序:2話
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私……ウミカの名前は、小橋海夏と言います。小学六年生です。種子島で産まれ、種子島で育ちました。髪型はショートカットで、身長は百四十センチです。
ウミカは種子島の事が大好きです。だって、クラスの皆やお父さんお母さん、素敵な先生達に囲まれているから。
ウミカの小学校は一年生から六年生まで全体で七十人います。六年生は二十人。二クラスあるので、クラスメイトはウミカを合わせて十人です。
九人の友達全員とウミカは仲が良いです。一緒に海で泳いだり、鬼ごっこしたり、ロケットが発射される光景を見たり。
男の子の中には将来宇宙飛行士になりたいと言っている子もいます。ウミカはそんな子を「スゴイな」と思うだけで。
一応、小四からバスケットボールを始めたのですが、全然上手くなれなくて……。「将来バスケット選手になりたい」なんて事はとてもじゃないですが言えません。
唯一、よく人から褒められる言葉があるとすれば、それは「可愛い」という言葉です。
その言葉は勿論、とても嬉しいです。嬉しいのですが……。
ウミカにはそれしか取り柄が無いのだなと思ってしまいます。「可愛い」だけ、と。
「可愛い」だけじゃ人の役に立つ人間にはなれません。ウミカは、友達も、先生達も、お父さんとお母さんも、他の島の人達も、皆大好きだから、皆の役に立ちたいんです。
だから責めて、お菓子を作って皆に配ったり、なるべく笑顔でいる事で皆の力になろうと努めています。だけど……、
ウミカはバスケでチームメイトの脚を引っ張ってばかりです。マコちゃんが最近冷たいのも、ウミカのバスケが下手なせいかもしれません。マコちゃんが学校のクラブキャプテンなので。
ウミカの「皆の役に立ちたい」の「皆」の中にはマコちゃんも当然含まれています。この種子島の子供達は小、中、高校を同じ所に行く人が多いです。だから今のクラスの皆とも、後六年、一緒にいる事になると思います。
高校卒業後、種子島に残るなら、きっと一生。
だからという訳では無いのですが……これから「一生に一人の人」達ー掛け替えのない人達になるだろう皆の事を大切にしたい。そんな風に思っています。
そういえば、最近男の子達とばかり話していて女の子達とちゃんと話せていません。もっと、クラスの皆全員と平等に話さないと。
朝の学校。後三十分ほどでホームルームが始まります。
ウミカは玄関を通り抜け、自分の下駄箱に向かっています。開けて、上履きを取り出すと、一通の手紙がありました。
黒いハートの形をしたテープが張られた手紙。その場にウミカ以外誰もいなかったので中を開いて確かめると、
【ぶりっこ女、キモい。放課後、校舎裏に来い】
(え、なんで? 誰が? どうして?)
手が震える。混乱しながらもなんとか三階に上がり、教室の扉を開ける。いつものように皆が「おはよう」と言ってくれるのを期待しながら。
教室内には、いつものように五人の男子、四人の女子の姿が。
「小橋、おはよう!」「小橋にしては遅えなあ。いつもは一番早いのに」「よう、小橋」「小橋おはよ~」「またバスケの朝練か? 体壊すなよ?」五人の男子が挨拶してくれる。だけど、
「……」「……」「……」「……」マコちゃんを含めた、四人の女子は挨拶をしてくれない。
マコちゃん以外の三人はどこか後ろめたそうな様子で、ウミカと目を合わせてくれない。
女子の皆の態度がおかしい。先週まではちゃんと挨拶していたのに。
……あれ? 今週は?
放課後になり、ウミカは約束通り校舎裏に行くと、マコちゃんがいた。
「ウミカ、アンタさぁ……」
ウミカを睨みつけながら口を開く。彼女の目が、怖い。
「何でそんなに男子の人気取りたいの?」
「……え?」
「お菓子配ったりしてさぁ。男子にやたら馴れ馴れしいし。そんなにモテたいワケ?」
「そんなつもり、ないよ?」
「知ってる? クラスの男子、皆アンタの事好きだよ? アッキーも、ね」
アッキー、島崎 秋也君。マコちゃんが五年生の頃から片想いしている男の子。ウミカ達クラス五人の女子で雑談していた時にさりげなく話してくれた。秋也だから、アッキー。
「ウミカは……皆と仲良くしていたいだけだよ?」
「そういう言い訳、ホントうざい」
ウミカは、彼女に何も言い返せない。
「だいたい小六にもなって一人称が自分の名前とか恥ずかしくないの? そういうキャラ付けなワケ? 男子にウケるからとか?」
「ち、違うよ。子供の頃からそうだっただけで……」
「まぁ良いわ。ウチら四人、アンタがその『ぶりっこ』辞めない限りアンタと付き合わない事に決めたから」
そう言い放って、彼女はウミカに背を向けて去っていった。
それから二週間が過ぎました。この二週間、四人の女の子は業務的な内容以外でウミカと話してくれませんでした。
話相手が男子しかいない。だけど、男子と話せば話す程女の子達に嫌われてしまう。
ウミカは……どうすれば良いのだろう?