表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:猫

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/142

Side:猫12

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 それから、ビアの家の二階があたしの住処となった。

 リーンの家にいた頃は、日中ずっと独りぼっちだったが、ここで過ごすようになってからは、仕事中でもリーンやビアが時々様子を見に来るので、退屈ではなくなった。

 だが同時に、毎日ではないが、リーンがここに泊まるようになってしまった。

あたしとしては、リーンと一緒に寝たいから、いてもらいたいが、それはビアとリーンの同居も意味している。

 非常に複雑な気分だ。

 そして、半同居が始まると、リーンとビアの間に微妙な変化も出てきた。

「クロちゃんの餌って、まだ予備あるかな?」

「あっ、これでラスト。後で俺が買ってくるよ。」

 会話から敬語が抜けた。

 別に何か話し合っている風はなかったが、自然とそうなっていった。というか、あたしの世話がそれを促した感はある。

 なんか、あたしの行動全てが、二人のお膳立てをしている気がするんだけど……


 そんなある日だった。

 いつも通り、日中に二階で寛いでいると、リーンが部屋に来て急にあたしを持ち上げた。

「クロ、お客さんがお呼びだよ。」

「は?あたし?」

 そのまま、一階の商売をしているところへ連れてこられた。

 ここに来る時に檻に入れられた状態で通ったが、まともに来たのは初めてだ。

 なんかよくわからないうちに、入口付近の機械が置かれた台の上に座らされた。

 そこにいたのは、キノばあさんだった。

 元気そうだな。

「あらー、ちょっと見ない間に、大きくなったわねぇ。」

 キノばあさんはそう言って、あたしを撫で回す。

 この手の感じは、オブスタクルにいた頃と変わらないなぁ。

「この時期の子猫は成長が早いですね。俺は猫を飼うのは初めてなので、ちょっとびっくりしてます。」

「そうね、あっという間に大人になっちゃうわよ。」

 リーンとキノばあさんがそんな他愛のない会話をしている。

 あたしからすると、この二人がこうやって世間話をしているのは、凄い違和感があるんだけど。

 なんて思ってた、その時だった。

「あー!猫ちゃん!!」

 急に入口から子供の叫び声が聞こえてきた。

「ほんとだ、猫ちゃん!」

「かわいー!」

 10人ほど子供達が店内に入ってきて、あたしをガン見してくる。

 ちょっと嫌な予感がするんだけど。

「あのぉ、撫でても大丈夫でしょうか?」

 引率と思われる大人が、リーンに尋ねている。

 やっぱ、そうなるのか。

「頭とか、背中とかを優しく撫でてあげれば、大丈夫です。基本的に人懐っこい性格なので。」

 リーンがそう説明すると、子供達はちゃんと言いつけを守って、あたしを撫で始めた。

 まぁ、商売は客が命だから、このくらいは我慢してやろう。

 と、思っていたら、キノばあさんと子供達が帰った後、入れ替わり立ち代わり人が入ってきて、あたしを撫で始めた。

 しかも、次々人が来て、途切れない。

 しまった、これは大変なことになったぞ。


「クロ、大丈夫かー?」

「疲れたー……」

 昼頃になって、あたしの疲労を察したリーンが、二階へ戻してくれた。

 こんなにたくさんの人間に構われたことがなかったので、流石に疲れた。

 そのまま、水と餌だけ摂取して、お気に入りのクッションへ行くと、横になった。

 瞬間、意識が飛んだ。

 次に目が覚めた時には、もう外が暗くなっていた。

 リーンが仕事を終えて、いつの間にか二階へ来ていたようで、ちょうどビアも上がってきたところだった。リーンはあたしの今日の頑張りを労わって、膝の上に乗っけてくれた。

「今日の売上、いつもの二倍近くもあったよ。」

 部屋に来るなり、ビアが珍しく興奮気味にそう言った。

「えっ?今日、なんか売れ筋の新刊とかあった?」

「ううん。でも、午前中の売上が凄まじくよかったよ。」

「あー、そういえば、クロがレジにいた間、いつもは前を素通りするような人達が、やたらとクロを見つけて入ってきてたな。なんか、雑誌とか漫画とかをついで買いしてたかも。」

