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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:猫

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104/142

Side:猫13

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 翌朝、リーンとビアが慌ただしく朝飯を食べ終え、一階で開店の準備を始めた。

 バタバタしていたせいか、リビングのドアを閉め忘れている。

 お誂え向きだぜ。

 あたしはリビングを抜け出すと、そのまま階段を下りて行った。この前、連れていかれた時に一階の作りは把握している。

 階段を下りると、ビアとリーンに気付かれないように入口近くの機械が置いてある台へ向かう。確か、レジとかいう場所だ。

 丁度、リーンが客の相手をしている。

「お待たせ致しました。お預かりします。」

「来たぞー」

 リーンの足元で鳴いてやる。

「クロ!?何でここに!?」

 驚くリーンを他所に、あたしは台の上に飛び乗った。

「こんちは。」

「あら、かわいい黒猫ね。ここのウチの子?」

 客と思われるばあさんが、リーンに尋ねる。

「は、はい。二階で飼ってるんですけど、勝手に出てきたみたいで……」

「あらそうなのー。いい子ねー」

 客のばあさんは、そう言って撫でてきた。

 愛想よく、愛想よく。

「あれ?クロちゃん、もう連れてきたんですか?」

 そこへビアがやってきた。

「いや、勝手に抜け出してきたみたいです。気が付いたら、レジの中にいました。」

 リーンは困惑しているが、あたしは構わず、客のばあさんに愛想を振り撒き続けた。


 その日一日、あたしは客に愛嬌を振り撒き続けた。

 昨日のように、客が殺到することはなかったが、ちょこちょこあたしを見つけては、人が入ってくるので、殆ど一日中、誰かに触られている状態だった。

 別に嫌じゃないが、こんなに人に触れられたのは初めてなので、どうにもこそばゆかった。色んな意味で。

 そうして、あっという間に日暮れ近くの時間になった。

「そろそろ、退勤しますけど……」

「じゃあ、クロちゃんも一緒に二階にお願いします。朝からずっと、お客様に撫でられっ放しですから。」

 リーンはビアに指示に従い、あたしを二階へ連れて行った。

 うん、大分慣れてきたから、今日はぶっ倒れずに済みそうだ。

「おまえ、大人気だなぁ。昨日の会議の内容、もしかして理解してたのか?」

 水を飲んだりしていたら、リーンが尋ねてきた。

「当たり前だろ!」

 伝わらないだろうけど、あたしは元気よく言ってやった。


 その日以降、あたしはリーンやビアと一緒に「出勤」するのが定番となった。

 入口の位置に近いことや、買い物をする客は確実に来ることなどから、レジの傍らがあたしの定位置になった。

 そこで、リーンが箱型のソファーを用意して、定位置に置いてくれた。おかげで、かなり過ごしやすくなり、寛ぎながら、客の相手をできるようになった。

 仕事中はリーンもビアも忙しいので、トイレや水や餌は自分で二階に戻って済ませ、またレジに戻ることにした。これは、二人とも非常に助かったらしい。

 その甲斐もあり、夏が終わった頃には、あたしは店の中を自由に動き回れるようになった。

「おまえは本当に賢い猫だなぁ……」

 危ない場所を避けて動いたりしていたら、リーンがある時にそう言ってきた。

「舐めんな!」

 あたしは誇らしげに言い返してやった。


「第二回、御船書房経営対策会議ぃー。」

 ビアが開会宣言をしたのは、秋が深まってきたある日の晩飯時だった。

「今回は売上の報告をします。まず、月の後半からクロちゃんが店に出始めた9月は、昨年対比約120パーセント、ほぼフルで店にいてくれた10月は、昨年対比150パーセントとなりました!いぇーい!」

「い、いえい……」

 珍しくテンションが高いビアに、リーンが若干ついていけていない。

「御船さん、それは、結構凄いことなんですか?」

「そうですね、凄く凄いことです。どれくらい凄いかと言うと、今年の月別昨年対比は、1月が82パーセント、2月が79パーセント、3月が86パーセント、4月が91パーセント、5月が89パーセント、6月が77パーセント、7月が82パーセント、8月が72パーセントでした。それからすると、飛躍的な売上です!」

