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破:4話

☆☆

 5対5の試合から一週間経った日、午後二時。

オレ、秋也は海沿いにあるストバスコートへ、コーチの車に乗せて貰って来ていた。他の生徒はバスを使って最寄りのバス停で降りて、徒歩で来たみたい。

 何でコーチはオレ達小学生をこんな大人用コートに来させたのか? また渡春先生に、オレ達小学生の指導をして貰う為だとか(まあ、今日体育館使えないから仕方ねえけど)。

 

 あの渡とかいう先生、先週はオレらの学校の体育館で凄かったけど、あまり調子に乗らないで欲しいな。そもそも大人が小学生に勝てるなんて当たり前じゃん。

 けど、それ以上にムカつくのは、小橋と連携取れてる感じだった事だな。

 それにしても先週の小橋、普段以上にパス上手かったなー。まさか先生の影響じゃないよな?

 

 渡先生は今、男子生徒一人一人と順番に一対一の練習をしている。オレは「子供が大人に勝てる訳ねぇだろ」とコーチに怒りたかったけど、コーチの性格は「自分より上手い人とやるのに、子供も大人も関係無い」とか言い出す熱血漢だから、言わない事にした。

 そしていよいよオレの番が回ってきた。

「よろしく!」と渡先生。愛嬌が良い。

 これはチャンスだ。今、女子達もオレと渡先生の勝負に視線が釘付けになっている。

 小橋も当然いる。この男に勝てば、小橋への好感度アップに繋がる。それどころかクラブ中に賞賛されてもおかしくない。こんな、月バスに載った事があるくらいスゴイ選手であるこの人に勝ててしまったら……。

 身長は、渡先生が百六十五、オレが百七十。小学生であるオレの方が五センチも高い。

(俄然、やる気になってきた!)

 オレのオフェンス。腰を落としてディフェンスする先生。スリーポイントライン線の外からゲームスタート。

 どうやって先生を抜くか、ボールを持ちながら戦略を頭の中で練っているとー。

 パァン! 手に持つボールを先生に弾き飛ばされた。こぼれ(ルーズボール)を先生が素早く拾う。

「ボールを敵の前で下げちゃダメだ。今みたいにカットされてしまう。ボールをキープする時は、背中を使って守るんだ」とオレに指導。

 むかっ腹が立った。あんなの不意打ちだろ? と。でもそんな思いをおくびにも出さず、

「ありがとうございます!」と爽やかに返事。

大人は皆、こういった「素直な子供」を好むもんだからな。オレが腹の中で何抱えていようと、オレみたいなイケメン少年が笑顔を見せてやれば、大抵の大人は満足そうな様子を見せる。

「アッキー頑張れ!」「大人に負けんな!」という黄色い声援が、男バス女バス共に飛んだ。

 皆は渡先生より、オレに勝って欲しいと思っているみたいだ。

……でも黄色い声援の中に小橋の声は混じっていなかった。

 渡先生のオフェンスになった。

 先生のドライブは凄まじい速さだ。とてもじゃないけど追い付けない。オレはドライブを警戒し、彼から僅かに距離を開けた。ーそれが間違いだった。

 ー即決で先生がスリーポイントを放つ。その戦法は、全くの無警戒だった。

 その放たれたボールは高い弧を描いて、青空を舞っている。オレの肌感覚で一分以上経っているのではないか? と思ってしまう程の「止まった時の流れ」を味わってから、

 リングにカスる事も無くネットの中を通過した。認めたくないけど、美しいシュートだった。

「アッキー負けちゃった……」「あの人、スリーも上手いよなぁ」「ウミカの先生スゲー!」

(ウミカの先生って言い方だけはやめろよ。仕事なんだから当たり前だろ?)……等と思っても顔には出さない。

 先生に握手を求め、「負けました! 次は勝ちます!」と爽やかに振舞う。

 先生は苦笑いで「あ、ああ……」と答え、伸ばした手を握ってくれた。


 コーチに車の中で聞いた話だと、渡先生はこのコートの隣のアパートに住んでいるらしい。そしてクラブの女子達のガールズトークを盗み聞いた所、小橋は夏休み中、渡先生とマンツーマンで練習していたみたいだ。

 きっとその練習場所は、このストリートコートだったのだろう。

 ズルいな、と思った。オレだってきっと、小橋にバスケ教えてあげられたのに、と。


 その後、しばらく皆、自由に過ごした。

 真面目にバスケの練習する奴、ずっと談笑している女子、鬼ごっこを始める男子なんかもちらほら。

 小橋はオレから少し離れた場所で、女子と会話している。渡先生は、練習熱心な一部の男子生徒達に、スクープ・シュートの打ち方を教えている。

 オレはこっそり、小橋と女子の会話を盗み聞くと、


「ねえウミカちゃん! 何でウミカちゃんは先生の事好きなの?」「……えええええ? 急に何言ってるの……?」「顔見れば分かるよ~。恋する乙女の顔してるもん!」「……」「恥ずかしがってないで教えてよぉ~」「……や、や……」「……や?」「や、優しいから……」

 優しいから? そんなの、誰だって持ってるじゃん。

オレだって持ってるよ? 何でよりによって大人の人なんだよ。

オレは成績だって悪くないし、バスケの実力も中種子南小学校の中だけなら一番上手い。

 そりゃ渡先生程凄くないけどさ、大人になったらオレだってアレくらい上手くなれるし?

