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エピローグ(ウミカサイド)

☆エピローグ(エクストラ)

「アンタよく『お茶の水女子大付属』なんて受かったわよねぇ。高校の偏差値トップ校でしょ?」

 ここは夕暮れのバスケットコート。いつかあの人と一緒に見た夕日を、マコちゃんと一緒に見ている。しばらくこの景色は見れなくなってしまうのだから、見納め。

 季節は、三月。中学の卒業式を先日終えたばかり。中学校指定のセーラー服を着たまま、どこまでも続く果てしない海を私達二人で眺める。

「よくもまあ好きな男に逢いに行く為だけにそこまで勉強頑張ったもんよねぇ。ウチより頭良くなっちゃってさぁ……。確かに、日本で一番頭の良い高校に受かっちゃったら、親も東京に出さざるを得ないわよねぇ」

「えへへ……」

「それにしてもアンタさ、身長伸びたよね。今、百五十?」

「百五十二だよ」

「アンタの見た目も声もかなり変わったから、先生が今のアンタ見たら好きじゃなくなっちゃうんじゃない? アイツ、ロリコンだし」

「そ、そんな事無いでしょ?」

「ちょっと、マジ顔で焦んないでよ。……ま、会ってみなきゃ何も分からないわね」

「変わったって言うなら、マコちゃんなんて身長百八十センチになっちゃったじゃない」

「バスケに使えるとはいえ、流石にもう成長止まって欲しいわ~」

 と笑い合いながら、

 私達は海の彼方に見える地平線に目を向ける。

「ここからじゃ東京は見えないわよ? ま、種子島からじゃどのみち見えないけど」

「そんな慌てる事無いよ。すぐ逢えるもの」

 スマホを取り出し、ウミカは「渡 春」で検索する。

 中学に上がってスマホをお母さんから貰ってから、何度も検索したその名前を。

 出てきた。東京都にある塾のホームページが。

「教師陣紹介」コーナーに、彼の顔写真と名前が、載ってある。

 別ページに住所も、電話番号も記載されている。

「先生は……変わらないなぁ……」

「人間、十八歳を越えると見た目の成長が止まるって言うからねぇ。ウチらの年頃が一番見た目が変わりやすい年頃なのよ。アンタさ、東京には気を付けなよ? アンタ可愛いんだからさ。ウワサだと東京はめっちゃ男に声掛けられやすい場所らしいから」

「うん、気を付ける」

「なんかあったらすぐウチに連絡しな! 長期休暇には種子島に帰って来いよ?」

「マコちゃん、ウミカのお姉ちゃんみたいだね」

「アンタ、昔よりは強気になったとはいえ、ウチに比べたらまだまだ男に対する意識が甘いんだから。中学で何回告られたよ?」

「う……うん……」

「告られる度にフッて、恨み買った男にあらぬウワサ流されたり、学年の女子やらセンパイやらに妬まれたり……モテる女は大変ねぇ。ウチなんか相変わらずオトコ女扱いだっつうのに」

「その度にマコちゃんが守ってくれたよね。マコちゃんが居てくれて、本当に三年間心強かったよ」

「……そういえばアンタ、ずっとそれ付けてるのね」

 マコちゃんが、ウミカの右手に付けている赤いリストバンドを指さす。

「バスケ部の活動中も毎日付けてたわね。それ見て渡先生の事いつも想い出してるってワケ?」

「大切な……物だから。返しに、行かなくちゃ」

「……けどさ、」

 マコちゃんの顔から笑みが消え、真剣な顔になり、

「種子島の人でアンタの事、『大学生のお兄さんに(たぶら)かされた小学生』って思ってる人、今だに多いよ? 中には『子供の頃に洗脳されちゃった高校生が、洗脳した相手に会いに東京に行く』なんて思ってる人もいるかもよ? それでも良いの? 東京に行くって選択肢で?」

「……ウミカね、小学生の時『あの人』にバスケを教えて貰えたから、ウミカ達のバスケ部を種子島の中学校で一番強いバスケ部に出来たんだって思ってるよ? 『あの人』に教えて貰ったフローター・シュートは、今でもウミカの必殺技だもん」

「……あの時の渡先生が、下心でアンタにバスケ教えていたのだとしても?」

「もし本当に『あの人』が本当に小さい女の子が好きなだけだとしたら今頃東京で、小学生の頃のウミカやナツミさんそっくりの小学生と付き合ったりしてるかもね。だから……確かめに行くんだ」

「確かめに行く?」

「今のウミカが、本当に『あの人』に洗脳されているだけなのか? 『あの人』が本当に……ただ……ロリコン……な人だったのか。会えばきっと、何かが分かるから」

 ー今の私の気持ちが本物なのか、植え付けられた偽物なのかどうか、分かるとしたら、もう三年後ー。 


 両手で、自分のポニーテールを結ぶリボンを、解く。

 すると、解き放たれたストレートのロングヘアが、海風で(なび)く。

 先生が好きになってくれた髪型。先生の傷を癒す事の出来た、髪型。


「一生に一人の人」なんて、在り得ないのかもしれない。 

 どんな恋も、いつか終わる運命なのかもしれない。

 それが分かっていてもー私は、あの人に逢いに行く。

 


「すぐ逢いに行くよ、ハルちゃん」 

 



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