破:1話
■二話(破)
オレの名前は、島崎 秋也。中種子南小学校、六年二組の男子生徒だ。
クラスではアッキーってあだ名を付けられている。バスケクラブのキャプテンで、身長は百七十センチ。自分で言うのも何だけど、キャプテンとして皆を上手くまとめられていると思う。顔も学内でカッコいい方で、女子に告白された事もある。
最近、同じクラスで同じバスケクラブの野原 真子って子にコクられた。
嬉しかったけど、フッちゃった。野原は女子なのに身長が百七十もあるから、流石に異性としては見られなかった。顔も可愛いっていうよりは、カッコいい寄りだし。
それに……オレには好きな女子がいるんだ。野原にもそう言って断った。
小橋 海夏。小っちゃくて可愛い感じの女子。クラスの皆に優しい奴だ。
だから競争率は滅茶苦茶高い。クラスの男子どころか、もしかしたら六年生の男子全員が小橋の事を好きかもしれない。
けど、勝算はある。自分で言ってて恥ずかしいけど、オレってモテる男子だし。
小橋には、バスケの自主練中、積極的に声を掛けてアプローチしてきた。小橋は正直、下手だから、「バスケ教えてやる」って建前で近づいて、かなり距離を縮められたと思う。
ーと思った矢先、小橋は不登校になってしまった。女子達が小橋を無視するようになったのが原因だ。もしかして、オレが小橋の事を理由に野原をフッたのが何か関係してるのかな? と思ったり。野原って、クラスの女子達の女王様的な雰囲気あるから。何なら、バスケクラブ内でも女王っぽい。
結局、そのまま夏休みに入ったので、二学期になるまで小橋に会えなかった。
それが何故か二学期になって、ちゃんと学校に来るようになった。何故か女子達は今まで通り、小橋に話しかけるようになった。野原の奴も、前より小橋に対する嫌悪感を見せなくなった気がする。
それどころか、野原の女王様気質までも最近消えたような……。アイツ、前までバスケクラブの練習中、後輩がミスると「何やってんだよ!」ってマジ切れしてたのに、そういうのが無くなった。平たく言って、夏休み前より性格が「丸くなった」。
バスケクラブと言うと、野原の変化より驚くべきなのは、小橋の変化だ。
引っ込み思案なプレイスタイルだった小橋が、積極的に攻めるようになったんだ。
不登校になる前までは、下の学年の子に負けるくらい下手くそだったのに、この二学期からは滅茶苦茶上手くなった。フローター・シュートを見せられた時には目玉が飛び出そうだった。もしかしたら、キャプテンである野原の次くらいの実力になったかも。
……まさかと思うけど、オレより上手くなったなんて事は無いよな?
ーいったいこの夏休み中、野原と小橋の二人に何があったんだー?
十月に入って、秋の紅葉で種子島が染まる季節。
今日オレ達「中種子南小学校バスケクラブ」は、男バス女バス共に、大人達の試合を観戦しに、種子島中央体育館に来ている。中種子町にある、島で一番大きい体育館だ。
社会人バスケクラブの試合を見に来ている。プロって訳じゃないけど、「オレ達の為になるから」ってコーチが言うもんだから、仕方なく来させられた。オレ達は二階の観客席から、一階のコートで五対五の試合を繰り広げる大人達を見ている。
今は決勝戦。その中に一際目立つ選手がいた。とても小さい選手で、多分オレより背が低い。
そんな低身長選手が一人で七十点以上得点を決めている。無双状態だ。
大会冊子を開いて選手情報を確認すると、「身長:百六十五センチ」「ポジション:スモール・フォワード」「名前:渡 春」という情報が載っていた。
渡 春ーていうか、オレの塾の先生だ。小橋と野原と同じ塾の先生。
渡先生、バスケ上手いとは聞いてたけど、ここまでとは……。
あの身長でダンク出来るジャンプ力。全く外さないシュート成功率。脚も速い。
普通、大人のバスケで百七十センチ無いと嫌でもガードをやらされる事になると思うのだけど、あの人はフォワード……それだけでもかなり珍しい選手。
彼にボールが渡ると、そのまま一対一で敵を抜いて得点を決めてしまう。
竜巻のようなプレイスタイル。敵のゴール下には百九十センチはある長身選手達がいるのに、ダブルクラッチを駆使して強引に得点してしまう。
とその時、オレの座る席から七つ隣にいる小橋と、彼女の隣に座る女子の会話が聞こえた。
「ウミカちゃんの先生スゴイね! あんなスゴイ先生から教えて貰ってたから、ウミカちゃんもスゴく上手くなったんだね!」「う、うん……。先生、スゴイ……よね……」
そーっと、七つ隣の小橋の顔を覗くと、顔を赤らめていた。
何ていうか……恋する乙女の表情……っていうのかな? この顔。
(ウソだろ? 相手大人だよ? てか、渡先生から教えて貰ったって何だよ?)




