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冬の童話2025参加作品

義姉とガラスの靴

作者: 地野千塩

 信じて欲しい。


 私は確かにシンデレラを母と一緒にいじめていた義姉だけど、決してガラスの靴なんて盗んでいない。


 私、シャーロットは確かにシンデレラが憎かった。嫌いだった。でも、王子様と出会い、幸せになったシンデレラを見ていたら、負けを認めるしかないじゃない。


 結果、私は長い髪を切り落とし、監視付き生活という罰を受ける事になった。シンデレラの温情で、処刑は免れ、いじめていた過去を反省する日々。母は全く反省せず、まだ私に婚活に行け、隣国の王子様をたぶらかして来いなどと言っているけど……。


 そんなある日。王宮で保管されていたガラスの靴が盗まれたという。


「あなたが盗んだんでしょう?」


 普段、私の監視をしている聖騎士団の男・ノアは疑ってきた。金髪碧眼で外見の良い男だが、目はハサミのように鋭く、私をきつく睨む。


「違いますよ。私は優秀なノア様の監視つきですよ。いつそんな時間が?」

「それもそうだな……。そういえば、隣の春の国にガラスの靴を見たという噂を聞いた。シャーロット、お前何か知っているか?」

「そんな事、知りませんよ。でも、一度春の国へ調査したら?」

「なるほど」


 ノアと一緒に春の国へ向かうことに。


 春の国は、私たちが住む星と魔術の国と違い、魔法は全く根付いていない。その代わり、職人の国でもあり、建築などの技術もとても高かった。庶民層もあつく、貴族が偉そうにしていない事も特徴的だ。


 春の国の中心部は職人たちの工房や店も多く、女もよく働いている。


「この国の女は、男に幸せにして貰おうとしていないのは良いよな」


 ノアは春の国の女たちを見ながら呟く。確かにその通りかも。


 私自身もそう思っていたから。女の権利が低い国の私は、結婚以外に幸せになれる道がないと思い込んでいた。それは単なる思い込みというか、視野が狭かっただけかもしれない。春の国に来て気づいてしまった。シンデレラをいじめていたのも、そんな自分を嫌い、憤り、八つ当たりしていたからかかも……。


「ノア、あの靴屋に行きましょう。ガラスの靴の事も知っているかも」

「そうだな」


 とりあえず靴屋へ。


 職人は若い女性だった。アリスという。見た目は可愛らしい女性だったが、店にある革靴、ブーツ、ハイヒール、サンダルに至るまで全て質が良く、キラキラとして見えた。私は思わず見入ってしまう。


「あら、お二人ともガラスの靴を探しているの?」


 アリスは何か心当たりがあるようだ。


「靴職人たちの噂よ。確証はないけど、花と詩の国の魔女が盗んだという噂」

「本当!?」


 私だけでなく、ノアも身を乗り出し、アリスから詳しい話を聞いた。


「頑張ってガラスの靴を探してね。でも、それだけが幸せでもないから。もし見つからなかったら、私がシャーロットの為に素敵な靴を作ってあげるわ」


 そんな言葉と共に、アリスから送り出され、花と詩の国へ。


 悪い魔女が住むという森へノアと共に乗り込む。森は薄暗く、鳥たちの声も不気味。それでも怖がってしまうのは恥だ。ノアの前でも、私は背筋を伸ばしていた。


「シャーロット、怖くないんか?」

「ないわ、大丈夫よ」

「お前、しっかりしすぎじゃね?」


 なぜかノアは不満そうだったが、あっという間に魔女の家の前につく。崩れかけているようなボロ屋だったが。


「見て、ノア! 家の前にガラスの靴が」

「本当か?」


 ようやく見つけたと気が抜けたのも一瞬。ノアと共に落とし穴にハマり、あっという間に魔女に捕まってしまう。薬草を飲まされ、縄で縛らられ、身動きが取れない。


「あんた、なんでそんな事を?」


 ノアはそれでも挑発的だった。黒づくめの魔女を睨みつけていた。


「シンデレラを呪う為さ。対象者が一番大切ににしているものを盗み、儀式をすると呪いをかけられるのさ」


 魔女はニヤニヤ笑っていた。


「これもシャーロットの母君の依頼なのさ。シンデレラをどうしても不幸にしたいと」

「そんな……」


 まさかこの後に及んで母が!?


 私は驚きを通り越し、呆れてくるが、あの母ならやりかねない。深く頷いてしまう。


「母君はどうしてもシンデレラを不幸にしたいらしい。シンデレラがいくら不幸になっても、お前さん自体は幸福にはなれんよと何度も忠告したんだがね?」


 魔女も母には呆れているらしい。その通りだ。


 そう、誰かが不幸になっても自分が幸せになれるわけじゃない。幸せは他人に委ねず、自分で探すしかないんだ。


「ねえ、魔女。私たちと取り引きしない? 母の居場所や取り引き内容を全部吐いて、ガラスのき靴を返してくれたら、この罪は不問よ」

「そうだ。取り引きしないか?」


 ノアも私の言わんとする事を汲んでくれた。魔女も母からの依頼に内心ウンザリしていたらしく、取り引きが成立した。ガラスの靴は王宮に戻り、母は捕まり、処刑される事になった。


 再び罪を犯した母には、もう何の情もない。


 一方、私は春の国に通うようになった。アリスが作っている靴に興味を持ってしまい、作り方を一から教わっていた。


 いつか自分の脚にピッタリな靴を履きたいと思う。シンデレラのガラスの靴ではなく、自分の手で作った最高の靴を。


「シャーロット、今のお前は輝いているよ」

「は?」


 相変わらず監視役についていたノアだが変な事を言ってきた。顔を赤くし、いつもと違う表情で。


 どういう事だろう?


「自分の幸せを見つけようとするシャーロットは、素敵って意味だよ」


 アリスはなぜか大笑いしながら教えてくれたが、いまいちピンとこない。


 もっとも私の頭は靴作りでいっぱいだ。


 いつか最高の靴を作れるよう。その探究はまだまだ終わりそうになく、楽しくて仕方がなかった。

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― 新着の感想 ―
一つしかないと思っていた道が、実はいろいろと選択肢があるんだと気付かされた時。 目から鱗が落ちたような気分になるのでしょうね(*´꒳`*)
2025/01/19 20:18 退会済み
管理
面白かったです。 シャーロットはノアと結婚してほしかったですがきっと靴職人になるんだなと想像してしまいました。 そんなハッピーエンドも悪くないと思います
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