破:7話
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「何でよりによって、ウチにそんな事相談するワケ?」
私、ウミカは裏庭から教室に戻って荷物を取った後、すぐに体育館にやってきていた。
今日はバスケクラブがお休みの日。マコちゃんはクラブが無い日、体育館で一人練習している事が多い。ウミカの予想通り、体育館にはマコちゃんがいた。
マコちゃんがボールを持ち、ゴールに向かって両手でシュートする。空を舞うボールが「ガコンッ!」とリングにぶつかり、外れてしまう。
「ああっもう! アンタが喋りかけて来ると集中できないんだけど?」
「ゴ、ゴメンね……」
「……べ、別に怒ってないわよ。試合会場で観客がウチの悪口言って邪魔してくる状況だってあるかもしれないしね。良いわよ、続けて? 『渡先生が良い人か、悪い人か?』、だっけ?」
「うん……どう思う?」
「さっきも言ったけど、まず何でウチにそんな事聞いてくるワケ? 他にいるでしょ? 渡先生の事知ってる人なんて」
「マコちゃんが、ウミカの次に渡先生の事ちゃんと知ってくれている人だと思ったから」
マコちゃんを前より優しい性格にしたのは、間違いなく渡先生だ。あの日、ウミカとマコちゃんがバスケで戦っていなかったら、ウミカもマコちゃんも変わらなかった。
そんなマコちゃんにだからこそ、聞きたかった。先生がどういう人か。
(先生は、悪い人なの? ウミカを騙そうとしている悪い人?)
「まずね、ウミカ。最初に言っておくけど、人間って生き物は『良い人か、悪い人か』の二種類で分けられる程単純な生き物じゃないの。良い所も悪い所も両方あるもんなの。渡先生は、アンタに優しい人よ。塾内での生徒からの評判も悪くない。『良い人』……かもしれないわね」
「そ、そうだよね……」
鋭い口調で、「だけど」と挟み、
「だけど……だけどね、『何か裏のある人』だとは思っている。わざわざ東京から種子島に塾講師だけやりに来るとか意味わかんないし。きっと、東京で何かあったんだと思う」
「……」
「きっと塾長もそこら辺見抜いてると思う。それでもあの人を中種子塾に置いているのは、最低限の信頼は出来る人間だと思ってるからよ、きっと」
「……」
「ウミカ、アンタはもう少し『自分が恵まれている人間』だって事を自覚した方が良い。多くの人間はアンタみたいに『後ろ暗い事』が無い人間じゃないの。人に言えないような事、いっぱい抱えて生きているの」
「……マコちゃん、も?」
「当然よ! クラスの皆に言ったらドン引きされるような事、いっぱい持ってるわよ。でもね、人間、『綺麗になんて生きていけない』の。おとぎ話の世界にみたいに、『お姫様は王子様と結婚して幸せになりました』なんて事にはならないの。それこそ……」
マコちゃんは間を少し置き、
「初恋なんて、実らないのが当たり前なの」
悲しそうに、呟く。
それは……ウミカのせい? アッキーがウミカの事を好きになってしまったのは、ウミカが皆に優しくしてしまったせい?
「だからもし、渡先生に『人には言えない後ろ暗い事』があったとしても、ウチは彼を軽蔑したりしない。……まあ、あの人の事、尊敬するつもりもないけど。人として薄っぺらい人間ほど簡単に他人を尊敬するし、簡単に他人を軽蔑するものだと思う。ウチは薄っぺらい人間になりたくないから、簡単に人を尊敬したり軽蔑したりしない」
「マコちゃんは……大人だね」
「ウチが大人なんじゃない。アンタがお子様なの!」
「うう……」
「……渡先生さ、多分アンタの事好きだと思う」
「…………えええ! いっ、いきなり何言ってるのマコちゃん?」
「ウチ、男のそういう所見抜くの、ママ見てて鍛えられてるから。アンタも先生の事好きなんでしょ?」
「う、うん……」
「普通に考えたらヤバい恋よねぇ、小学生と大人の恋なんか。……ウチはそういうヤバい恋見るの、大好きだけど?」
ニヤリと笑う。何だか、凄く悪い人みたいな顔……。
「渡先生が仮に『悪い人』だったとして、アンタにもし、『彼と一緒なら自分も悪い人になってしまっても良い』くらいの覚悟があるなら、ウチ、ウミカの事応援してあげるよ」
ウミカに向かって、今までに無い程、朗らかに微笑む。いつも他人に厳しいマコちゃんが、こんな風に優しく笑えるなんて……。
ウミカはきっと、誰かに「渡先生は良い人だ」って言って貰って、安心したかったんだ。
でもそれは、誰かに頼ってしまっている行為だ。自分で考えていない、ズルい行為だ。
ウミカに強さをくれた先生が、ウミカの額の傷を癒してくれた先生が、悪い人なはずがない。ーそれだけで、充分なはずだ。他の人に聞く必要なんて無い。ウミカは、そう思う。
もし先生が悪い人だったとしてもーウミカは、そんな『悪い人』である先生に、恋をしてしまったんだ。
一度誰かに恋をしてしまえば、その人が良い人か、悪い人かなんて関係無い。
彼が悪い人なら、ウミカも一緒に、悪い人になろう。
「マコちゃんは……応援してくれるんだね。相談出来る人がいてくれるだけで嬉しいよ。ありがとう」
「ウチはただ、見てて面白いからってだけだし。アンタみたいなガキ相手に遊んでるだけだし」
「本当に嬉しいよ……ありがとう」
「もう感謝は良いわよ! それよりアンタ、渡先生とデートくらいした事あるの?」
「デ、デートは……ないかな?」
「なら、とっととデートに誘いなさい! 好きな相手オトすのに向こうから誘ってくれるのを待つなんてチンタラした事してんじゃないわよ」
「で、でも、先生とロケットの打ち上げ、一緒に見に行く約束はしたよ?」
「へぇ~、やるじゃん。打ち上げは夜だし、二人きりなら良いムードになるんじゃん?」
デート……かぁ。先生に、言ってみようかなぁ……。




