうことですか?」
「通販サイトも、クロちゃんの写真を載せるつもりじゃないですか?でしたら、しっかりと猫書店として売り出して、常に猫関係の本を強化して売るんですよ。猫関係の本はメディアミックス作品と違って、発注すればいつでも希望の数が、数日以内に入ってきます。どこまで売れるかは、クロちゃんの売り方次第ですが、その為にSNSでクロちゃんの写真とか、動画とかをあげて、たくさんの人に知ってもらえるように仕掛けていけば、もしかしたらいけるかもしれません。」
「なるほど……つまり、クロをネット上でアイドル猫にして、それに肖って猫本を売ると、そういうことですか。」
「もちろん、先程のメディアミックスも並行してやっていって、狭いけど売れる通販サイトにしていってはどうでしょうか。」
「そっかー……思いつきもしなかったです。」
なんかよくわからんが、あたしが鳴いたら、話の流れが変わったらしい。
「じゃあ、通販サイトはその筋で進めていきましょう。」
「わかりました。」
なんか、話は纏まったらしい。
その後、リーンはあたしに話しかけてきた。
「クロ、おまえアイドルとかできるか?」
「楽勝。」
あたしは元気に返してやった。




