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第8話:ポット

 ある日の授業中の事だった。

 その日の課題は、午前中に薬草を入手し、午後にポット──所謂、ポーションを作ると云うものだった。


 午後になり、一部の学生に問題が起きた。

 ──午前に十分な量の薬草を入手出来なかったのだ。


「何だと?馬鹿者!早く報告せんか!」

 

 そのグループは、全員が叱られる事態となった。

 曰く、報・連・相は重要であるとか、そもそも、薬草の生える環境を調べなかったのか、とか。

 そして、報・連・相が確りしていれば、そもそも学園の薬草園で調達出来たと云う話になるのだが。


「まぁまぁ、先生。そこまで怒らなくてもいいでしょう。

 薬草なら、私の方で用意出来ますし」


 薬草園の薬草を使うには、事前の許可が要るとあって、強く叱ろうとした先生を、グラハムは宥める。


「で?ドレが何の位足りないの?」


「それが……」


 学生の手元にあるのは、大松菜・小春菊・鳳蓮草が、各ポット一本分がやっとと云う分量であった。この課題は各自一本のポットを念の為に所持しておくのが目的であるので、6人のグループでは足りないにも過ぎる。


「うん、薬草が一般的に野菜として売買されているのが判らないと云う事は判ったよ」


「──え?」


「まぁ、野生の薬草に比べると、薬効がイマイチだけどね。

 でも、売っていて買えると云う事実は知っておいた方がいいよ?」


 そう言って、グラハムは空間魔法を行使して薬草を5人分、取り出した。


「コレを使ってね」


「はぁー……。グラハム君は甘過ぎます!

 もうちょっと、確り叱っておかないと──」


「先生。学生時代、人の事を言えたような事を──」


「わーーーー!!

 教授、話はコレまでに!」


「うん、そうしようか」


 グラハムとしては、ただ叱れば学ぶと云う事にはならないと云う話をしたかったのだが、コレまでにと言われれば、素直に話を切り上げる。


 先生側としては、一人一本のポットの存在の有り難みを思い知らせたいのだったが、過去の自分の恥を(さら)されるのでは先生としての威厳を失う。

 彼もまた、『黄金世代』の学園生活を卒業した後に学園の先生になったのである。『黄金世代』と云えど、誰もが何かしらの弱みをグラハムに握られているのだ。


 ソレに、結果論、学生の全員がポット一本ずつを備える準備が調(ととの)ったので、当初の目的も果たせる。

 確かに、説教なぞに時間を費やすのは、時間の無駄であった。


「さて。俺も自分の分のポットを作りますか〜♪♪」


 そして、グラハム自身は、超高性能のオリジナルポットを作り始めるのであるし、ソレを分け与えたりする迄はしないのだが、レシピは気になる者には教えるのであった。


「何だ、あのポット、光ってるぞ?!」


「オリジナルレシピ?──は?ポットの作り方って、色々あるの?!」


「は?オリジナルのポット作って、課題達成になるの?」


「ああ、実用に耐えればポットはポットで変わりないのか」


 等とヒソヒソ話し合われ、グラハムは何時(いつ)ものことと聞き流した。


「グラハム君……、そう簡単に伝説レベルのポットを作られても、評価に困るのだがねぇ……」


「毎度の事でしょう。

 適当に評価して、もし希望されるなら、お買い取り頂いても構いませんよ?」


「うーん……そうするか」


 そして、毎度の事ながら、学生の中から、勇者が現れるのだ。即ち──


「あの……ポットの作り方、教えて頂けませんか?」


 そう、あの特別なポットのレシピを訊き出そうとする、勇者が。


「構わないけれど、一応、先生に教えを請うて、ソレで満足出来なかったら、先生の許可を得てからにして貰えるかな?

 レシピは公開出来るけど、入手の難しい薬草もあるし……」


「判りました。

 先生ー!」


 そして、こうして毎度、先生の負担が増えるのだ。

 勿論、オーバーワークにはならない。

 それでも、先生の側からすると、尻拭いせねばならない事は確かで、このグラハムの申し出は厄介の種だ。

 そして、それでも学生達が高品質のポットを作れるようになるのは、国の利益であり、先生は秘蔵のレシピを公開するのだ。

 高い授業料を払っている学生には、その位のメリットは欲しいし、何より、作ったポットが僅かにでも光るのなら、ソレは一見の価値がある。


 ただ、ココで毎度起きる問題は、『どうやってポットに魔力を与えるか』と云う方法論であるし、ソレに関しても、グラハムの発見した技術は役に立つ。


「いいか、ポットの材料が揃ったら、同じ価値同士のコインを()って、全部粉末にして混ぜるんだ。

 この方法なら、魔力を直接的にポットに混ぜられる」


 同じ価値のコイン同士を擦り続けたら、最終的に10分程で全て粉末になる事は有名だ。

 だが、その粉末の使い(みち)として、ポットに混ぜるのは、学園で先生かグラハムに教わった者しか知らない。

 何故ならば。


「いいか、この方法は、余り有名になり過ぎると、他国にバレる。

 その場合、戦争になった場合にこの方法によるポットが相手にも使われてしまう。

 だから、知っている事そのものを、例え目上の者や家族にも教える事は禁ずる」


 そして、先生は直ぐにその場で契約魔法を行使して、クラスの全員と、情報漏洩の無いように魔法でそのポットの技術の全てを、他人に伝わる可能性のある行いを禁じた。


 コレには例外的に、学園の授業で先生から教える事は封じていない側面があるので、技術の遺失を防ぐ役目まで果たすものだ。


 故に、勇者のお陰で、万が一、ポット作りを始めとする技術の講師の枠が空いた時に、雇って貰える可能性がワンチャンス残される。

 尤も、他の技術も高くなければ、競り合いになった時に勝てない。

 だから、学園の講師に憧れる者は、こう云った技術の類を他の学生以上に熱心に習得するのだ。


「以上。他の薬草を使う事もあるけれど、基本的に、高品質のポットを作るには、コインの粉末を混ぜるのが基本。

 因みに、クリアーマナコインでも大丈夫だよ!」


 そして、グラハムは此れ等の情報を、秘匿するつもりも無いのであった。勿論、他の教科でも……。

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