義姉とガラスの靴
信じて欲しい。
私は確かにシンデレラを母と一緒にいじめていた義姉だけど、決してガラスの靴なんて盗んでいない。
私、シャーロットは確かにシンデレラが憎かった。嫌いだった。でも、王子様と出会い、幸せになったシンデレラを見ていたら、負けを認めるしかないじゃない。
結果、私は長い髪を切り落とし、監視付き生活という罰を受ける事になった。シンデレラの温情で、処刑は免れ、いじめていた過去を反省する日々。母は全く反省せず、まだ私に婚活に行け、隣国の王子様をたぶらかして来いなどと言っているけど……。
そんなある日。王宮で保管されていたガラスの靴が盗まれたという。
「あなたが盗んだんでしょう?」
普段、私の監視をしている聖騎士団の男・ノアは疑ってきた。金髪碧眼で外見の良い男だが、目はハサミのように鋭く、私をきつく睨む。
「違いますよ。私は優秀なノア様の監視つきですよ。いつそんな時間が?」
「それもそうだな……。そういえば、隣の春の国にガラスの靴を見たという噂を聞いた。シャーロット、お前何か知っているか?」
「そんな事、知りませんよ。でも、一度春の国へ調査したら?」
「なるほど」
ノアと一緒に春の国へ向かうことに。
春の国は、私たちが住む星と魔術の国と違い、魔法は全く根付いていない。その代わり、職人の国でもあり、建築などの技術もとても高かった。庶民層もあつく、貴族が偉そうにしていない事も特徴的だ。
春の国の中心部は職人たちの工房や店も多く、女もよく働いている。
「この国の女は、男に幸せにして貰おうとしていないのは良いよな」
ノアは春の国の女たちを見ながら呟く。確かにその通りかも。
私自身もそう思っていたから。女の権利が低い国の私は、結婚以外に幸せになれる道がないと思い込んでいた。それは単なる思い込みというか、視野が狭かっただけかもしれない。春の国に来て気づいてしまった。シンデレラをいじめていたのも、そんな自分を嫌い、憤り、八つ当たりしていたからかかも……。
「ノア、あの靴屋に行きましょう。ガラスの靴の事も知っているかも」
「そうだな」
とりあえず靴屋へ。
職人は若い女性だった。アリスという。見た目は可愛らしい女性だったが、店にある革靴、ブーツ、ハイヒール、サンダルに至るまで全て質が良く、キラキラとして見えた。私は思わず見入ってしまう。
「あら、お二人ともガラスの靴を探しているの?」
アリスは何か心当たりがあるようだ。
「靴職人たちの噂よ。確証はないけど、花と詩の国の魔女が盗んだという噂」
「本当!?」
私だけでなく、ノアも身を乗り出し、アリスから詳しい話を聞いた。
「頑張ってガラスの靴を探してね。でも、それだけが幸せでもないから。もし見つからなかったら、私がシャーロットの為に素敵な靴を作ってあげるわ」
そんな言葉と共に、アリスから送り出され、花と詩の国へ。
悪い魔女が住むという森へノアと共に乗り込む。森は薄暗く、鳥たちの声も不気味。それでも怖がってしまうのは恥だ。ノアの前でも、私は背筋を伸ばしていた。
「シャーロット、怖くないんか?」
「ないわ、大丈夫よ」
「お前、しっかりしすぎじゃね?」
なぜかノアは不満そうだったが、あっという間に魔女の家の前につく。崩れかけているようなボロ屋だったが。
「見て、ノア! 家の前にガラスの靴が」
「本当か?」
ようやく見つけたと気が抜けたのも一瞬。ノアと共に落とし穴にハマり、あっという間に魔女に捕まってしまう。薬草を飲まされ、縄で縛らられ、身動きが取れない。
「あんた、なんでそんな事を?」
ノアはそれでも挑発的だった。黒づくめの魔女を睨みつけていた。
「シンデレラを呪う為さ。対象者が一番大切ににしているものを盗み、儀式をすると呪いをかけられるのさ」
魔女はニヤニヤ笑っていた。
「これもシャーロットの母君の依頼なのさ。シンデレラをどうしても不幸にしたいと」
「そんな……」
まさかこの後に及んで母が!?
私は驚きを通り越し、呆れてくるが、あの母ならやりかねない。深く頷いてしまう。
「母君はどうしてもシンデレラを不幸にしたいらしい。シンデレラがいくら不幸になっても、お前さん自体は幸福にはなれんよと何度も忠告したんだがね?」
魔女も母には呆れているらしい。その通りだ。
そう、誰かが不幸になっても自分が幸せになれるわけじゃない。幸せは他人に委ねず、自分で探すしかないんだ。
「ねえ、魔女。私たちと取り引きしない? 母の居場所や取り引き内容を全部吐いて、ガラスのき靴を返してくれたら、この罪は不問よ」
「そうだ。取り引きしないか?」
ノアも私の言わんとする事を汲んでくれた。魔女も母からの依頼に内心ウンザリしていたらしく、取り引きが成立した。ガラスの靴は王宮に戻り、母は捕まり、処刑される事になった。
再び罪を犯した母には、もう何の情もない。
一方、私は春の国に通うようになった。アリスが作っている靴に興味を持ってしまい、作り方を一から教わっていた。
いつか自分の脚にピッタリな靴を履きたいと思う。シンデレラのガラスの靴ではなく、自分の手で作った最高の靴を。
「シャーロット、今のお前は輝いているよ」
「は?」
相変わらず監視役についていたノアだが変な事を言ってきた。顔を赤くし、いつもと違う表情で。
どういう事だろう?
「自分の幸せを見つけようとするシャーロットは、素敵って意味だよ」
アリスはなぜか大笑いしながら教えてくれたが、いまいちピンとこない。
もっとも私の頭は靴作りでいっぱいだ。
いつか最高の靴を作れるよう。その探究はまだまだ終わりそうになく、楽しくて仕方がなかった。