破:3話
☆
十月の体育館内は、暑すぎず寒すぎない、快適な空間だ。
ここは中種子南小学校の体育館内。海夏達の練習に俺は特別講師として招かれた。
小学生達が「ダッシュ!」「声出して行こう!」……等々、部活らしい雄叫びを上げている。
海夏も、そして真子も、今はウォーミングアップで体育館内をランニング中だ。
「……で、渡先生には今回、二軍チームの助っ人として入って欲しいんです」ー50代くらいの、中種子南小の監督が俺に言った。
「大人の俺が練習に入ってしまったら、流石に戦力のバランスが悪すぎませんか?」
「今回の練習の目的は、あくまで一軍……スタメン選手達の自力の強化です。練習相手が強いに越した事は無いんですよ。それに……こういう言い方は少し偉そうかもしれませんが……ウチのスタメンは、男子も女子も種子島で一番強い小学生チームです。この島の他の小学生達じゃ、今の彼らには太刀打ちできないでしょう」
「身長170センチのマコちゃんは、かなりの戦力ですよね」
「女子チームはマコを中心に、今や鹿児島本土の県大会でもベスト4入り。男子の方も、島崎 秋也君を中心にベスト8入りを果たす程です。……ほら、彼がアキヤ君ですよ」
監督が指さす方を向くと、爽やかな少年がレイアップを決めた。
とても洗練されたレイアップだ。リングに触れずネットの中を通過した。
あのレイアップ一本で、あの秋也少年がどれだけの反復練習を今日まで繰り返してきたかが分かる。
……あの少年、多分俺より身長高いな……。
「今回、一軍チームからは男子のスタメン四人+マコの五名を選出します。男女混合チームという事になりますね。バスケ選手としての才能だけなら、マコは男子達より上ですから」
「俺のチームには誰を?」
「女子チームのシックスマンと、男子チームのシックスマンを中心にチーム構成しています」
シックスマン……バスケ用語で六番目の選手を意味する。控え選手の中で、一番重要な選手がシックスマンだ。
「女子シックスマンと、女子セブンマン……これは造語ですが……この二人に男子シックスマンと男子セブンマンを加え、そこに渡先生に入って頂きます」
「了解しました」
女子のシックスマン……という事は……?
「先生! ウミカと同じチームになりましたね!」
赤のラインの入った選手ユニフォームを着た海夏が、俺に笑いかけた。
俺の目の前に四人の小学生の男女。敵チームには四人の男子と、一人の長身女子。
五対五のバスケをするのは、一年ぶり近いな……。
「先生、紹介しますね! こちらは月夜ちゃんです! こっちは朝日君に、真昼君です!」
「ああ……よろしく……」「「「よろしくお願いします!!」」」
朝、昼、夜か……覚えやすい三人だな。
「ウミカ……三人の経験は何年くらい? 後、ポジションは?」
「全員、二年くらいです。ポジションは、朝日君と真昼君はフォワード。月夜ちゃんはセンターですね」
女の子がセンター……か。確かに月夜ちゃんという子、背丈が160近くある。男子二人より僅かに大きい。
センターが一人、フォワードが二人という事は、俺と海夏の役割は必然的に……。
「ウミカと先生がガードになりますね! ボール運び、一緒に頑張りましょう!」
ガッツポーズを決める海夏。
「ああ、頑張ろう!」
ー夏休みの間、俺が海夏に施した技術は、専らシュート技術だ。パス技術は教えていない。
バスケットのガードというポジションには、ボールを運びチームを指揮する「ポイント・ガード」と、ロングシュートやドリブルから得点を狙う「シューティング・ガード」の二種類がある。海夏にパス技術を教えていない都合上、俺がポイント・ガードをせざるを得ないかもしれないな。
……この時の俺は、俺のバスケット選手としての致命的な弱点を忘れていた。俺は身長165センチしかないのに、何故今までフォワードのポジションをしていたのか。その意味を……。
