第22話:とんでもない物
ある日、エジソンが例の瓶を持って、慌ててグラハムの前に現れた。
「教授!コレ、とんでもない物じゃないですか!」
「うん、だからそう説明したよ?
何かあったかい?」
エジソンの慌てた様子に反して、グラハムは食堂の席に座って落ち着き払っている。
「『狩り』に出掛けて、バジリスクに出会して、二人が石化したんですよ!
でも、『狩り』そのものは成功して、バジリスクって蜥蜴の一種じゃないですか、その血をこの瓶に入れて、7秒待って石化した2人に掛けたら、石化が治ったんですよ!」
「うん、万能薬だからねぇ。バジリスクの血なら、石化位は治せるだろうねぇ」
「はあっ?!その程度の認識でございますか!?」
驚きを隠せないエジソンに対して、グラハムは如何にも当然のようにこう言う。
「だって……万能薬って、そう云うものでしょう?」
「はあ。……まぁ、そうでございますけれども」
エジソンはじっと瓶を見詰める。
「例えば、人間の血を使って『万能薬』は出来ますか?」
「出来るねぇ……。特に、辰の年・辰の月・辰の日・辰の刻に関わる血は、特に効果的だねぇ」
「……例えば、出血が酷い怪我人が居て、その血をこの瓶に溜めて、7秒待って飲ませたら、治りますか?」
「治るねぇ。本人の血なら、尚更効果的だよ」
「……ッ!……その多過ぎる出血によって、本来であれば死ぬであった怪我人であれば?」
「体内から、血の材料を集めて補充されるから、生き残るねぇ」
エジソンは、もうこうなったらと、ぶっちゃけて訊いてみる事にした。
「……実際のところ、お高いのでは?」
「ん?非売品だよ。
値段なんか……。付けられる訳が無いじゃないか。
血液を入れて7秒待つだけで万能薬が出来るんだよ?
万能薬の量産なんて、至極簡単じゃないか!」
「……!そうか!ああ、成る程!そう云う事かぁ。
いやぁ、確かに非売品でございますね!
……ところで教授。『皇帝』の地位にご興味はございませんか?」
「ああ、分かりやすく『頂点に立つ』と云う目標を達成出来る方法だから、一応の興味はあるよ?」
「……よろしければ、卒業後に僕を娶って頂ければ、『皇帝』の地位は比較的簡単に──」
エジソンの思い切った発言を、グラハムはこう笑い飛ばした。
「ハハハッ。その手段が修羅の道であることを悟っていなければならない君がそう云うとは、コレは滑稽だ!
エジソン君。その言葉、二度と口にしない方が良いよ?
でないと、兄君から生命を狙われる口実としては、大義名分が立つレベルで当然だ!」
「……そうですか。
僕、もしかして消されます?」
「他の誰かの耳に届いていれば、そうなる可能性は高いねぇ」
その言葉に、エジソンは急に不安になり、モジモジとしながらこんな言葉を投げた。
「他の誰かに、聞かれた可能性は高いでしょうか?」
「ん?否、多分、他の誰にも聞かれていない」
「あの!……この話、ご内密に願えますか?」
「ん?ああ、全然構わないけれども」
エジソンはパァッと顔を明るくして、こう告げた。
「良かった!それなら、まだ暗殺される可能性は低い!……多分」
後半は、自信無さげな雰囲気だったが、グラハムは敢えて指摘しない。
「暗殺はされないよ、多分。
君の名は、強いからね」
「名?……名前?
名前がそんなに影響がありますか?」
「ある!割と洒落にならない。
『エジソン』は偉い人の名前だ。
もしかしたら、下手に画策しなくても、さっきの話が現実になるよ?」
つまりは、グラハムがエジソンを娶っての皇帝即位と云う話だ。
「……それが現実になるのでしたら、願ってもない話になるのですが」
エジソンは瓶をギュッと抱き締める。
「僕、実は男になるのは嫌なのです」
「ああ、性転換魔法を使ってまで、皇帝の座に就きたくは無い、ってことかい?」
「はい」
素直に認めた後に、エジソンは理由を述べる。
「ぶっちゃけて言えば、『エジソン』って名前も男らしくて可愛気が無いと思いますし、ファッションも女性らしい服装とか、化粧とかに興味があるんです。
でも、何ていうか……女の子が好きで、恋人として付き合うのではなく、友達として多くの女の子と仲良くなりたいんです。
それこそ、男になったらハーレム願望を持つ位には。
でも、その……男女の関係にならなくて良いっていうか、遊び相手としては求めているのですけど、身体の関係は求めていないんです。
でも!
……その、教授みたいな外見だけじゃなく、心の中身も大人で立派な男の人は、嫌いでは無いですよ?」
そう言った後でエジソンは、「今の無し!忘れて下さい!」と赤面しながら取り消した。
「そう言えば、この瓶、作るのは大変なんですか?」
「否?表面の保護が重要なだけで、『龍血魔法文字命令』の記述もシンプルで、『龍の血を以て7秒で全ての傷と病を治す薬と化せ!』って内容の文を、龍の血で瓶の表面に描くだけ。
だから、『龍の血』で書いてある時点で、実は水でも僅かな治癒能力を発揮するんだ」
と、そこまでグラハムが言った後に、唇に人差し指を当てて、エジソンを口止めした。
「──ホントだって。実習の最中に成体の黒龍が現れたんだって!」
そう、廊下の方から声が聴こえてきた。
「マジか。で、お前は逃げて来たの?
その後、黒龍は?」
「その後、って云うか、現在進行形で、トーマス先生が引き留めてて、救援を呼ぶように学園内の至る所でこの話を大きめの声で噂話しろって──」
グラハムは席から立ち上がり、エジソンの肩に軽く手を置いた。
「聞いたね?
儂はトーマス先生を助けに行く」
「し、しかしっ!黒龍を相手に戦って勝てるのですか!?」
「──白龍肉で一日50Lv。黒龍肉なら、一日100Lv上げられるんだ。
モノの話に拠れば、黒龍肉を常食して、未だ『主人公格』の強さに届かないと云う。
一度手に入れてしまえば、無限に増殖出来る。
コレは、トーマス先生にとってのピンチであると共に、儂のチャンスなんぢゃ。
チト、活躍しに行ってくる!」
「……必ず、生きて帰って下さいね!」
「当然!
じゃあ、な!」
グラハムはその場を瞬間的に去り、エジソンはチト混乱し掛けた。
「黒龍肉を常食して未だ足りない、って……。
グラハムさん、何処を目指しているんだろう?」
グラハムが残っていたら、きっとこう言っていたであろう。
即ち──『最強』と。