 身長だけなら大人であるあの人より大きいぜ? なのに、同学年のオレじゃなくて、何で大人のあの人なんだよ? そんなの、ズルいだろ? 勝てるワケないだろ?

 ……何だか、腹が立ってきた。

 

 一時間程して、先生がコートからベンチに戻る。オレの隣に座ると、

「あれ? アクエリ切らしてる……」と一言漏らす。

 ベンチから立ち上がり、隣に座るオレに向かって、

「悪い。一瞬だけ、俺の部屋にアクエリ取りに行ってくる。皆にもそう言っといてくれ!」

 アパートの方へ向かおうと脚を向ける。

 その時、オレはふと「ある作戦」を思いついた。

「先生、オレが取りに行きますよ! 先生みたいな上手い人がオレ達に教えてくれる機会なんて、滅多にありませんから、先生には一秒でもオレの後輩達にご指導して貰って欲しいです!」

 と、キャプテンとしての責任という名目で、彼を説得する。

「そ、そうか。分かった。じゃあ、鍵渡すね。よろしく頼む」

 先生がオレに部屋鍵を渡す。

 作戦、成功。

 人間、誰にだって人には見せられない「黒い部分」があるはずだ。先生の「黒い部分」を見つけ出して、小橋の奴に教えてやるんだ。

 なるべく小橋が幻滅するような理由があるといいな。

 

 扉を開け、先生の家の中に入る。一Kくらいの、小さな部屋。

 部屋の中は小奇麗だった。一人暮らしの男性の部屋っていうと、もっと服とか散らばってる感じの、グチャグチャなのをイメージしていたけど。

 居間には机と椅子、ベッド、押し入れ等々。台所付近には冷蔵庫とコンロ、その後ろにトイレ付きのお風呂。

 アクエリアスは冷蔵庫の中に入っていたので、簡単に見つかった。通常任務完了。

 ここからは秘密のミッション開始だ。部屋の中から先生の弱みを見つけ出す。

 押し入れを引いてみる。エロ本でも入ってたらいいなと思いながら。

 バスケットシューズと二つのボール、バスケ雑誌なんかが積んであるくらいだった。

「ハァー……」とため息。

 次に、四段ある、机の引き出しの一番下を開けてみる。この段が一番物が入る。

 そちらには塾の教材なんかがみっしりと。ここも外れか。

 次に一つ上の引き出しを開ける。半ば諦め半分に。

 だがそこには面白い物があった。

 卒業アルバムだ。真ん中に「千葉県〇市立 中町小学校」と刻まれている。

 先生の卒業アルバム……ちょっと興味がそそられた。

 手に取り、一ページ一ページ、見ていく。

 初めはイベント行事の写真ばかりだった。修学旅行、運動会、遠足、その他。

 興味がそそられたのはその先のページだ。生徒の顔写真と名前のページ。

 六年一組から順番に見ていく。先生探しだ。

 六年二組のページで手が止まった。渡 春の名前を見つけた。

「ぜ、全然顔ちげぇ……」

 その少年は丸みを帯びた顔で、まるでスポーツ選手の顔をしていなかった。眼鏡もかけていて、オタクっぽい雰囲気。ちょっと太っている。

「これ、本当に渡先生かよ?」

 大人の渡先生の見た目は、細い筋肉質で、高校生に見えるくらい童顔な好青年という印象だ。

 このぽっちゃりした少年と、あの好青年が同一人物だとは思えない。

 だが……それ以上にオレを驚かせたのは、その三つ隣の顔写真だった。

 高木 夏海という名の少女の写真。

「こ……小橋?」

 その写真の中には、小橋海夏としか思えない少女がいた。 

 ショートカットで、目のクリっとした感じの人。顔の形はおろか髪型まで瓜二つ。

「ぐう……ぜん……だよな?」

 その生き写しのような見た目に、オレは動揺せざるを得なかった。

 ふと、開きっぱなしの引き出しに視線が行く。この卒業アルバムの下にあった物。

 ノートだ。日記? にも見える。無地のノートで、何の用途の物か分からない。

 パンドラの箱を開くかのような、恐怖と好奇心の入り混じった心境で、恐る恐る、オレはそのノートを手に取り、中を確認していく。

 書き出しは、こうだった。


【俺ー渡 春は、ロリコンには二種類の人間がいると考えている。】


 次のページの書き出しは、

【小五で出逢い、卒業まで二年間同じクラスだった高木夏海という少女はー】

 その次のページは、

【夏の夜。その日はクラスの花火大会だった。皆で夜の小さな公園に集まってー】

 その次のページは、

【次は、中学三年生の頃の話を聞いて欲しい。】

 次は、

【高校時代の話を聞いて欲しい。】

 

 最期は、

【この物語は、俺が小学生と付き合う事に成功して精神的に成長する話なんかじゃない。】



「ハァーッ……、ハァーッ……」

 全て読み終わったオレは、過呼吸していた。手が震えた。

 あの男ー渡 春は、本物のロリコン野郎だった!

 小橋に初恋の人の姿を重ねている変態野郎!

 歪んでやがる。同い年の女に失恋したから年下の……それも生徒を狙うなんて……。

 目を覚まさせてやらないと! アイツがヤバい奴だって、教えてやらないと!



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