ジャンプボールから始まる。ウチのチームのセンター、身長160の月夜ちゃんVS身長170センチの真子。高さの差は歴然。
俺がジャンプボールしても良かったが、流石に跳躍力に差があると思い遠慮した。
同時に跳ぶ二人! しかし空中舞うボールは、あっという間に真子の元へ渡った。
「まずはディフェンス一本!」ーと俺が叫ぶ。味方に聞こえる声で。
……正直、司令塔なんてポジション、俺のガラじゃないな……。
ディフェンスフォーメーションはマンツーマン・ディフェンス。俺が付いた相手は、真子だ。
ジャンプボールは遠慮したが、流石に彼女を抑えない事には、敵にやられてしまうからな。
「ボール頂戴!!」ーゴール下で腰を落とした真子が手を挙げる。ポストプレイを仕掛けるつもりだ。
小学生とはいえ俺より五センチも高い。外のラインにいた秋也君が、真子にボールを入れた。
「先生、ウチにポストプレイで勝てると思ってんの?」ー不敵な笑み。
「……負けねえよ……」ー負けじと不敵な笑みで返す。
煽り返してみたは良いが、一抹の不安が残る。
当たり前だが、俺と真子では、バスケ経験値が俺の方が上。
だが今の彼女にあって俺には無いもの。現役部活生の彼女にあって、今の俺に無い物。それはー―目標の有無。
真子には、まだ未来がある。彼女ならもしかしたら、本当にプロのバスケ選手になれるかもしれない。
一方、俺は既に「バスケットにおける目標を失った人間」なのだ。俺はプロにもなれなかったし、部活動も終えた人間だ。
バスケットにおけるモチベーションで、彼女に叶う道理は無い。
……等と雑念で満ちている俺に対し、真子が仕掛けて来た!
ドリブルしたまま、俺に体を思い切りぶつけて押し込んでからーシュート!
真子のシュートモーションに反応し、俺は思い切りジャンプ! ……これが過ちだった。
ーフェイクだー?。
一度シュートを撃つフリをしてから、止まりー、
体をターンさせて、再度シュートに入る。ターン・アラウンド・シュート……。
彼女のシュートは、いとも簡単にネットに吸い込まれた。
……やっべえ。俺の所からの失点だ。
「マコ、ナイスシュート!」「ナイスだよマコ!!」
「思ったよりチョロかったわ!」ードヤ顔で反対ゴールへ走る真子。
「……済まない、皆……」
「ドンマイです! 先生!」「これから取返しましょう!」ー小学生達が慰めてくれる。
……マジで悔しいな……。
バスケ選手としての未来の有無から来るモチベーション差で、経験値の差が覆されるのは、本当に悔しい……。
俺達のオフェンス。ボールをハーフコートまで運び、一度海夏にパスしてからー、
「ウミカ!」ーゴールから斜めのスリーポイントライン位置でボールを手渡しして貰う。
俺のマークマンは……秋也君だ。
やられっぱなしは嫌だ。やられたらやり返したい。
本来、ポイントガードは積極的に一対一を仕掛けるようなポジションじゃない。それよりボール回しに徹するのがセオリーだ。
それでも……海夏の前で無様を晒した事。俺の所から失点を起こしてしまった事。この埋め合わせをしなければ。
張り詰める空気。向き合う俺と秋也君。
俺はドライブに行くフリをして、脚をすばやく前方に突き出す。
「!?!?」ー秋谷君は釣られて、思い切り後ろに下がってくれた。
シュートを撃てる空間が出来た。
そのまま俺はシュートモーションに入りーロングシュートを放つ!
高いを弧を描いて空中を舞うボールが、リングにぶつかりつつも、ギリギリでネットの中へ吸い込まれた。
「うわぁ! スリーポイントシュートだ!」「ばっか、ミニバスにスリーは無いよ!」「でも……すっごいキレイ……」ー観戦する小学生達が騒ぐ。
「先生、ナイスシュートです! でも、もっと私達を頼ってくれて良いですよ!」ー海夏が優しく笑う。
「……ウミカ……」
(ウミカ、もしかして怒ってる……!?)
