第23話:対黒龍戦
「ハァッ、ハァッ、ハァッ──ッ!」
トーマス先生は、何とか黒龍を往なしながら、あわよくば逃亡を試みていた。
人里からは遠い。しかし、黒龍の出現情報など無い筈の場所だった。
グルルルル……。
「畜生!見逃すつもりはねぇ、ってか!」
生徒は、帰還魔法で帰し、情報だけ広める約束だけしてあった。
「間に合わねぇか!畜生!
グラハム!ヒーローなんだろう?
ああ、俺がヒロインじゃねぇ、ってか?」
トーマスは横穴を見付けて、一か八か、黒龍が見逃すのを狙って、視線の通っていないタイミングを見計らって飛び込んだ。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ──(呼吸音も抑えねば、気付かれるか!)」
口での呼吸を止めるが、今度は鼻が鳴る。トーマスは、口と鼻でゆっくりと深く呼吸をして音を抑える。
黒龍が通り過ぎるかと思った瞬間、黒龍は気紛れに横穴の奥を覗き込み、トーマスには黒龍が笑顔を浮かべたように見え、ブレスを吐くためだろう、息を深く吸い込んだ。
「畜生──」
トーマスは最期を覚悟した。直後。
トーマスに掛かる勢いで、少し粘性のある液体が飛び散った。──血だ。黒龍の。
「奇襲に成功すれば、黒龍も頸をひと薙ぎ、か……。
さてと。トーマス先生は……居た!」
黒龍の頸を上空から落ちる勢いを活かして一刀両断したグラハムは、横穴に気付き、疲れでぶっ倒れたトーマスを発見した。
「自分から出て来てくれれば楽だったんだけど、まぁ、疲れ果てていれば仕方無しか。
ありゃ。左手が手首から先が無いぞ?
──で、ドラゴンの血はある、と。
最上級品の性能確認〜♪♪」
グラハムはトーマスを引き摺って横穴から出すと、瓶を一つ取り出してソレに黒龍の血を詰めて、蓋をして7秒待つと、ソレをトーマスの左手首に掛けた。
グロテスクな画が見えたものの、トーマスの左手は完全に治癒した。
「わぉ。流石、最上級品に黒龍の血。
治癒能力が半端ないね!」
グラハムがトーマスの安全を確信してから、まずは黒龍の血を確保した。超過最上級品の万能薬瓶を夢見ながら。
そして、血液を回収し尽くすと、黒龍の素材をそれぞれバラして収納していった。
全部回収すると、トーマスの意識が戻らない事を確認し、トーマスを担いで転移した。
あと2・3人、森で逸れた者が居たが、グラハムが無事に学園まで案内する。
そして、グラハムは黒龍肉でドラテキにして、試食する。
「うーん……白龍肉と比べて、固くて筋張ってて、儂的には白龍肉の方が好みだなぁ……。
あとは食べ比べていないドラゴン肉となると、『黄龍肉』と『時空龍肉』ぐらいじゃ。
レベルの上がり幅も、もう誤差の範疇だから、黒龍肉は売り捌こう!
意外と、脂っこい肉より好まれる年代があるかも知れない!
良しっ!売却用にだけ増殖させよう!
偶に珍味的に食べても美味しいかも知れないし!
うん、今回は一人の死者も出さず、任務完了!
売るって言っても、もうお金には困っていないんだよなぁ……。
そうだ!学園の食堂で、一日三食限定とかで、『黒龍ドラテキ定食』とかの為に提供しよう!」
そう言ってグラハムは学園の食堂に無償での提供を決めたのだが、そんなものを食べられるのは、考えなくてもエジソンとかやんごとなき人達に決まっていて、そう云う人達から見ると、何故グラハムがそれを食べないのかが非常に疑問だった。
それに関しては、グラハムは元々食べたことのある中で一番美味しいと思う白龍肉を食べていた事は秘しておきたい事実で、食堂のオバチャンもその切れっ端をミンチにしてハンバーグステーキにして食べていた事から、その情報は漏れようが無い事実だった。
因みに、黒龍は今回狩った事から、グラハムは召喚可能になっていたが、バレたらとんでもない事になる事から、グラハムはその情報も秘した。
今回の『黒龍事件』での最大の受益者であるエジソン達のパーティーは、「これはとんでもない事になる」と『黒龍ドラテキ定食』を独占し、女性陣から優先的に、順々に食べて、後にとんでもない力を手に入れるのだが。
流石に、グラハムには敵わない事は判っていたので、黙ってその恩恵に享受するのであった。
尚、トーマス先生も、一度『黒龍ドラテキ』を食べてみたい!との強い要望があったので、その分の肉はグラハムが差し出した。
何と言っても、指導される側の学生に被害者が出なかったのは、トーマスの立ち回りが良かったからである。
流石に今回の『黒龍ドラテキ』の一件は、トーマスの手柄に対する報酬として相応しいと思われていた。
又、学園の教師側の戦力として、元々トーマスはドラゴン肉の愛好家として頭一つ抜き出た強さを誇っていて、『黒龍ドラテキ』の一件でその実力の差が顕著になったが、唯一、学食のオバチャン達には敵わない事を知る者は、グラハム一人である。
だから、トーマスが道を誤ったら、学食のオバチャンのビンタ一発で叩きのめされ、崩れ落ちて悔い改めるであろうが、トーマスは美食家ではあるが同僚に対しては控えめな性格であったし、学食のオバチャンとのバトルも恐らく起こらないだろうと云う程度の信頼はあった。
学食のオバチャンは、そこまでの強さを得ていると云う自覚は無かったし、暴走する可能性は低かった。
まさか、そこまで全てグラハムの計算通りと云う事実に気付いている者は、今のところ誰もいなかったのだった。




