急:7話
☆☆
かなり、走った。
海側に「雄龍・雌龍の岩」が見える。もう少し走れば、港のある西之表市側まで行けてしまう。
逃げてしまった。海夏を残して。
あのロケット打ち上げの夜ー長い髪の海夏の姿を目に焼き付けて、俺の中の「小学生の頃の夏海」への想いは、払拭出来た……筈。
筈、と自信が無いのは、今朝塾で短い髪の海夏を改めて見た時、再度「小学生の頃の夏海」の面影を見てしまったから。
もし、海夏と「この先」があるならば、長い髪の海夏と一緒にいる事で、俺の中の幼い夏海への想いは、時間をかけてゆっくりと消えてなくなっていく事だろう。
「この先」なんて無い。「この先」は、海夏を誑かす上で成り立つこの先。
小学生を落とす成人男性には、「誑かす」という表現が相応しい。
今日、夏海と再会して、俺は理解した。
俺に恋愛は出来ない。きっと次の恋愛も、「小学生の頃の夏海」に似た少女を好きになってしまうだろうから。あるいは、海夏に似た少女を。
やはり、何度でも思う、この言葉を。
《初恋をいつまでも引きずっているような男に、精神的成長等起こりえない》
精神的に成長出来ない俺に、恋愛はー出来ない。
夜になってからアパートに帰宅した。暗闇のコートには既に誰もいなくなっていた。
静寂のコートに、海のさざ波の音だけが聞こえた。生きているのか死んでいるのかも分からないような、か細い音。




