第18話:蜂蜜採取
「蜂蜜採取?!」
グラハムが、ある日エジソン達に協力を求めたのは、蜂蜜採取に関してであった。
「うん。売って良し、食べても良し、お菓子の材料にも良しと、中々の獲物だよ?」
「その……、蜂の巣から、奪うんですよね?」
「巣箱は用意してあるから、中身の入れ替えをして、蜂蜜だけ頂く形だよ?」
「──は?
その、教授。蜂蜜を養殖しているのですか?」
「大した事はしていないよ?
それより、対価は現物が良い?それとも現金?」
「──現物でお願いします!」
結局は女の子。エジソンは甘いモノに目が無いのだった。
「巣箱を用意した分、半分は権利を主張するけど、残り半分を五人で分けて貰って良いかな?」
「十分です!」
グラハムは、エジソンによる職権乱用によって、分けた蜂蜜を独占しないだろうな?と疑問に思ったが、その時はエジソンの器がその程度でしかないのだろうと判断する事にし、本人の責任にしようと思った。
グラハムはこれまでの経験から、蜜蜂への対策は必要無いと思っていたが、エジソン達は不安だろう。
幸いにも、蜂蜜採取の初期に使っていた防護服が、六着ある。五人に使わせても問題無い。
「防護服、要るよね?」
「ハイ、あるのでしたら。
……?教授は使わないのですか?」
「うん。必要無い事が判明してね」
「は……?刺されるのでは?」
「それが、習慣化したら刺されなくなったんだ」
「──僕たちは刺されないでしょうか?」
「その保証が無いから、防護服を貸し出すんだ」
「──何故、教授は刺されないのでしょうか?」
「うん。そう云うものだと蜂が理解したんじゃないかな?」
「理解?!
蜂に、そんな知能が!?」
「『群体の知能』だろうけどねぇ……」
「は?──『群体の知能』!?」
「うん、多分ねぇ……」
多分と言っているからには、実証はしていないのだろう。仮説は立てているだろうが。
「ハチノコは要る?貴重な蛋白源だよ」
「うっ……、食べるのですか?
僕は要らないです」
エジソン、ナイチンゲール、キュリーは断ったが、リンカーン、ケネディは要ると言った。断った三人分も、グラハムは二人に渡そうと思っていた。
ローヤルゼリーは、分け与えるには余りにも採取量が少なく、分け与えられない。
蜜蝋は、多分、断らないだろうと判断して、後で渡すとして。
グラハムは防護服をインベントリから取り出して五人に渡した。
「収納魔法ですか、便利ですね!」
「ああ、習得するのは非常に困難だけどね。
何せ、習得時間の確保の為に、先に時空魔法を習得した位だからね」
「それは……大変な手間ですね。
何年ほど掛かりましたか?」
「時空魔法を極めるのに丸々六年。
収納魔法の固定化……インベントリの習得に、相対的時間にして約一垓年。
尤も、相対的時間を計る時計は存在しないから、体感時間だけどね。
絶対的時間にして、一晩なのだから、一番の敵は孤独さ!」
何処迄が本気なのか、本人以外には判らない。
もしかしたら、100%本気なのかも知れない。
だが、『相対的時間の流れ』は、本人以外には知覚出来ない。
だから、『相対的時間の流れ』を計れる時計も在りはしない。
そして、本気でインベントリの獲得に一垓年が必要ならば、確かに時空魔法を極めねばならぬだろう。
つまりは、時空魔法を極めるのにグラハムが要した6年は必要になる。
その先に、相対的時間の流れの制御、即ち『ヘイスト』の魔法の行使によって、一垓年の努力の必要がある。
それはともかく、今は蜂蜜の採取だ。
五人は防護服を着込んで、グラハムに付いてゆく。
蜂箱は、ラベンダー畑に設置されていた。
「ラベンダーの蜂蜜ですか。香りが強そうですね」
「他の場所にも設置しているんだけど、今回はココだけのつもりだよ」
グラハムは無防備に巣箱へと近付いてゆき、天板を剥がした。
そして、差し込まれた巣板を取り出し、五人に渡してゆく。
「巣板から蜂を完全に追い払って、コッチに持って来て」
グラハムはまず巣板からハチノコを採取し、巣板を遠心分離機に差し込み、グルグルと回して下に置いた洗浄済みのバケツに落としてゆく。
そうして蜂蜜を採取したら、巣板から蜜蝋を剥がす。単独で食べて美味しいものではないが、一応、食べられる唯一の蝋だ。
そして、全部の巣板を捌くと、王台から僅かなローヤルゼリーを採取する。重さにして、僅か0.2gである。
「蜂蜜は瓶に移して半分に分けるよ。五人で五等分するなら、そのように瓶に分けて渡すから。
あと、蜜蝋も半分分けるから、五等分して。
ローヤルゼリーは、流石にこの量を分けるのは厳しいから、俺が全部頂くよ。
そうだねぇ、一人1kg位の量が当たる筈だよ」
危険度には相当する量だろうが、働きに比べると随分な蜂蜜を貰える事になる。
そして、巣箱は一つじゃない。
今日、採取するのはその量であって、次も誘って貰えるのなら、また同じ位の報酬が得られる筈だ。
そうして、グラハムは仲間を得ていくのであって、ソレラの話は、エジソンから口止めされる四人であり。
美味しいところを内緒で貰っていくエジソン君だが、そもそも他の学生は知らないので、ズルいとは、他の学生からは気付かれない。
そもそも、グラハムの秘密の活動が、イチイチズルい行ないであり、人によって多少の差はあるが、その恩恵には知らずに預かっている。
例えば、グラハムは得た蜂蜜を食堂のオネーサンに売却して、ハニークッキーがお菓子としてメニューに乗り、評判の良い商品となるのだ。
蜜蝋は蝋燭にしても構わないのだが、折角可食品であるのだ、グラハムはラム酒を手に入れ、『カヌレ』として菓子化し、表面に塗って食欲を唆るお菓子とするのだ。
数量限定とは云え、、ある程度経済力のある学生の、ご褒美スイーツとして、好評を得るのだ。
だが、ソレがグラハムの手によるものと知る者は少なく、グラハムはこっそりと学園の学食のメニューに貢献するのだった。