俺は怖くてソレを口に出来なかった。正直、さっきのプレイはポイントガードとしては逸脱したプレイングだ。ボール回しをするのが冷静なプレイだった。
敵のオフェンス。再度、真子がローポストでボールを貰い、
「もう一本貰うよ♪」ー力技で俺を押し込む。
が、そこは俺も鍛えている。押し比べじゃ負けない。
「きっち!」ー真子が弱音を上げた所に、
「野原、パス!」ー秋也君がボールを貰いに行く……手渡しパスだ。
秋也君のマークにはフォワード・ポジションの朝日君が付いている。しかし秋也君の、ボールを持たない動きの緩急に付いていけなかったようだ。完全にノーマークとなる。
しかも真子が間に入って壁となっている。俺のカバーは届かない。
ーちなみにスクリーンとは、ボールを持っていない一人の選手が、ディフェンスの進む方向の前に立つ事で、ディフェンスの邪魔をするプレーの事だ。
しなやかなバンクシュートで、秋也君の得点。
「ご、ごめんなさい先生……」ー朝日君が萎縮して言う。
「ドンマイだ! なるべくスイッチは使わず、スライドで守ろう!」
ースライドとは、ディフェンス時に敵のスクリーンプレイ(壁となるプレイ)に対し、マークマンを変えずに守る事。反対にスイッチとは、マークマンを途中で変えて守る事ー。
一定以上レベルの高いバスケ選手同士ならば、「スイッチとスライド」と言う言い方だけで意図が伝わる筈。
「ハ、ハイ!」ー良い返事をくれた。意味は分かってくれているようだ。
俺達のオフェンス。先程と同じく、ハーフコートまでボールを運んだ所で海夏に渡してから、手渡しでボールを貰う。
「……また一対一ですか?」ー秋也君が構える。
「……そうしたい所だけど……」ーと、俺が漏らした所で、
チームの四人が、俺とは離れたサイドに寄った。
「……アイソレーション……」ー観客の誰かが、そう口にした。
アイソレーション――特定のプレーヤーを意図的に一人にして、一対一の状況を作り出す攻撃戦術。
……だが、俺はこの戦術を皆に指示していない。
(やっちまったな)と、心の中で呟いた。
そういう空気を、俺が作らせてしまったのだ。一対一を仕掛けられる空気を、作らせてしまった。
これではチームプレイとは言えない。本来この試合の主役は俺ではなく、小学生達であるべきなのに……。
――仕方が無い。一対一の空気を作ってしまった以上は、責任を果たそう。
俺は、先程のように前脚を前後に振る事で「ドライブに行くフリ」をしつつ――、
スリーを撃つ!!
「引っかかるかよ!!」
ーフリをして、ドライブ。
「うおぁ!」ー秋也君の悲鳴を置き去りに、彼を完全に抜き去った。
が、バスケはチームでディフェンスするゲームだ。彼一人抜いても、彼のカバーがすぐさま駆けつける。……真子が来た!
「させねえよっ!」ー真子が俺に寄って来たという事は、真子が先程まで付いていた、ウチのチームの高身長センター月夜ちゃんがノーマークになっている事を意味する。
俺はすかさず月夜ちゃんにボールを回すーーが、しかしー、
「あっ!」ー月夜ちゃんは俺のパスに反応出来ず、ファンブル(取りこぼし)してしまう。
「貰いっ!」ーこぼれ球を真子が拾い、そのまま敵のカウンター速攻。
先頭を突っ張してた秋也君が、真子からロングパスを貰い、ノーマークのレイアップで得点。
「センセイ、ごめんなさい!!」ー月夜ちゃんが半泣き顔になる。
「いや、君は悪くない。悪いのは……」
ー悪いのは、俺――?