「月別昨年対比って、去年の同じ月と比べてってこと?」

「そうです。つまり今年の1月は、昨年一月の売上の82パーセントの売上しかなかったということです。ちなみに、私が経営を引き継いでから、月別昨年対比で100パーセントを超えたのは、先月9月が初めてです。」

 小難しいことはわからんが、相当商売はきつい状態だったらしい。

「それは、クロ様様ですね。正直、クロを見たいが為に、こんなに人が来るとは思いませんでした。」

 あたしの猫の手を舐めるなってんだ。

「今のところ、クロちゃんがストレスを感じている雰囲気もありませんし、危険なことに遭うこともなさそうなので、このままクロちゃんの自由にさせておこうかなと思います。」

「確かに、疲れたら自分で二階に退避してるみたいですしね。」

 まぁ、人が混んだりして、やばそうだったら、自分で二階に逃げてるからな。

 そんなところで、手をかけさせはせんよ。

「そういえば、通販サイトのほうはどうですか?」

 ビアが話題を変えてきた。

「11月中には、稼働させられます。目下の問題は、俺の写真技術と画像加工技術の未熟さです。」

「どういうことですか?」

「実は、クロが御船書房の顔みたいになったので、先立って作っていたSNSアカウントに店の外観と共にクロの写真を載っけています。ただ、俺が写真を撮ったことが殆どなかったので、うまく撮れなくて、現状微妙な写真しか載っていません。サイトの方にも、クロの画像を使おうと思ってるんですけど、なかなかうまくいっていません。」

 せっかくのあたしの可愛らしい姿が、微妙な感じになっているのは知っている。

「スマホのカメラとか、使わないんですか?」

「まったく。」

「そうなんですか……クロちゃんの写真ねぇ……」

 ビアはおもむろにスマホとかいう板を取り出すと、あたしをリーンの膝から降ろし、適当にカーペットの上に座らせ、スマホを構えると、5秒ほどでパシャリと撮った。

「こんな感じですね。」

「えっ!?うまっ!」

 覗き見ると、リーンとは違い、可愛らしく撮れている。

「何でそんなにうまく撮れるんですか!?」

「ん~、慣れ?河瀬さんがいない時は、何度かクロちゃんを撮ってますし、自分の家なので、照明の角度とか、明るさとかは熟知しているので。」

「これはもう、撮り慣れてるかどうかだなぁ、単純に。」

「あと、加工すれば、こんな感じに……」

 これまた、一分足らずスマホを弄り、再び見せてきた。あたしの姿が、可愛らしく変わっている。

「御船さん、写真の担当をお願いします!」

 リーンは一瞬で降伏した。


 その後、二人は「通販」とやらの小難しい話を始めた。

 内容はよくわからないが、こちらはあまり芳しい雰囲気ではないらしい。

 あまりに長いこと、二人で話しているので、退屈になってきた。

「おーい、まだかー」

 あたしが鳴くと、自然と二人の視線が、こっちに向いた。

「あっ」

 不意にビアが声をあげた。

「どうかしました?」

 リーンが尋ねると、ビアはぐっと身を乗り出してきた。

「猫関係の本で固定フェアをサイト上で組むのはどうでしょうか?」

「どういうことですか?」

「通販サイトも、クロちゃんの写真を載せるつもりじゃないですか?でしたら、しっかりと猫書店として売り出して、常に猫関係の本を強化して売るんですよ。猫関係の本はメディアミックス作品と違って、発注すればいつでも希望の数が、数日以内に入ってきます。どこまで売れるかは、クロちゃんの売り方次第ですが、その為にSNSでクロちゃんの写真とか、動画とかをあげて、たくさんの人に知ってもらえるように仕掛けていけば、もしかしたらいけるかもしれません。」

「なるほど……つまり、クロをネット上でアイドル猫にして、それに肖って猫本を売ると、そういうことですか。」

「もちろん、先程のメディアミックスも並行してやっていって、狭いけど売れる通販サイトにしていってはどうでしょうか。」

「そっかー……思いつきもしなかったです。」

 なんかよくわからんが、あたしが鳴いたら、話の流れが変わったらしい。

「じゃあ、通販サイトはその筋で進めていきましょう。」

「わかりました。」

 なんか、話は纏まったらしい。

 その後、リーンはあたしに話しかけてきた。

「クロ、おまえアイドルとかできるか?」

「楽勝。」

 あたしは元気に返してやった。

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