 どうやら、あたしがいたことで、いつもより多くの客が来て、たくさん買い物をしていってくれたらしい。

「流石はクロちゃん。凄い集客力だね。」

 当たり前だろう。

 あたしの猫の手を舐めるな。


 翌日、同じく二階で寛いでいると、またリーンに抱えられて、一階へ連れていかれた。

 来ていたのは、昨日の子供の一人だ。

「かわいー!」

 今日もこれかよ。

「申し訳ありません、この子がどうしてもって聞かなかったので。わざわざ連れてきて頂いてしまって。」

 子供の母親らしき人が、リーンにペコペコしている。

「別に大丈夫ですよ。この子も、基本的には人間が好きな性格なので。」

 リーンがそんなことを言っている。

 すると、また昨日に続き、人が次々と入ってきた。

 自分自身でも気味悪くなるくらい、人があたしの姿に吸い寄せられてくる。

 そのまま、昨日より長い時間粘り、閉店時間近くまで客に愛想を振り撒き続けていた。

 軽く死ぬかと思った。

 夜になり、あたしは先に二階に戻されたが、リーンとビアはしばらく下で話し合いをしていた。多分、売上がよかったんだろうな。

 なんかよくわからんが、どうやらあたしの役目はこれらしい……

 で、また、リーンとビアの関係性をお膳立てすることになるらしい。

 何だよ、これ。


「第一回、御船書房経営対策会議ぃー。」

 ようやく二階へ上がってきて、晩飯を食べ始めたかと思ったら、ビアが急に何かの開会宣言を始めた。

「……会議って、食事しながらするもんなの?」

 あたしを膝に乗せているリーンが尋ねた。

「食事しながらはいけないという法律はありません!御船書房、28年目にして、初の経営会議を、今から始めます。」

「わかりました。」

 リーンが一瞬で折れた。

「まぁ、冗談は置いておいて……昨日今日の売上を見た結果、クロちゃんの集客力がシャレにならないことが判明しました。」

「そうですね。それで、クロを常に一階に常駐させて、看板猫にするということですか?」

「う~ん、それなんですけどねぇ……」

 ん?そういう話じゃねぇの?

「クロちゃんのストレスになることは、したくないんですよねぇ……」

「ああ、それはそうですね。」

 あ~……一応、あたしのことを心配してくれてるのか。

「クロちゃんは、びっくりするくらい手がかからない子ですし、凄く人懐っこいですけど、不特定多数の人間に接し続けるのは、流石につらいかもしれません。クロちゃんの健康を害してまで、売上を得たいとは思いません。」

 相変わらず、ビアは男前だなぁ。

「クロはどうだ?」

 リーンが訊いてきた。

「別にあたしは大丈夫だけど。」

 と言っても伝わらないので、頭をスリスリしてみる。

「とりあえず、昨日今日でクロちゃんのファンが、それなりにできたのは事実だから、呼ばれたら連れてくる、という感じでしばらくは運用しましょうか。あと、必ずどちらかが、クロちゃんの動向を見張ること。心無い人がクロちゃんに乱暴したり、なんてことも考えられますし、この前みたいに脱走したら、危ない目に遭うかもしれませんから。」

「入口はどうします?脱走防止の為に閉めます?」

 ビアはう~んと、唸りだす。

「店外の絵本塔のこととか考えると、閉められないんですよね。お客様が入りにくくなるというのもありますし……ただ、前の通りは車が少ないとは言え、人通りや自転車が多いですし、すぐ近くには踏切もありますし、どうしましょうか。」

 ビアは唸りながら考え続けている。

「昔はあの踏切には警手さんがいたらしいですけど、今はいませんしね。」

「けいしゅさん、って何ですか?」

 あたしも知らん。

「昔の踏切って、遮断機が手動だったんですよ。なので、電車が来るたびに、遮断機を上げ下げする係の人がいて、それを警手っていうそうです。そこの踏切も、昔は遮断機が手動だったそうで、警手さんがいたらしいのですが、私が生まれた頃には、既に今の自動遮断機になってたみたいです。多分、父が子供の頃の話だと思います。」

「確かに、常に踏切を見張ってくれてる人がいれば、多少クロが出歩いても、見張っててくれそうですよね。残念です。」

 リーンは溜息をついた。

 何でも自動で動くというのは、便利なようで不便らしい。

「とりあえず、入口は開けたまま、クロちゃんはどちらかが常に見張る、あと、お客様から要望があれば、二階から連れてくる、という形で運用してみましょうか。状況をみて、臨機応変に運用を変えていきましょう。」

「わかりました。クロ、よろしくな。」

 任せとけ!

「じゃあ、そういうことで。今日は泊まる?」

「うん、ちょっとクロを労わってあげるよ。」

 あっ、仕事モードが終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