ああ、こういう所なんだよな、俺の悪い所。バスケット選手としての欠点。
味方と合わせる動きが致命的に下手な所。
俺は、パスが下手だ。味方と連携を取るのが致命的に下手だ。
高校でバスケを始めた時から、うすうす気づいていた。
それはきっと、俺がバスケを始めた動機に起因しているのだろう。
「初恋敵を倒す」等と、不純極まりない動機でバスケをしてきた俺は、常に一人でバスケをやってきたのだ。
俺のバスケは一対一で敵を倒す為のバスケなのだ。
五対五を想定した動きが、出来ていないのだ。
味方を信じて来なかった。己のみを信じて、バスケしてきた。
俺は、身長が165センチしかないのにフォワードが出来るスゴイ奴なんじゃない。
165しかないのにガードが出来ないだけな奴なのだ。
味方を統率して攻めるなんてカリスマ性が無いだけだ。
カリスマ性なんて無いから、責めて肉体だけは鍛えぬいた。
俺の肉体は、攻撃には適している。けれど己の肉体をいくら鍛えた所で、コミュ二ケーション力やカリスマ性だけは、人と関わる事でしか手に入らない。
俺は、沢山、沢山、沢山……一対一を重ねて来た。
黒人選手と、イタリア系選手と、中華系選手と、ストリートコートで。
結果、俺はソレに適したバスケスキルを身に着けた……けれど……。
(お前とのバスケ、何だかつまらねえよ……)
高校のチームメイトに、最期の試合の後に言われた言葉。
俺は、アシスト数が異常に少ない。自分の得点ばかりだ。
俺のオフェンス力は突出して高いから、高校の監督も目を瞑ってくれていたけれど。
監督にも言われた。(ソレは全国では通用しないバスケだ)と。
……結局、俺のバスケは今でも独りよがりなのか……?
あの頃と変わらず……。
「先生、心配しないで下さい」
ハッと、現実に戻る。海夏の声だ。
「先生は、一人で頑張らなくて良いんです。先生の教えて下さったバスケで、先生を助けますから」
ボールを運ぶ海夏。そのまま左サイドにいる朝日君にボールを渡してからー、
ー視線だけで月夜ちゃんにスクリーンのサインを送る。
150センチすらない海夏と、170もある真子(月夜ちゃんのマークマン)の体がぶつかる。
海夏の妨害により、月夜ちゃんが一瞬、ノーマーク。
……となるが海夏のマークマンだった男子生徒が、月夜ちゃんのチェックに回る。
しかし、敵のディフェンスがごたついてきた。今、敵の中で一番気後れしているのは、スクリーンを掛けられた真子だ。
左サイドでボールを持つ朝日君は、ゴール下で海夏がノーマークになっている事に気付きー、
鋭い刃のようなバウンド・パスを、ゴール下へ送る!
「はあっ!? ウミカざけんなよ!」ー真子の叫びも空しく、海夏はノーマークのゴール下得点。
「どうですか……先生……ウミカ、頑張りましたよ……」ーディフェンスへ戻る海夏。息が荒れている。
20センチ以上もある対戦相手に、自ら接触していくプレイングに、どれだけの勇気が要る事だろう。この子は、本当に勇敢だ。
「ありがとう。助けられちゃったな……」
試合はしばらく拮抗状態に陥り、十四対十四の同点で、一度ハーフタイム(休憩)に入った。
「皆、悪い」ー俺は四人に頭を下げた。
「ど、どうしたんですか先生?」「俺らこそ謝らなくちゃいけないのに……」
「俺さ、パス下手なんだ。さっき見ての通り、一対一なら上手くやれる。……けれど、仲間との連携となると、どうにも呼吸を合わせずらいんだ。皆と上手く合わせてやれなくて、ゴメン」
「仕方ないですよ、先生と俺らまだ初対面ですし!」「そんな年上の方に頭下げられて、僕らの方が困りますよ!」
「……その上でお願いしたいんだけど、もう一度俺にゲームメイクを任せてくれないか? 今度は、皆を上手く使ってみせるから」
