急:2話
☆☆
(キスしてた! キスしてた! キスしてた! キスしてた!)
オレはその場から必死に逃げ去る。けもの道のトンネルを全力で駆ける。
入口にオレの自転車を停めてある。早く逃げないと!
小橋は、やっぱりあの男に誘惑されてしまっていた! 今の小橋は冷静な判断力を失っているんだ。常識的に考えて大人との恋なんて許されるはずが無いんだから。
今日、オレは小橋の家を見張っていた。そして案の定、あの男がやってきた。
あの男が小橋を連れ去った後、すぐに小橋の家のインターフォンを押し、先生と彼女の行方を小橋のお母さんから聞いた。
「あら、アッキーじゃない! 久しぶりね!」「こんにちは! 小橋さんに学校の業務連絡の用があって来たんですが、いらっしゃいますか?」「ウミカなら、中種子塾の渡先生と一緒にロケット見に恵美之江展望公園へ行ったわよ!」「ありがとうございます! また小橋さんがいる時に伺うかお電話します!」
そうやって小橋と先生の居場所の情報を掴んだオレは、恵美之江展望公園へと自転車で向かった。
二十キロくらい飛ばした気がする。今までの人生で一番自転車を漕いだ日だった。
恵美之江展望公園は入場規制が張られていたが、「友人がいる」と誤魔化して中に入る事が出来た。
一人一人園内の人間を確認したけど、小橋と先生は見当たらなかった。
(どこだ? 小橋、どこにいる?)
諦めて、一度公園を出た。二人きりになれる場所を選んでいるのだとしたら、こんな人の多い場所じゃないと思い、公園近くを必死に探し回った。
そうして、家と木々に挟まれた砂利道の脇に、先生のバイクが停めてあるのを見つけた。
オレも脇に自転車を停め、小道の中へと脚を踏み入れた。
小道を進み、進み、進みー更に小さいけもの道へ脚を踏み入れた。
一本道だったので確信していた、この先に先生と小橋がいる事を。
けもの道を抜け、見たものはー、
初恋の女の子と、塾の先生がキスしている場面。
(ウソ、だろ……?)
気が動転した。何か恐怖がこみ上げていた。クラスの女子と成人男性が唇をくっつけている場面に。
でもそれ以上に、あの男への憤りが湧き上がってきた。子供を騙している悪い大人に、憤った。
俺は、無意識に、スマホをカメラモードにして、
パシャリッ
犯行現場をカメラに収めていた。
けもの道を抜け、砂利道を抜け、オレは入口に戻ってきた。
すぐに自転車に乗り、全力で立ち去るーアイツがオレを追って来れないように。
自転車の弱弱しい明かりだけを頼りに、暗闇の中を進む。
(これで、小橋を救ってやれる!)
収めた写真の中には、バッチリと先生と小橋のキスシーンが映っている。
喜びと同時に、腹立たしさと悲しみが心の中にあった。
初恋の女の子のファーストキスをーよりによって大人の男に奪われた事への腹立たしさと、それを受け入れた小橋自身に。
(仕方がない、小橋はアイツに洗脳されているんだ!)
そう自分に言い聞かせた。そう言い聞かせたけどー、
写真は、小橋が両手で膝をつく先生の両頬に触れ、キスしている。先生は彼女の体に手で触れていない。
まるで、小橋自ら望んでキスしているような写真。
(気持ちワリぃ……)
目にもの見せてやる、と強く思った。