「先生……。…………ウミカも、手伝います」
「ああ! さっきのウミカのプレイみたいに、俺も皆に積極的にスクリーンを掛けに行く! ボールを持っていない所で活躍してみせるから、皆も俺を上手く使ってくれ!」
「「「……ハイ!!!」」」
産まれて初めて、チームの空気の流れが変わるという瞬間を感じた。
海夏達には伝えていないが、俺の左脚の爆弾は、既に熱を帯び始めている。そう長くは走れ無さそうだ。
後半戦が始まった。
俺達のオフェンスから。俺は3ポイントライン、ゴールから左斜めの位置にいる海夏に一旦ボールを渡してから、一度ゴール下まで潜り込みー、
右斜めの位置にいる朝日君にスクリーンをかける。彼をゴール下へフリーで行かせる狙い。
朝日君のマークマンは、狙い通り俺と衝突ースクリーン成功だ。
俺のマークマンである秋也君がカバーに入る為、朝日君に付いていく。
つまり今の俺のマークマンは朝日君をマークしていた小学生な訳だが、彼は今、ゴール下に向かった朝日君に意識をとらわれている。
ーこれが、バスケットにおけるスクリーンの強みだ。「敵のマークマンを入れ替える」事。
素人から見るとバスケは、1対1を5人でやっているように見えるかもしれない。
体育の授業でやるバスケなんかでも、ディフェンス側は誰が誰をマークするか決めるものだ。
もし試合中、急にマークする相手を入れ替える必要がある事態が起きたら?
当然オフェンス側としては、「敵がマークマンを入れ替える瞬間」が、攻撃の隙となる。
今、俺がスクリーンをかけた敵の少年は、秋也君(俺の元マークマン)が自分のミスをカバーする為、朝日君(彼の元マークマン)の方へ向かってくれている事を認識している最中だ。
彼の認識が終わるのにかかる時間は、おそらく約1秒だろう。
だがバスケにおいて「1秒、敵を気後れさせる」事は、チャンス以外の何物でもない。
3ポイントライン外でノーマークとなった俺は、今ボールを持つ海夏へ、(パスをくれ)というハンドサインを出す。
海夏はそれを見逃さなかった。強くて鋭い……だが正確なパスが送られてくる。
パス技術を俺は彼女に教えていない。にも関わらずこの技術力……味方へパスを送る才能があると言わざるを得ない。
どうやら海夏には、ポイントガードとしての才能があるのかもしれない。あの子は誰にでも優しいし、仲良くなれる性格だ。そういう子は、チームの司令塔となれる性格と言える。
それは、俺には無い才能だ。
海夏のパスは、正確に俺の手の中に納まった。俺は今、ノーマークだ。
3ポイントシュートを……放とうとする。
ところが、俺のシュートチェックに、月夜ちゃんのマークマンである真子が、割って入って来た。
「自己中渡先生、ブロック!!」ー空中で、彼女はしたり顔を見せる。
(真子が俺のブロックに跳んできているという事は……)
当然、今月夜ちゃんがノーマークな筈だ。
空中戦の中、シュートを放つ寸前だった俺の意識は、ゴールから味方へ切り替わった。
月夜ちゃんを探した。
いた! 月夜ちゃんは今、ミドルラインでノーマークだ!
頭上に掲げたボールを胸の位置まで下げ、シュートからパスへ緊急切り替え。
「月夜ちゃん!!」ー叫んだ。
産まれて初めて、試合中チームメイトの名前を叫んだ気がする。
俺のパスを、月夜ちゃんは見事受け取ってくれた。
そのままノーマークでシュートー月夜ちゃんが得点してくれる。
「パスありがとうございます先生!」ー月夜ちゃんがヒマワリのような笑みを見せる。
気恥ずかしくなって、軽く会釈した。
「先生、ナイスアシストです!」ー海夏が片手タッチを求める。
「いいパスだったよ、ウミカ」ー彼女のタッチに「パチンッ!」と応える。
ー俺が最後に試合中、味方にアシストパス送ったの、いつだったっけー?
俺達のディフェンスの番だ。
俺がマークする真子は、3ポイントライン外にいる秋也君にスクリーンをかけた。
これは、先程の俺のプレイと全く同じだ。
「先生のマネ?」ー真子が舌を出す。生意気な……。
秋也君のマークマンは朝日君だ。朝日君は「何が起こったか分からない」と言った様子でうろたえている。
(俺がアキヤ君のマークに回るしかないか……)ーとマークしている真子から離れようとしたその時ー、
海夏が、敵チームの少年の、今ノーマーク状態の秋也君へ向けたパスを、カットした!
(スゴイ読みだな、ウミカ……)
海夏と真子は、形はどうあれ、互いの想いをかけて1ON1勝負をした関係だ。
もしかしたら海夏は、真子がどう動くかあらかじめ読んでいたのかもしれない。
……いいや、それどころか海夏には敵チームの動き全て予測出来る才能があるかもしれない。
もちろん「日本中全ての敵チームの選手」という意味ではない。この「中種子南小学校の選手」限定で、だ。
初対面の敵では、そう敵の動きを読めるものではないが、慣れ親しんだチームメイトならば、プレイングのクセが読めて来るものだ。
海夏は周囲と仲良くする為、気を遣うタイプの子だ。その性格上、チームメイト全員の思考を読むのに長けているのかもしれない。
そもそも、海夏は夏休み前までは、ベンチ入りすらしていなかったのだ。
バスケにおいて、スタメンとベンチ含めた、試合に参加出来る人数は、だいたい14名。海夏はこの中にすら入っていなかった。
だが現在は、聞けばシックスマン……6人目まで上り詰めたらしい。上位14位圏外だったのが、6位へ。
夏休みの特訓の成果もあるだろうが、明らかに女バスキャプテンである真子に勝利した事が自信となっている。
自信とは、いわば人生の「流れ」のようなものだ。「流れ」が良い時、人間の能力は高まる。
今の「自信を手に入れた海夏」は、「対戦相手のチームメイトに動きを合わせる」事が出来る程に、能力が極まっているのだ。
それが海夏にあって俺にはないもの……それは、「仲間の動きに合わせる能力」……。
この試合において「仲間の動きに合わせる」は、「敵の動きに合わせる」という意味も含む。チームメイトは全員「仲間」なのだから。今の「自信を手に入れた海夏」は部内試合において、対外試合以上の動きを発揮できるのかもしれない。
カットボールからの、俺達のオフェンス速攻。5人全員が走る、走る、走る!
俺が一番先頭を走っている。後ろから俺がマークしていた真子が追いかけて来る。
後ろを走る、ボールを持つ海夏。
ー次の瞬間、海夏はとんでもないパスを俺に送ったー。
「先生! アリウープです!!」ーボールを、ゴールより高い位置に向かって投擲したのだ。
槍投げ選手のような投擲。槍の如き鋭いパスが、俺の頭上へ迫ってきている。
仕方なしに、俺はその「槍のようなパス」に合わせ、跳躍。
空中でボールを掴みーそれをそのまま、リングへ直接ぶちこむ。
「ウソでしょ……アリウープ!?」「生で初めて見た……」ー観客達のざわめきが聞こえる。
アリウープー高く投げられたボールをジャンプして受け、着地せずにそのままシュートするプレー。
小学生で試合中にアリウープの出来る選手は、そうはいない。
シュートを撃つ側は勿論、パスを出す側すら。
「スゲエ怖いパス出すなウミカ……」
「先生なら取れるって信じてましたよ!」
(ウミカは……これからもっと成長するな……)ー予感した。
バスケにおいて、俺にあって海夏に無いものが「ダンク出来る程の身体能力」だとしたらー、
海夏にあって俺に無いものは、「仲間の動きに合わせたパス」……なのだろう。
その後も、海夏のパスは俺達四人を導きー、
試合は、「2軍チームがスタメンチームに勝利」という形で終えた。
この試合の後、俺は監督から「来週もまたお願いします」と言われてしまった。
しかも「来週はこの体育館が使えないから」という理由で、「俺の家隣接のストバスコート」で練習する事となってしまった。
……だんだん、本物のバスケットコーチになってきているな、俺……。




